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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

千葉剛「詩人ディキンスンの2ショット」

2012-11-15 00:56:52 | 詩(雑誌・同人誌)
千葉剛「詩人ディキンスンの2ショット」(「朝日新聞」2012年11月13日夕刊)

 ディキンスンの2枚目の写真が発見された。女性といっしょに写っている。これはディキンスンが同性愛者だったという説を補強するのものだという。
 ふーん。
 同性と二人で写っている写真があると「同性愛」か。
 私なんか、犬とキスしている写真まであるんだけれど、どうなるのかなあ。

 ということよりも。
 千葉剛の書いている次の部分がとても気になった。

ああ 海よ!
今宵(こよい)こそ--あなたの胸に--
錨(いかり)をおろすことができるなら!
           (F269 千葉剛訳)

 これは愛をテーマとした詩「嵐の夜よ--嵐の夜よ!」の終わりの3行だが、同性愛の心境の反映と考えれば詩の意味が理解しやすくなる。海は広く深く、ここでは包容力のある恋人を意味する。錨は固くて水底目指して突き進んでいくものであり、そのイメージから男性性器を意味する。愛する女性と一体になるには、自分自身が男性にならなければいけない。つまり、エミリィの性交願望の表出であり、同性愛ゆえの表現と言えるだろう。

 これが女性のひとのことばなら、そうなのかなあ、と思うが、千葉剛というのは、私はよく知らないがたぶん「男性」だろう。そうなると、これはあてにならないなあ。というか、これってマッチョ思想そのものの視点であり、とても信じられない。
 同性愛の場合、一方が女性であり、もうひとりが男性であらなければならないというのは、ほんとうなのだろうか。それは同性愛を異性愛に置き換えて理解しているに過ぎなくて、ほんとうは違っているのではないだろうか。
 女性だけれど男性のように女性を愛したい、というのがディキンスンの同性愛だと仮定してみる。この仮定は、男にはとても簡単な仮定である。だから、すぐに納得してしまうけれど。でも、変だなあ、と私は思う。
 では、ディキンスンの相手は? どう思っている? 女性だけれど、男性のように振る舞ってくれる女性に愛されたい? こう考えたとき、変だと思わないのだろうか。
 ディキンスが男性として女性を「愛したい」なら、他方の女性は「愛されたい」でいいのか。
 「愛」は「愛したい」「愛されたい」と二人が分業しておこなうことなのか。違うんじゃないのかなあ。愛すると同時に愛されたい。そこには「能動/受動」の区別がない。そういう区別があるときは「愛」には達していない。
 ディキンスンはどんなふうに愛されたいと感じていたのか。相手の女性はどんなふうに愛したいと感じていたのか。そして、そのふたりの「愛したい/愛されたい」が「ひとり」のなかで人間を動かしていたかを理解しないことには、「愛」自体を誤解することにならないだろうか。
 錨が「固く」「突き進んでいく」から「男性性器」を意味するだとしたら、「あなたの胸」は、なぜ、海なのだろう。胸と海の共通項は? 女性性器との共通項は? 胸(乳房)は確かに女性の魅力であるし、乳房に欲望をかきたてられるというのはわかるけれど、乳房がなぜ海? 錨を男性性器と呼ぶのなら、胸と海との関係も女性性器に結びつけて明らかにしてほしいと思う。
 詩なのだから、何がなんでも全部論理的にとらえなくてもいい--というのなら。
 うーん。なぜ、簡単に錨と男性性器だけを結びつけたのか、そのことが私にはよくわからない。

 それに。
 私は「嵐の夜よ--嵐の夜よ!」を読んでいないので勝手な想像になってしまうが、嵐の夜に、海に深く錨をおろしたいというのは、女性を男性として愛したいという欲望とは関係がないんじゃないだろうか。嵐とどこで出合うかにもよるけれど、嵐の日に船が錨をおろすのは流されてしまわないためなのではないだろうか。そうすると、それは男性性器となって海を愛するということとは違うんじゃないだろうか。

 わからない。
 千葉の文章から私がわかるのは、そうか、千葉は、自分に固く突き進んでゆく男性性器を男性のあかしとして要求しているということだけである。
 マッチョ思想にもとづいて、ディキンスの同性愛を描写したって、それは女性の同性愛とは無縁だろうなあ、誤解するだけだろうなあ、としか思えない。



エミリィ・ディキンスン詩集
エミリィ・ディキンスン
七月堂

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