監督フィリップ・ノイス 出演 アンジェリーナ・ジョリー、リーヴ・シュレイバー、キウェテル・イジョフォー、ダニエル・オルブリフスキー
でたらめな映画である。こんなこと、できるわけないだろう、ということを平気でやっている。それがおもしろい。
成功の要因はただひとつ。アンジェリーナ・ジョリーが主演であるということ。アンジェリーナ・ジョリーでなくてもいいが、女優であること--これがこの映画の成功の理由である。
スパイもの。それもスパイアクションとなれば、男が定番だった。ショーン・コネリーからマット・デイモンまで。男が体を張って動く。(ショーン・コネリーの場合ははげしい動きではなくセクシーな抑制された動きの方が重要なのかもしれないけれど。)
女優と男優とどこが違うか。
私の偏見が含まれているかもしれないが……。
たとえば高速道でのカーチェイス。車から車への飛び移り。これがマント・ディモンが主役なら1回しかない。1回、走る車から別の斜線の車の上に飛び移るというシーンをとったら、2度と類似のシーンはないはずである。そんなこと、できるわけない。うそだろう。そう観客が思うことは1回きり。これが原則。
ところが、これが女優なら2回、3回あってもいいのだ。どうせ、うそ。うそだろう。でも、もう1回やってみせて。次はできるかな? えっ、また、できた? うそだろう、うそだろう、そうだろう。--そうやって積み重ねて、うそが「ほんとう」になる。これは女優がまだそんなことをだれもしていないからだね。
それにねえ。
いやあ、がんばっているのだけれど、やっぱりスピードがちょっと鈍い。スタントマンのふきかえもあると思うけれど、肉体の動きがマット・デイモンなんかの映画とはすこしだけスロー。
これが意外に効果的。
最近のアクションは速すぎて、見ていて肉体がついていかない。いっしょに動かない。アンジェリーナ・ジョリーの動きについていけるかというと、実際にはあんなふうに走ったり殴ったりはできないのはわかっているけれど、マット・デイモンの動きに比べるとついていける。カメラの切り返しも、そんなに速くない。
で、うそだろう、うそだろう、と思いながらも、なんとなく自分がアンジェリーナ・ジョリーになったような気分になれる。
昔、やくざ映画を見たあと、映画館からでてきた客がみんな肩で風を切っていた--というような感じだね。
やってみたくなるじゃありませんか。
特に、最後の方、手錠もかけられ逃げられない。そこに敵の男は鋏(?)か何かの凶器を隠し持っていて、すれ違うときに刺そうとねらっている。それを、ね。手錠の鎖(?)を利用して、そこに相手の首をひっかけ、廊下から一階(?)へ飛び降りるようにして、いわば首吊りにする。アンジェリーナ・ジョリーが自分の体重を利用して男の首をしめる。
あ、かっこいい。
やれそうに見えるでしょ? 武器が何にもなくても、自分の肉体と知恵で相手を殺す。見事ですねえ。
これが男だったら、あの首吊りシーンも一瞬。アンジェリーナ・ジョリーは女。首吊りといっても体重がちょっと軽い。だから、それを補うために、廊下の手すりというか、下の部分を利用して、体をてこのように動かして、首吊りに重さを加える。一生懸命、首を締め上げるシーンが追加され、そこで何が起きているかがはっきりわかる。ゆっくり納得できる。
すごいなあ。
あんなふうにやってみたい、と思うでしょ?
夏休みお薦めの映画はこれかな。
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