午後から雨足が強まる。傘を差しながらじっと風景の中に身をおく。遠くから鳥の鳴き声が聞こえ、川のせせらぎが雨音に混じる。足元の草花は雨粒を抱き、その脇をカエルが跳ねていく。霧は、木々を縫うように絶え間なく流れている。ただそれだけのことなのに、風景はいつも大きな感銘を与えてくれる。
佐々木イサム作品・キリンの親子像(部分)
「象潟を愛した画家 星野鐵之展」が、にかほ市象潟町のRAMOギャラリーで開かれています。描かれているのは象潟を象徴的に表したものではなく、日常の営みの中に溶け込んでいるような風景です。いつも流れるように過ぎ去っていく風景の前に、ふと立ち止まらせてくれる印象を受けました。その瞬間によみがえる遠い日の記憶や心情が、自分がこの地に生まれ育ったことを強く実感させてくれる思いがしました。地元コレクターの伊東さんは言います。「先生が亡くなってから、好きだった象潟で星野展をやりたいという思いがいつしか僕の中で使命感に変わっていった…。」画家とコレクター、そして象潟の方々との交流をも描いたような展覧会。この機会にぜひご鑑賞いただきたくご案内申し上げます。あわせて、佐々木イサム作品を常設展示しておりますので重ねてご案内申し上げます。
会期:2024年6月12日(水)-8月18日(日)
時間:午前10時-午後4時(金曜日は午後10時まで)
休館:毎週月曜日と火曜日・7月22日-7月31日・8月10日-8月16日
お問い合わせ:電話 0184-44-2037 担当 ヤマダ
「PENTAX 17」という新しいフィルムカメラが発売される。今もフィルムで撮影する一人としてとても嬉しい思いがする。私がフィルムを使うのは極めて個人的な理由からで、スペックや利便性とは程遠いところにある、自身の価値観や捉え方によるものが大きい。だからこの「個人的な」というものはもっと掘り下げてみたいし、掘り下げることによって見えてくるものを大切にしたいと思う。そして何より、長年愛用しているカメラは友人から譲っていただいたものであり特別な思いもある。昨日はそんなことを思いながら海に向き合い撮影していた。
シャクヤクが庭に咲いている。艶やかで気品にあふれている。苗は10年ほど前に伯母からいただいたもので、土が合わないとすぐに死んでしまうと言われたが、植えてから数年後に花を咲かせ、以後、毎年咲き続けている。伯母はもうすぐ80歳になる。4月に死の淵をさまよい三途の川まで行ったようだが、どうしても向こう岸に渡れず、気が付けば病院のベッドの上にいたという。先月、その伯母をはじめ、母の兄弟姉妹が一同に集まった。遠く関西から駆けつけた伯父とは約40年ぶりに再会し、「大ちゃん、いいおっちゃんになったな!」と握手を交わしながら声を掛けてくださった。伯母の元気な姿もあり、総勢5人の兄弟姉妹の中に甥っ子の私がお邪魔をするという形で、お墓参りから会食までご一緒させていただいた。そして5人の実家で、青空に映える鳥海山を背景に記念写真を撮った。
何でも言い合える5人の仲は陽気なうえ活力に満ちていて、一緒にいるこちらまで元気になる思いがした。どんなに苦労を重ねてもどこまでも前向きな姿勢がうかがえた。伯母の退院を機に集まったわけだが、「集まるのはこれが最後」という思いは、別れ際には「また会おう」という思いに変わったようである。いくつになっても「兄ちゃん、姉ちゃん」と呼び合える仲に不思議な心地良さを感じた。そして私はいくつになっても「大ちゃん」であることを実感した。だからこのシャクヤクは、美しさと共に「つながり」というものをずいぶんと感じさせてくれるものになった。伯母の一件や先日の再会のせいなのだろう。見えてくる景色というのは心情と共にあることを思う。心から感謝したい。