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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ペドロ・アルモドバル監督「パラレル・マザーズ」(★★★★)

2022-11-05 18:13:09 | 映画

ペドロ・アルモドバル監督「パラレル・マザーズ」(★★★★)(2022年11月05日、キノシネマ、スクリーン3)

監督 ペドロ・アルモドバル 出演 ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット

 この映画のいちばんの見所は、ミレナ・スミット。10代のシングルマザーの役。アルモドバルが手抜き(?)して撮っているイントロダクションの部分は、いや、ほんとに顔見せ。ペネロペ・クルも、ここは単なる「導入部」という感じで演じているので、見ている私も「これは物語を説明するだけのものだなあ」という気分で見ているし、ミレナ・スミットをちょっと変な顔だなあ。アルモドバルは変な顔の女が好きだからなあ、という中途半端な感じで見ていたのだが……。
 自立して、カフェで働き始め、ペネロペと再開するところからがぜん輝きだす。髪を切り、染めて、一瞬だれだかわからない。ペネロペが「アナなの?」と言って、そのことばで、あ、ミレナ・スミットかとびっくりする。この激変の過程には、過酷な「過去」があるのだが、その「過去」がペネロペの秘密と重なっていく辺りが、見物中の見物。
 いいですか?
 役者というのは、脚本を読んでいる。つまり、ストーリーを知っていれば結末も知っている。それなのに、ストーリーも結末も知らないふりをして演じないといけない。「秘密」はほんとうはペネロペとミレナに共通するものだが、秘密の「ほんとう」を知っているのはペネロペだけ。ミレナは知らない。その「知らない」を、きちんと演じないといけない。その「知らない」ミレナにペネロペは、真実を言うべきかどうか苦悩する。ペネロペの役は、演技の経験がない私がいうとヘンだけれど、役者なら演じることができる(と思う)。苦悩には、だれでも同情してくれるしね。ペネロペが涙を流すのを見て、笑い出す観客はいないだろうからね。
 真実を知らないまま、言い換えるとペネロペの「秘密」にあやつられる形で、ミレナは立ち直っていく。この過程がとってもおもしろいし、そこに嫉妬がからんできて、ミレナがペネロペを翻弄してしまうシーンなど、これ演技? と思うくらいの迫力。演じるのはペネロペであって、ミレナの実際の動きはほとんどないのだけれど、そのペネロペの変化を引き出している「存在」としての、なんともいえない「存在感」がすばらしい。
 そのあと、ミレナはペネロペの手を離れてというか、ミレナがペネロペを切り捨てて、さらに自立していくのだが、これを、もうペネロペは止めることができない。ペネロペは感情の揺れというか、感情を演じているのだが、ミレナは感情だけではなく「意思」をも演じている。
 これがね、ほんとうにすごい。
 意思を持たなかった女が、意思を持って動き出すというは、昔で言うとジェーン・フォンダが巧みに、演じて見せたが、ふとそんなことも思い出してしまうのだった。これからのアルモドバルの映画の「宝物」になるかもしれない。演じているではなく、「意思」が生きている、という感じがするのである。「意思」がそこに存在するなら、「感情」の変化など、演じなくてもいいのだ。感情は、彼女のまわりが(たとえば、ペネロペや母親が)演じて、そこに「世界の陰影」を反映すればいいのだ。

 最初と最後に、スペイン内戦のことが少しだけ出てくる。これが私には、かなり強引に感じられるが、内線を生き抜いた女性を描くのが、これからのアルモドバルのテーマなのかもしれない。戦争は戦う男の視点で描かれることが多いが、内戦で死んでいく男を見続けた女の姿をアルモドバルは、どう描くのだろうか。ミレナ・スミットが中心人物を演じるだろうなあ。早く、それを見てみたい。

 


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