詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

三角みづ紀「一端を担うものたち」

2019-01-08 10:51:27 | 詩(雑誌・同人誌)
三角みづ紀「一端を担うものたち」(「現代詩手帖」2019年01月号)

 三角みづ紀「一端を担うものたち」を読んだ。私は苦手である。

おおきな木製の食卓に集う
やがて婚姻を約束した
誰かと誰かが祝福されている

そのおおきな食卓が
かつて巨大な一本の樹であったことを
感知した赤子が泣きはじめる

 宇宙感覚というのか、時間感覚というのか、どう呼んでいいのかわからないのだが。三角はたしかに「いま」を超えて何かをつかみとっている。大きな食卓と大きな一本の木を結びつけ、そこに「いま」ではない「永遠」をつかみとる。
 でも、それを自分が「感知」したこととしてではなく、「赤子」に託してしまう。「赤子」は「無垢」の象徴なのかもしれないが、「赤子」を登場させることで、「大きな樹」が生まれてから大きな樹になるまでの「時間」を暗示させてしまう。「枠/論理」が出来上がってしまう。「世界」が論理によって広がる。「真理」になる。
 そういう「世界観(思想)」を三角が生きている。それがおのずと出ている、といえばそうなんだけれど。
 なんとなく「安定している」と感じる。「思想」が。
 そこが、私にとっては「苦手」。このまま三角について行っていいのかどうか、ためらう。その先にある感動の予感。それを受け入れてしまったら、私は存在するのか、という疑問が頭をかすめる。

年輪をかぞえて。
いつまでも立ち続けた樹
草原に たったひとりで

その草原をつくりあげた無垢な地球は
いまもなお青く輝いている

化粧をほどこさない地球にて
やがて婚姻を約束した誰かと誰かが
化粧をほどこして祝福されている

宇宙はそれを
おしだまったまま眺めている

 「草原に たったひとりで」と擬人化される木。なぜ、草原なのかなあ。草原の方が「目立つ」からだね。
 これは先に引用した「赤子」もおなじ。その場に「赤子」はひとりしかいない。特別な存在。
 ここから「地球もひとつ」ということが暗示され、「宇宙」との対比で「孤独」というものが美しい形で浮かび上がるのだけれど。

 「苦手」なのは、そういう「美しさ」が私とは無縁のものだからかもしれない。

 一方、こういうことも思う。

宇宙はそれを
おしだまったまま眺めている

 というとき、その「眺めている」という動詞は誰のものなのだろうか。主語は「宇宙」だが、宇宙が「眺める」ということはありうるのか。宇宙が「眺めている」と、三角が「眺めている」のか。
 三角は「宇宙」になっているのか。
 こういうことは厳密に考えず、ここに「宇宙感覚」がある、「宇宙との一体感」があると感じ、読者の方も「宇宙」になってしまえばいいのかもしれないけれどね。
 たぶん「赤子」になって、「草原に立つ大きな樹」になった、「地球」になって、それから「宇宙」になる、という運動と一体化してしまえば、この詩はとても親密なものになるのだと思うけれど。

 なんとなく、これでは仏教の言う「法」を説かれているみたいだな、と感じる。
 それが「苦手」なのかも。
 「法=空」(法即是空/空即是法」を持ち出されては、あらゆる感想は書く意味がなくなる。
 もっと人間臭いというか、「欲望」が動く詩を読みたい。



(補記)

化粧をほどこさない地球にて
やがて婚姻を約束した誰かと誰かが
化粧をほどこして祝福されている

 の部分の「化粧をほどこす」を「批判」と読めば、違った世界が広がるかもしれないけれど。
 「地球にて」の「にて」に、私は、つまずいている。九州のひとはときどきこういう言い回しをするけれど、私には「外国語」に聞こえてしまう。私はもう五十年も九州で生活しているが、どうしてもなれることができない。
 私は何か、ここにある「固有のもの」を見落としているのかもしれない。その「音」が聞き取れないのかもしれない、とも思う。







*

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池澤夏樹のカヴァフィス(20)

2019-01-08 09:40:43 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
20 単調

単調な一日の後に
寸分も変らぬ単調な日が続く。また

 と始まり、

月が過ぎ、別の月をもたらす。
やってくる歳月を見通すことはたやすい、
昨日の退屈が再び来るだけのこと。
そして明日はついに明日であることをやめる。

 最後の一行が強烈である。「明日であることをやめる」とは、どういうことか。「明日」は何になるのか。「昨日」になるのだ。そのとき「昨日の退屈」はほんとうに「退屈」だろうか。あるいは、ほんとうに「昨日」なのか。
 この詩には「昨日」「明日」ということばは書かれているが「今日」ということばは直接的には書かれていない。しかし「単調な一日」ということばであらわされている。
 そう考えると、「そして明日はついに明日であることをやめる。」は「そして明日はついに今日になる。」だろう。
 ずーっと「今日」なのだ。「今日」しかないのだ。時間は過ぎ去る。時間はやってくる。でも、それは「今日」でありつづける。

 この詩にはカヴァフィスの「自註」があるのだが、それについて池澤はこう書いている。

彼の自註というのは晩年になってから若いに友人語ったことの筆記であり、執筆のときからは三十年を経ている。

 なぜ、こういう注を池澤は付けたのか。わからないが、カヴァフィスにとっては、「三十年」という時間は意味がないと私は思っている。彼には「今日」しかない。詩にそう書いてあるのだから。「三十年」という時間を固定してしまうと、なんとも味気ない。
 私はむしろ、「明日」になったらつけたいと思い続けた「自註」ではないかと思う。明日は永遠にやって来ない、きょうがあるだけなのだ、と。
 どういう「自註」であったかは、あえて引用しないが。


カヴァフィス全詩
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