詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

バラン・ボー・オダー監督「ピエロがお前を嘲笑う」(★)

2015-10-08 08:44:36 | 映画
バラン・ボー・オダー監督「ピエロがお前を嘲笑う」(★)

監督 バラン・ボー・オダー 出演 トム・シリング

 最後のどんでん返しが話題になり、「本国ドイツで大ヒットを記録し、早くもハリウッドでのリメイクが決定した話題のクライム・サスペンス」というのだけれど、どんでん返しが話題ということは、それまでがつまらないということの証拠。映画じゃないね。こんなものをリメイクするというのはハリウッドの衰退を決定づけるだけ。
 ハッカー集団が、サイバーマフィアと警察(国家権力?)の両方から追われる、というのが基本のストーリーだが「ハッカー」も「サイバーマフィア」も「警察」も、まったく描かれていない。
 犯罪とは無縁の(無縁だから?)の「フェイスブック」の誕生を描いた映画でさえ、どうやってハッキングするか、最初のプログラムのつくり方をていねいに描いている。プログラム言語なんて私は知らないが、プログラムの変化の過程が描かれていた。この映画では、そういう「基本」が省略されている。ビルに侵入し、サーバーに直接接触するなんて、まるで銀行強盗。メールを送りつけ、クリックすると情報を盗み取るなんて、ありふれた手口。途中に、「プログラミング言語」が出てくるのだが、あれってほんもの? 観客はわかりっこないと思って、テキトウにつくったもの? 偽物でかまわないのだけれど、偽物であったとしても、そこで行なわれていることを「プログラミング言語」以外で視覚化しないと(あるいは言語化しないと)、「深み」が出てこない。ハプニングで答えというか、ハッキングのカギが見つかるというような要素がないと、あまりにも単純すぎておもしろみがない。
 ハッカー集団の頭の中を地下鉄車内(?)の乗客のように描いてみせるのだが、パソコンに向かっている人の「バーチャル」って、あんなもの? ちゃちだねえ。
 警察の方も「組織」がぜんぜん見えてこない。失職に追い込まれた女が活躍するなんて、アメリカの刑事ものそっくり。どこからアクセスしているか、ネットで監視しながら突き止めるというのは、結果だけをみせるのでは電話の逆探知とかわりがない。拳銃をもってハッカー集団を追いかけるなんて、ギャングをつかまえるのと同じ。頭脳作戦を放棄しているのが笑える。
 ネットマフィアも動いている感じがしない。ひとり、たしかにハッキングをしている男が殺されるが、ひとりしか殺せないマフィアなんてつまらない。おそろしさが感じられない。
 これは「ハッカー」とは無関係の、単なる「トリック」映画。それも、主人公がこどものときに祖母にしてみせたトランプ手品の次元のトリック。わざわざ「ひとは見えるものを見るのではなく、見たいものを見るのだ」とことばで解説している。この「ことば」が最後のどんでん返しのカギになる。主人公を聴取する女をだましたときの「手口」につながっていく。学生時代に流産し、こどもを産むことができなくなった女と、わざわざトラウマをことばで説明して、伏線をつくる。どんでん返しが「心理作戦」の結果であることをあらかじめ説明する。
 いちばんのトリックの見せどころは、主人公の手のケガ。釘が手のひらを貫いたときの傷跡なのだが、それに先立つ下水道のシーンがあまりにもいいかげん。下水道を歩きながら建物への侵入口を探している。そのとき男が手に釘が刺さる、という伏線があるのだが、足で釘を踏み抜くということはあっても、手のひらを釘がつらぬくなんて、ふつうはありえない。全体重を手で支えるようなシーンは描かれていない。突然、「手を釘がつらぬいた」なんて、おいおい、ありえんだろう。こんな見え透いた「嘘」をトリックの材料にするなんて、あまりにもばかばかしい。
 だいたいね、取調官に犯人が「告白」するということ、そのスタイル自体が、「心理劇」であり、「どんでん返し」のありふれた構図。「どんでん返し」しか見せ場がない、というつまらない作品になるしかない。これで成功しているのは「ユージュアル・サスペクツ」ぐらい。あの映画では「嘘」の構図を、最初から練られた嘘ではなく、その場で思いついた嘘、まわりにあるものをヒントにして嘘を生み出していくという手法がなまなましかった。変化して行く「嘘」が、変化するという「真実」をもって動いていた。
 こんな映画をリメイクしたら、誰が監督で、誰が出演しようが駄作になるしかない。
               (2015年10月07日、t-joy博多、スクリーン6)




「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
23年の沈黙 [レンタル落ち]
クリエーター情報なし
メーカー情報なし

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高橋千尋「植物の部屋」 | トップ | 小笠原茂介『雪灯籠』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画」カテゴリの最新記事