goo blog サービス終了のお知らせ 

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

スタンリー・トゥッチ監督「ジャコメッティ 最後の肖像」(★★★)

2018-01-24 21:08:02 | 映画
監督 スタンリー・トゥッチ 出演 ジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー

 ジャコメッティというと細長い彫像がすぐ思い浮かぶが、彫像ではなく「肖像画」で悪戦苦闘しているところが、まあ、おもしろい。
 しかも、この絵の描き方というのが、塗り重ねである。黒というか、セメント色というか、無彩色が主体だが、これを塗り重ねる。気に食わないと灰色で消してしまって、その上に描く。
 途中に少し鏡像をつくるシーンもあるが、こちらはもっぱら粘土を剥がしていく。絞り込んでいく。
 彫像と絵では「制作方法」が逆なのだ。
 ふーむ。
 でも、見続けていると違うこともわかってくる。
 彫像も絵画も完成しない。未完成。それを象徴的に語るのが、肖像画の最後。キャンバスには余白が残っている。いや、余白だらけである。描き込もうとすれば、描き込める部分だらけである。
 ここからまた違った言い方もできる。
 ジャコメッティは絵画のなかでも彫像と同じ方法をとっている。すべてを「描写」するのではなく、最小限の「神髄」だけを具体化している。彫像が余分なものを削ぎ落とした「細い」形であるのと同様、絵画でも余分なものを削ぎ落として「やせ細った」形なのである。
 違うように見えて、同じことをしている。
 で、ここからが映画である。(ここまでは、ジャコメッティの「創作」の「意味」である。)
 この絵画もまた「削ぎ落としていく」という過程でできている、あるいは「未完成」という形のなかに完成がある、という「概念」をどう視覚化するか。
 ジェフリー・ラッシュとアーミー・ハマーの「肉体」の対比がとてもおもしろい。
 ジャコメッティ役のジェフリー・ラッシュは、アル中、女狂いのだらしない体型をしている。鼻は、いわゆるアルコール焼けという感じ(赤くは見えないが)の、なんともしまりがない形。歩き方も、ものの食べ方も、非常にルーズである。髪もボサボサ。
 一方のモデル役のアーミー・ハマーは、モデルか役者(それも鑑賞用の役者)しかできないような均整のとれた体型と顔をしている。顔が完全に左右対称で歪み(乱れ)がないのは、まるでギリシャ彫刻以上である。途中で水泳(飛び込み)をしているシーンも出てくるが、裸を見せなくてもスーツ、いやコートの姿からも余剰がない体型が見える。
 このまったく無駄のないアーミー・ハマーの「肉体(顔)」さえ、まだ「余剰」がある、「神髄」ではないと思い、ジェフリー・ラッシュは、そこから「削ぎ落とし」を試みるのである。しかし、生身の「肉体」は「削ぎ落とせない」。ここに、厳しい葛藤が生まれてくる。現実に存在するものと、ジェフリー・ラッシュが描き出したいものとの間に、どうすることもできない「乖離」が生まれる。絵は、見れば見るほどアーミー・ハマーそのものを感じさせるのである。「神髄」だけを表現できないのである。
 これは「神髄」を表現すれば、おのずと「全体」が浮かび上がる。そこにジャコメッティの芸術の力があるという具合に言いなおすこともできるのだけれど、まあ、こんなことは「意味論」になるので、映画から離れてしまう。
 映画にもどると。
 自分の描いているものと、理想の芸術との「乖離」に苦悩し、ジェフリー・ラッシュはしきりに罵詈雑言を吐いて、創作は中断する。
 ジェフリー・ラッシュの罵詈雑言は自分自身(の技量、あるいは芸術)に向けられているのだが、モデルのアーミー・ハマーにしてみれば、彼へのののしりに聞こえるかもしれない。
 これは制作途中の絵を見れば、さらに、その感じが強くなる。絵は、すばらしい。何が不満なのか、アーミー・ハマーにはわからない。
 ということが、まあ、延々と続く。
 これは、見方によっては、とてもつまらない作品なのだが(めくるめくストーリー、事件がないからね)、それを「映画」に仕立ているのが、二人の役者の「肉体」である。(妻役の完全な垂れ乳も、まあ、すごいものである。)役者の「肉体」が、しかもアクションなどないのに、ぐいと観客の視線を引きつける不思議な強さをもった映画である。アーミー・ハマーは椅子に座って姿勢を変えないというつまらない役なのに、役を越えて人間になっているのが魅力的だった。
(2018年1月24日、KBCシネマ2)



 *

「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/

プラダを着た悪魔 [Blu-ray]
クリエーター情報なし
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (FOXDP)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「最も重要な隣国」と施政方針演説

2018-01-24 15:35:35 | 自民党憲法改正草案を読む
「最も重要な隣国」と施政方針演説
             自民党憲法改正草案を読む/番外169(情報の読み方)

 2018年1月24日の読売新聞(西部版・14版)の一面に、

首相 平昌五輪出席へ/開会式 日韓首脳会談 調整

 という見出し。
 あれ、出席しないと言い張っていたのでは?
 記事にこうある。

 安倍首相は、2月9日に韓国で開幕する平昌冬季五輪の開会式に出席する意向を固めた。訪韓中に文在寅大統領と会談する方向で調整している。慰安婦問題の日韓合意を巡る韓国側の対応に国内では反発が強いが、北朝鮮の核・ミサイル問題を踏まえ、日韓両国の連携維持を重視した。

 というよりも、北朝鮮の五輪参加(合同チーム)の「和平ムード」に取り残されまいとして必死なのだろう。
 対応が遅すぎる。
 それに。
 22日の「施政方針演説」では、日韓関係に触れた部分で、これまでつかってきた「最も重要な隣国」という表現をつかっていない。言い換えると「削除」した。これまでつかっていた表現をやめるというのは、それが定着して「常識」になったときと、その表現が気にくわなくなったときである。安倍の演説では、後者である。「慰安婦問題の日韓合意を巡る韓国側の対応に」苛立ち、「最も重要な隣国」をやめた。
 でも、これではまずいと思いなおして五輪に出席しようというのだろうが、ちぐはぐだねえ。何も考えずにことばをつかい、行動している。

 というのは、まあ、前置き。
 22日の安倍の「施政方針演説」。いろいろなポイントがあるが、「改憲」が一番のポイントだと思うので、そのことだけについて書いておく。
 二点ある。

(1)年末に向け、防衛大綱の見直しも進めてまいります。専守防衛は当然の大前提としながら、従来の延長線上ではなく国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めてまいります。

 「専守防衛は当然の大前提としながら」と「従来の延長線上ではなく」は矛盾する。「従来の延長線でない」なら、それは「専守防衛」ではないだろう。攻撃されたら守るではなく、攻撃される前に攻める、だろう。「先制攻撃が最大の防御である」というのは、あらゆる「戦い」の原則のようなもの。そこへ踏み出す。
 安倍は「安全保障政策において、根幹となるのは、自らが行う努力であります。厳しさを増す安全保障環境の現実を直視し、イージス・アショア、スタンド・オフ・ミサイルを導入するなど、我が国防衛力を強化します。」と言うが、それは「防衛力」ではなく「攻撃力」の強化だろう。

(2)50年、100年先の未来を見据えた国創りを行う。国のかたち、理想の姿を語るのは憲法です。各党が憲法の具体的な案を国会に持ち寄り、憲法審査会において、議論を深め、前に進めていくことを期待しています。

 「各党が憲法の具体的な案を国会に持ち寄り」は、「わな」である。
 安倍は「改憲(特に自衛隊を憲法に書き加える)」を狙っている。そのことへの「対案」は「憲法を変えない」「自衛隊を憲法に書き加えない」である。つまり「対案なし」が一番の対案なのである。
 もし「対案」があるとするならば、「自衛隊の活動範囲は、日本の領空、領海、領土に限定される。それ以外の活動はいかなるものも禁止する」というしかないだろう。これは「戦争法(集団的自衛権)」を完全に否定する「案」である。
 しかし、私は、こういう「案」も「対案」として提出するのは、安倍の策略にのってしまうことだと考えている。
 少し前に、与野党の質問時間がとりざたされた。与党の議員が多いのに質問時間が少ない、議席数にあわせて配分すべきである、という「意見」である。暴論である。与党が提出してくる案に対して野党が質問する。質問と答弁は「半々」である。それなのに「質問時間」だけをとりあげて問題にすることは、民主主義を否定する。
 そして、このときの「意見」を踏まえて言うと。
 野党が「対案」を出した場合、与党が質問する。その質問時間は「与野党の議席配分」に比例したものになるかもしれない。審議時間の総量がかわらないなかで、与党の質問が増えるということは、逆に見れば野党の質問時間が減るということである。つまり、野党が「自民答案」の問題点を指摘する時間が減ってしまう。それなのに、「総量時間」を一定にしておいて、「〇時間審議した。議論は尽くした」という形で、「審議終了」になる。
 強行採決になる。
 これは、目に見えている。
 こういうことをさせないためにも、野党は「対案」など出してはいけない。自民党案の問題点を徹底的に追及しないといけない。
 自民党はすでに「案」を「しぼらせない」作戦、言い得ると批判の焦点を隠すという作戦を取り始めている。
 最初の「自民党改憲推進本部」では「たたき台」を出したのに、12月の会議では、9条改正に対する「案」を二案併記にしている。それも明確な「文言」を公表していない。
 憲法にかぎらず法律は「文言」である。それをどう解釈するか、どう運用するかが重要なのに、肝心の「文言」がない。これでは「議論」にならない。
 安倍は国民に議論をさせない作戦(沈黙作戦)を一貫して取り続けている。「権力を拘束するための憲法」さえも、かってに解釈し、その解釈に対する国民の批判を封じている。
 安倍の「沈黙作戦」に乗らないために(乗せられないために)、何をすべきなのか、そのことを考えないといけない。

 何度も書いているが、また書いておく。
 安倍は天皇に「天皇は国政に関する権能を有しない」ということを明言させ、沈黙させた。新年のことばも封印した。天皇さえ沈黙し安倍に従っている。国民は安倍の独裁を沈黙して受け入れるべきだと考えている。独裁を押しつけている。





#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

「天皇の悲鳴」(1500円、送料込み)はオンデマンド出版です。
アマゾンや一般書店では購入できません。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
ページ右側の「製本のご注文はこちら」のボタンを押して、申し込んでください。

 「不思議なクニの憲法」の公式サイトは、
http://fushigina.jp/
上映日程や自主上映の申し込みができます。
憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー
クリエーター情報なし
ポエムピース
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「天皇の悲鳴」(補足)

2018-01-24 09:53:29 | 自民党憲法改正草案を読む
「天皇の悲鳴」(補足)
             自民党憲法改正草案を読む/番外168(情報の読み方)

 松井久子監督「不思議なクニの憲法2018」を見ながら、言い残したこと、「天皇の悲鳴」で書き残したことを思い出した。
 2016年7月の参院選のあと、籾井NHKが「天皇生前退位の意向」をスクープした。「生前退位」ということばは、皇后が「胸が傷んだ」と悲鳴を上げるまで報道機関でつかわれつづけた。皇后の悲鳴のあと、突然「生前」がとれ、「退位」という表現になった。これは、とても重大な変化である。

 「生前退位」の「生前」の意味を考え直してみよう。
 「生前」ということばは、私は誰かが死んだとき、「生前はお世話になりました」と聞くくらいで、日常的には聞かない。「生前」は「生きていた以前は」という意味だろう。「死ぬ前は」という意味だが、「死ぬ」ということばを避けるために「生前」というのだろう。
 ということは。
 「生前退位」の「生前」ということばも「死ぬ前」という意味であり、「死ぬ」ということばを避けているということにならないか。
 何が言いたいかというと。
 「生前退位」ということばを思いついた人は、意識の中で天皇は「死んだ」と思っている。意識の中で天皇を殺しているのである。
 こういうことばは、天皇の周辺(皇室、宮内庁)からは出てこないだろうと思う。皇后も、「それまでに読んだことがなかった」と婉曲的に、そのことを語っている。
 つまり、天皇の生存、あるいは天皇の活動を「邪魔」と感じている人間の意識が、無意識に天皇を殺害し、「生前退位」ということばを思いついたのだ。
 天皇は、平成元年に即位するとき「国民とともに憲法を守る」と言っている。
 この「護憲」の姿勢が邪魔だと感じる人が、「生前退位」ということばを思いついたのだ。なぜ「護憲派天皇」が邪魔なのか。天皇が「護憲」の立場を示す(そういうことばを語る、あるいは行動をする)と、国民は「護憲」に傾くかもしれない。それでは困ると思う人がいる。
 だれか。安倍である。官邸である。
 ここからも、「生前退位の意向」のニュース源は官邸であるということがわかると思う。








#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

「天皇の悲鳴」(1500円、送料込み)はオンデマンド出版です。
アマゾンや一般書店では購入できません。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
ページ右側の「製本のご注文はこちら」のボタンを押して、申し込んでください。

 「不思議なクニの憲法」の公式サイトは、
http://fushigina.jp/
上映日程や自主上映の申し込みができます。
詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
クリエーター情報なし
ポエムピース
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする