林嗣夫「白い雲」(「兆」195、2022年08月05日発行)
林嗣夫「白い雲」。「気がついてみたら」とはじまる詩を、気がついてみたら読んでいた。こういう詩である。
気がついてみたら八十歳を越えていた
それがどうした、ということだが
さすがに世界が緩みはじめている
時間というものが
水のように透明で柔らかだったのに
いま砂つぶのように音をたてている
ことばはせわしなく湿ったり 乾いたり
想像力も on off on off
とぎれとぎれに散っていく
ところがある日 空を見上げたら
ただ浮かんでいるだけの白い雲が
初初しい姿に輝いていた!
こんな日も あるんだなあ
ここでおわっても、私はいい詩だなあ、と思う。何かを見て「こんな日も あるんだなあ」とうれしくなる。それで十分。
でも、林は、このあと2行を追加している。
さて、なんと書きます? あなたなら。
そばにひとがいて
手をつなぎたくなるような
私は、とてもうれしくなった。感動した、と書かずにはいられない。なぜなのか、よくわからないし、なぜは考えなくてもいいのかもしれない。
「こんな日も あるんだなあ」のあとに、私はどんなことばをつづけられるかなあ、とぼんやり思うだけでいい。