切子のワイングラスと良子 １１８ページ目

【１１８ページ】

和音　　　そのようだね。

良子　　　私が手をすべらせて、このワイングラスを床に落とせば割れるわ！

和音　　　それはダメだね。

　　　　　このワイングラスは送り主から私への挑戦なのです。

　　　　　逃げ出すわけにはいかないのです。

良子　　　そうなの？


田辺はじっとワイングラスを眺めていた。


良子　　　このカベルネ・ソーヴィニヨンから妖気を感じるわ！

　　　　　いくつかのカベルネ・ソーヴィニヨンの房の奥に隠れて、かすかに

　　　　　見えるのは別のブドウかしら？

　　　　　メルロ？

和音　　　気がつかなっかたが、メルロのようだね。

良子　　　メルロをカベルネ・ソーヴィニヨンの妖気で包み込んでいるのでは

　　　　　？

和音　　　すごい想像力だね？

良子　　　このグラスから特に強くカベルネ・ソーヴィニヨンを感じたのは、

　　　　　どんなワインを飲んだ時？

和音　　　ボルドーのワインを飲んだ時だね。

良子　　　そうよ！　ボルドーのワインの主要ブドウ品種はカベルネ・ソーヴィニ

　　　　　ヨンとメルロよね。メルロに強く反応するのよ！

　　　　　だったらメルロのワインを飲んで、妖気を放出させたら？


１１９ページに続きます。
　　　　　

切子のワイングラスと良子 １１７ページ目

【１１７ページ】


マスター　　　サン・テミリオンの格付けワインでは、第１特別級Ａのシャトー・

　　　　　　　オーゾンヌとシャトー・シュヴァル・ブランが有名ですよね？

田辺　　　　　はい。

マスター　　　このワインは第１特別級Ｂのシャトー・パヴィなのです。

　　　　　　　このワインを、和さんがカベルネ・ソーヴィニヨンを強く感じる

　　　　　　　と言うのですよ。

田辺　　　　　和さんは、感受性が強いから、わずか１０％のカベルネ・ソー

　　　　　　　ヴィニヨンを強く感じるのよ！

和音　　　　　田辺さん、フォローしてくれてありがとう。

　　　　　　　でもマスターの言う通りだよ！

田辺　　　　　何かあったの？

　　　　　　　いつも和さんに、相談に乗ってもらってるわ！

　　　　　　　今度は、私に聞かせてくれる？

和音　　　　　この箱を開けて見て！

田辺　　　　　わー、素敵なブドウのデザインのワイングラス！　　

　　　　　　　このブドウ、ひょっとしてカベルネ・ソーヴィニヨン？

和音　　　　　そうです。

田辺　　　　　あら不思議だわ、私の口の中も酸味と渋みを感じる！　

　　　　　　　このワイングラスが原因？

　　　　　　　和さんには、もっと強く感じで、味覚が変になったのでしょう？　　　　

切子のワイングラスと良子 １１６ページ目

【１１６ページ】


和音とマスターがそんなやりとりをしている時、良子が店に入って来た。


良子　　　　マスター、こんばんわ！

マスター　　田辺さん、ちょっと来て、ワインのラベル溜まっているから！

良子　　　　ありがとう！

マスター　　田辺さん、和さんの味覚が変だよ。

良子　　　　ええ？

　　　　　　私に任せて！さりげなく聞いてみるわ。

良子　　　　和さん、何飲んでいるの？

和音　　　　マスター、田辺さんにもこのワインをサービスしてあげて！

良子　　　　又、和さんのおみやげ？

マスター　　これは、私のサービスです。

良子　　　　ありがとう。

和音　　　　今日は、田辺さんにプレゼントがあるんだ。

　　　　　　この箱を開けてみて！　

良子　　　　わー、素敵な切子のワイングラス！

　　　　　　ほんとうに、いただいていいの？

和音　　　　ええ。

良子　　　　うれしいわ！

　　　　　　マスターのワインもいただきます。

　　　　　　これは、初めて飲むワインだと思います。

　　　　　　メルロのふくよかな味わいを感じるわ！

　　　　　　サン・テミリオンの格付けワインでしょう？


１１７ページに続きます。


　

切子のワイングラスと良子 １１５ページ目

【１１５ページ】


　　　　　　　　　　　　　切子のワイングラスと良子



マスター　　　和さんには、いつもプレミアムワインをいただいているでしょう？

　　　　　　　今日は、私からこのワインをサービスさせていただきます。

和音　　　　　どちらのワイン？

マスター　　　ボルドーのサン・テミリオン地区のシャトー・パヴィ２０００年　

　　　　　　　です。

和音　　　　　サン・テミリオンのワインはメルロ種主体のワインが多いよね？
　　　　　　　　　
　　　　　　　このワインもなめらかな口当りの、こくのあるワインに熟成さ

　　　　　　　れているのでしょうね？

マスター　　　ちょうど飲み頃になり始めたようですよ。

　　　　　　　さあ、どうぞ！

和音　　　　　おや、カベルネ・ソーヴィニヨン種主体のワイン？

マスター　　　ええ？

　　　　　　　シャトー・パヴィはメルロ７０％、カベルネ・フラン２０％で

　　　　　　　カベルネ・ソーヴィニヨンはわずか１０％のはずです。

和音　　　　　そうかなあ？

マスター　　　私も味見しますね。

　　　　　　　和さん、冗談がきついですよ！

　　　　　　　これは、間違いなくメルロ主体です。


１１６ページに続きます




　　　　　　　　　　

美しい切子のワイングラス １１４ページ目

【１１４ページ】


社長　　　先生がテイスティング対決用に製作してくれた切子のワイングラスの

　　　　　ことです。

　　　　　先生のデザインしたカベルネ・ソーヴィニヨンが、和さんの五感を確か

　　　　　に狂わせました。

　　　　　だからそのワイングラスも差し上げました。そしてそのグラスが、ずっ

　　　　　と和さんの五感を狂わし続けるでしょう。

先生　　　でもグラスを割ってしまえば？

社長　　　たぶんそれは、できないと思いますよ。

　　　　　先生のカベルネ・ソーヴィニヨンのワイングラスに負けたことになるか

　　　　　らです。

先生　　　社長の毒矢が和さんの致命傷になるかもしれないね？

社長　　　和さんは、どのようにして乗り切るのか楽しみです。

先生　　　ところで、これが新しい切子のワイングラスです。

社長　　　すばらしい！

　　　　　前回の作品に勝るとも劣らない！

　　　　　ありがとうございます。