聴こえてくるのは 谷内修三
聴こえてくるのは 朝の雨、聴いているのは 朝の雨
手探りで枯れた枝の曲がった角度をゆっくりたどり
まだ暗い光のなか こらえきれなくなるまで膨らみ
たとえば閉ざされたガラス窓の虚無を白く映し
夢が落ちていくときの輝き 落下の垂直の無音
その音のない音を 沈黙を
眠る男はどこでそれを手に入れたのか
聴いているのは 朝の雨のその一粒
聴こえてくるのは レモンを断ち切る音、聴いているのは レモンの断面
オリーブのヴァージンオイルにほどかれる干しぶどうの襞
歯と舌のあいだでよみがえるミニトマトの記憶
チシャ パセリ カブのにおいと遠い国の岩塩の荒々しさ
一滴の酢の鋭い一撃
それらが男ののどぼとけの裏を通るとき
にぎやかに騒ぐいくつもの声 わがままな主張
聴いているのはサラダボールに残されたレモンの断面
聴こえてくるのは モーツァルト、聴いているのは モーツァルト
絃のなかを移動するかなしみのしなやかさ
休止のあいだに飛び込んでくる悪戯っ子のピアノに似た音
ではなく 台所で割れるいちばん繊細なグラス
ではなく 皿の上のフォークのつくりだす影
いまモーツァルトとともにあるすべてが
男の目のなかへ侵入するとき乱反射する色彩
聴いているのは モーツァルト、一月二十七日の朝のモーツァルト
聴こえてくるのは 雨、レモン、モーツァルト、聴いているのは 雨、レモン、モーツァルト
半分開いたカーテンとガラスに残る雨の足跡
女が座っていた椅子は角度がずれて女のカタチをあいまいに崩している
ナボコフの短編小説はとじられ ことばは帰る場所をなくしている
犬はなつかしいような疲れたような目で男をみつめている
そのとき男はどんな沈黙、どんな声帯、どんな色調になろうと考えているのか
聴いているのは 雨、レモン、モーツァルト
聴いているのは 雨、レモン、モーツァルト
*
フェイスブックでやりとりした八柳李花さんとの往復詩がとても楽しかったので、またやってみたいと思い、「第2弾」の相手を募集しています。
少し変則スタイルを考えています。
書き手は私を含め3人。先行する作品の最後のことばをタイトルにして書きはじめる「尻取り詩」を書いてみたいと思います。
1作目は上記の、私の「聴こえてくるのは」。
「尻取り」のルールは、最終行、最後のことば「モーツァルト」。
これが第2作目の書き手のタイトルになります。
作品の締め切りは先行作品の掲載後、1週間以内。
前回同様、名乗りを上げていただいた順に2名の詩人との「往復詩」を書いてみたいと思います。
フェイスブックから谷内修三→象形文字編集室と進み、コメントする形で書き込みをしてください。
作品は1週間後で大丈夫です。
まず、参加の意思をお知らせ下さい。
聴こえてくるのは 朝の雨、聴いているのは 朝の雨
手探りで枯れた枝の曲がった角度をゆっくりたどり
まだ暗い光のなか こらえきれなくなるまで膨らみ
たとえば閉ざされたガラス窓の虚無を白く映し
夢が落ちていくときの輝き 落下の垂直の無音
その音のない音を 沈黙を
眠る男はどこでそれを手に入れたのか
聴いているのは 朝の雨のその一粒
聴こえてくるのは レモンを断ち切る音、聴いているのは レモンの断面
オリーブのヴァージンオイルにほどかれる干しぶどうの襞
歯と舌のあいだでよみがえるミニトマトの記憶
チシャ パセリ カブのにおいと遠い国の岩塩の荒々しさ
一滴の酢の鋭い一撃
それらが男ののどぼとけの裏を通るとき
にぎやかに騒ぐいくつもの声 わがままな主張
聴いているのはサラダボールに残されたレモンの断面
聴こえてくるのは モーツァルト、聴いているのは モーツァルト
絃のなかを移動するかなしみのしなやかさ
休止のあいだに飛び込んでくる悪戯っ子のピアノに似た音
ではなく 台所で割れるいちばん繊細なグラス
ではなく 皿の上のフォークのつくりだす影
いまモーツァルトとともにあるすべてが
男の目のなかへ侵入するとき乱反射する色彩
聴いているのは モーツァルト、一月二十七日の朝のモーツァルト
聴こえてくるのは 雨、レモン、モーツァルト、聴いているのは 雨、レモン、モーツァルト
半分開いたカーテンとガラスに残る雨の足跡
女が座っていた椅子は角度がずれて女のカタチをあいまいに崩している
ナボコフの短編小説はとじられ ことばは帰る場所をなくしている
犬はなつかしいような疲れたような目で男をみつめている
そのとき男はどんな沈黙、どんな声帯、どんな色調になろうと考えているのか
聴いているのは 雨、レモン、モーツァルト
聴いているのは 雨、レモン、モーツァルト
*
フェイスブックでやりとりした八柳李花さんとの往復詩がとても楽しかったので、またやってみたいと思い、「第2弾」の相手を募集しています。
少し変則スタイルを考えています。
書き手は私を含め3人。先行する作品の最後のことばをタイトルにして書きはじめる「尻取り詩」を書いてみたいと思います。
1作目は上記の、私の「聴こえてくるのは」。
「尻取り」のルールは、最終行、最後のことば「モーツァルト」。
これが第2作目の書き手のタイトルになります。
作品の締め切りは先行作品の掲載後、1週間以内。
前回同様、名乗りを上げていただいた順に2名の詩人との「往復詩」を書いてみたいと思います。
フェイスブックから谷内修三→象形文字編集室と進み、コメントする形で書き込みをしてください。
作品は1週間後で大丈夫です。
まず、参加の意思をお知らせ下さい。