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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

渋谷美代子「朝から詩集を」

2016-07-08 10:56:18 | 詩(雑誌・同人誌)
渋谷美代子「朝から詩集を」(「YOCOROCO」7、2016年06月18日発行)

 渋谷美代子「朝から詩集を」は「紐しおり」が本につくりだす凹凸のことを書いている。最初は何かわからずに、その紙面に刻まれた曲線を「指でなぞりながら」ページをめくっているのだが、

半ばまできて ハハア
栞の紐が途中でくるん、とまるまっているのだ
ナルホドねえ、しばし眺めて紐をのばすと
いと愛らしき小ナスがふたつ
ここだけはくっきりと
紐の幅で刻印された両側のくぼみ
指先でそっとしごいてみても
厚さなどほとんどわからないあみ紐だ
こんなものがアトを残すのか

 何でもないことが淡々と書かれている。
 ようだけれど、
 「ハハア」「くるん」「ナルホドねえ」。渋谷が渋谷と「対話」している。その呼吸がいい。対話し、対話することで納得しながらことばが進んで行く。「くるん」という「口語的」「感覚的」なことばが、

       しばし眺めて紐をのばすと
いと愛らしき小ナスがふたつ

 あ、「文語調」をまじえて、「小ナス」という具体的なものにかわる。「しばし」もいいし、「のばす」という「動詞」もいいなあ。時間と「動詞」を書くことで、「感覚」だけではなく「肉体」全部が動いている。
 それから「指でしごいてみ」るという「動詞」へとつながって、

ここから先は
右のページはかすかにふくらみ
左のページはかすかにくぼんで

 「かすか」という「感覚」を媒介に「ふくらむ」「くぼむ」が動き、起伏する。どうしたって、指はそれをたどってしまうねえ。
 あえて途中を省略して(意味がわからないようにして)引用するのだが、

のであるが 人指指のはらでそろそろそろそろそろ
朝からアイラシイ曲線をなぞれば(こみ上げる
うふふ

 省略してあるからわからないはずなのに、何かが「わかる」。省略してある部分をぶっとばして「わかる」。
 これって、何だろう。
 渋谷の「肉体」が動いているだけなのに、ことばに誘われて、読んでいる私の「肉体」が動きはじめている。指の腹に、「かすかにふくらみ/かすかにくぼんで」動くものが行きはじめる。
 「いと愛らしき」と書かれていたことばが「アイラシイ」と、わざとカタカナに書き直される。イヤラシクなる。「わかるでしょ?」という感じで迫ってくる。
 「ハハア」「ナルホド」とカタカナで書かれていた「口語」が「うふふ」とひらがなに変わるのもいいなあ。
 文字までが交錯し、交差し、交わる。いろっぽくなる。
 と、書くと、書きすぎ?




暗い五月―渋谷美代子第二詩集 (1967年)
渋谷 美代子
思潮社

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