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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

野木京子「小石の指」

2017-11-07 11:12:23 | 詩(雑誌・同人誌)
野木京子「小石の指」(「交野が原」83、2017年09月01日発行)

 私は「ことば」をそのことばのまま反芻することが苦手である。反芻しようとすると「ことば」が入れ替わる。そういうことが、しょっちゅう起こる。
 野木京子「小石の指」でも、そういうことが起きた。

部屋はしんとして
窓ガラスを通って入り込んだ光も張り合いがなく ただ遊
んでいた
見えない子どもが走り抜けた木の床
ほんのわずかに空間が歪み
でも湿度の変化はなく
それでも歪みは径になって気配を変える

お母さんが横たわっているね
もうすぐ眠りにつくから
静かに静かに
見えない子どもは自分に言い聞かせる
見えない子どもがここにいるから ほら
淋しくないでしょう と
ささやいてみたけれど 見えないのだから
ここにいないのと同じ

解析不能の小石をぱらぱら 歪みと一緒に床に撒いていた
小石を順々に拾いあげるとき
見えない子どもとお母さんの
指は触れ合うはず

 一連目。「窓ガラスを通って入り込んだ光も張り合いがなく」の「張り合いがない」ということばが印象的だ。それが「ただ遊んでいた」とつづき、「見えない子ども」が登場すると、「光」は「光」ではなく「子ども」になってしまう。私は「光」を「子ども」と入れ替えて読んでしまっている。しんとした部屋、誰もいない部屋にひとりで入り込んでしまった子どもが、誰もいないことに気づいて「張り合いをなくして」、ひとりで遊んでいる。そういう情景を思い浮かべる。「見えない子ども」と書かれているのだが、私には「見える」。「見えない」ということばに触れて、逆に、より鮮明に見える感じがする。
 これも、ことばの入れ替わり、ことばの取り違えかもしれない。
 「歪み」ということばが出てくるが、その「歪み」のなかに引き込まれて、「光」と「子ども」が入れ替わったかのようだ。
 二連目では「見えない子ども」と一緒に「お母さん」が出てくる。この「お母さん」は「見えるお母さん」ということになるのかもしれないが、私はやっぱり逆に感じてしまう。「見えないお母さん」がいる。「見える子ども」がいる。その部屋の中には。
 「お母さん」は「眠りについた」。この「眠りにつく」は「死んだ」ということだろうなあ。死んだから、いない。いないから「見えない」。でも、子どもには「見える」。いつまでも、その部屋に「いる」。
 「見えないけれど、お母さんはここにいる。ほら、淋しくないでしょう」と子どもは自分に言い聞かせている。そういう「一人遊び」をするとき、子どもは「お母さん」になっているから、「子ども」は存在しない、つまり見えない。
 三連目の「見えない子どもとお母さんの/指は触れ合う」は「見えないお母さんと子どもの/指は触れ合う」だろうなあ。小石を拾い上げるとき、一緒に小石を拾ってくれた「お母さん」の指が実感できる。
 「はず」というのは、そう信じて、子どもが一人遊びをするということだろう。

 「小石の指」というのは奇妙なタイトルだが、小石を拾うとき、そこに「指」が実感できるということだろう。お母さんの指が。「小石」は「小石」でありながら、「小石」ではなく「お母さんの指」。この瞬間にも、入れ替わりがある。
 「ことば」というものは「もの」に名前を与える。名前をつけることで、「もの」と自分との関係を明確にするという働きをするものだけれど、ときどき、逆のことも起きるのかもしれない。「名前をつける」という力が、「名前(ことば)」と「わたし」を入れ替えてしまう。「名前」をつけたはずなのに、逆に、自分が「名前」をつけられてしまうと言えばいいのだろうか。

 こういう錯覚の瞬間、「誤読」が動き始める瞬間が、私は好きだなあ。こういう「誤読」を誘ってくれることばが好きだなあ。


ヒムル、割れた野原
クリエーター情報なし
思潮社


*


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