詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池田清子「もっと向こう」ほか

2024-03-25 18:21:09 | 現代詩講座

池田清子「もっと向こう」ほか(朝日カルチャーセンター福岡、2024年03月19日)

 受講生の作品。

 「三連目がユニーク。際限のない甘えが印象に残る。最後の一行で悲しさがあふれてくる」「一連目は谷川俊太郎みたい。最終連は、気持ちが解放されて書かれている」「すんだ青い空、純粋さが昇華されている。最終連の泣くには、泣いていられる喜びに近いものがある」「空を見たときのピュアな気持ちを思い出す」
 最終行の「泣こうか」は、受講生が指摘したように、「がまん」と「甘え」が交錯し、そこに不思議な美しさがある。
 三連目☆★彡とそれを取り囲む円。ここから何を感じるか。「絵画的」「視覚的」という声が多かった。「ことばにしなくてはいけないのに、ことばにできない」と作者は言ったが……。
 私は、この「ことばのない世界」を「絵画」というよりは、「音楽」として受け止めた。星の動く音が聞こえる。それはたとえて言えば「楽譜」のようなもの。散らばりながら、響き合う透明な音がある。それは「聞こえない」、しかし、逆に、その「音楽」になれていないので、ただ「聞こえない音楽(沈黙の音楽)だけが聞こえる」という印象がある。
 音譜の読み方をならったとき、突然、そこに音が存在しないのに、音が聞こえたときの驚き、文字をならったとき、そこに音が存在しないのに声が聞こえたときのような一瞬を思い出した。

ものがたり  杉惠美子

起点と終点を どこかで感じたいけれど
自分で 確かめられるはずもないけれど

        でも
自分をのせる舟に乗って
漂へる 寛やかな
河に出会い

その河の広さと深さに
満足しながら

ちょうど良いと感じる
速さと流れがあれば

それで良い

風にのって落ちてくる
木の葉とか
花びらとかを眺めつつ

うつらうつらと
夢見つつ

私を炙り出す
言葉を探す

 「起点と終点、感じたくないけれど感じた。『漂へる 寛やかな』ということばがあるが、その感じがよく表現されている」「タイトルがおもしろい。物語には起点と終点がある。三、四連目から河が見えてくる。最終連の『炙り出す』がいい」「自分の人生を題材にして詩を書いている。三、四連目の対句表現が自然でいい。対句がことばに流れをつくりだす。『花びらとかを眺めつつ』からつづく三行が心境をあらわしている」「風にのって漂う死のイメージがある。この世はまぼろし、はかない。それを越える明確な意思を最後の連に感じた」
 私も、河の描写、対句的表現がとてもいいと思った。「出会う」という動詞が、河を人間のように浮かび上がらせる。「広さと深さ」「速さと流れ」に分かれ、「満足」と「ちょうどよい(と感じる)」で統合される。この離れたり、集まったりする感じが、水の動きのようだ。
 私がびっくりしたのは「漂へる」という旧仮名遣いと「つつ」という、いまではあまりつかわない文語的なことば。しかし、そのことばが詩全体のトーンを引き締めている。適度な緊張感となって、ことばを支えている。

貝殻  青柳俊哉

砂に立ち
吹きおろす風を巻く 真珠層へ 
空の成分を濾す

大白鳥の風切羽のしなり
深く軽く空がふるえる

靭帯が軋む 流砂の中へ青いまましずむ

螺旋もようを辿り
かれがうまれた海へ
青を開放する

そこに新しい空がある
大白鳥が飛び立ち 風切羽が
空を吹き合わせてうたう

 「人生の輪廻を感じる。『青を開放する』が印象的」「貝殻というタイトルだが、本文には出てこない。一連目はイメージが雄大。『空の成分を濾す』は理解できないが、ことばを全部つなげると理解できる感じがする」「最後の二行がすてき。青の意味はわからないが、白鳥との関係はよくわかる」「広大な大気圏を感じる。特に『青を開放する』に広大さを感じる」
 作者は、貝殻が砂に立って風を感じている、という世界だと語った。
 貝は二枚貝ではなく、サザエのような内部が螺旋になった貝なのだろう。「かれがうまれた海へ/青を開放する//そこに新しい空がある」の海と空の対比が、対比を越えて融合する感じが「雄大/広大」という印象を引き起こすのだと思う。限界がなくなる。
 ことばが急ぎすぎているかもしれない。「 靭帯が軋む 流砂の中へ青いまましずむ」は、もう少しゆっくりと書き込んだ方がイメージがわかりやすくなると思う。「わかりやすい」が必ずしもいいことではないけれど。

 

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1 コメント

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朝日カルチャーセンター福岡 (大井川賢治)
2024-03-25 19:45:02
3人の受講生さんたちの詩、皆さん、全てそれぞれにいい詩でした。

1)池田さんの「もっと向こう」は純粋で若々しく好感が持てました。私は2連目が良く思いました。真ん中の星の絵は、文字を入れずに、絵だけにしておけばいいのにと思いました。

2)杉さんの「ものがたり」。無理のない静かないい詩だと思いますが、最後の連の中の炙るという、火を連想する言葉は、この詩には、そぐわないように感じました。

3)青柳さんの「貝殻」。これもなかなかお上手な作品だと感じました。語彙の豊富な詩人だなと。この詩の主人公は貝なんですね?貝が砂に屹立している?となると、靭帯は、貝柱なんだだろうか?と、思わず嬉しくなりました。固い詩の中の、ちょっぴりしたユーモア。いいですねえ^^^
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