上州の「寅」(41)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/5a/625b57e9ef95e255d9cee24cd093556d.jpg)
次の日から巣箱造りがはじまった。
老人との朝食がおわると寅は、少し離れた作業小屋へ向かう。
午前9時。巣箱造りがはじまる。
海を見おろす作業小屋で、3人並んで巣箱造りの日課がはじめる。
丘から見下ろす3月の海の色は心地よい。
瀬戸内海は内海。そのため太平洋や日本海と海の色が異なる。
水深が浅く、水の交換がさほどない。
島が多く点在し、影ができるなどの条件のため紺碧の色は出ない。
そのかわり場所により緑やヒスイ色に見えるときもある。
作業手順は頭に入っている。
鹿児島で30個ちかく製造している。ここでの目標も30個。
会話もなく、もくもくと3人で作業する日がつづく。
そんな中、寅には気になることができた。
小豆島へ来てから急にユキが無口になったことだ。
あれほど快活だったユキが口をひらかず、黙々と作業している。
寡黙なユキへ、チャコも声をかけない。
一週間後。作業を終えた寅がチャコへ声をかけた。
「何かあったのかい?。ユキちゃんに」
「何もない。いつも通りのユキだ」
「そんなことない。おかしいだろ。
箸が転がっても笑っていた子が、ひとことも口をきかないんだ」
「ユキにも話したくない時がある。
そんなに気になるのなら自分で聞けばいいだろう。
どうしたユキ。なにか有るなら俺に言え。相談にのるからって」
「相談したいことがあるのか?。ユキちゃんには」
「誰でも悩みはある。それが人生というものだろう」
「人生について考えているのか。ユキちゃんは」
「自分の人生について考えないのかい、寅ちゃんは?。悩みは無いの?」
「考えないさ。考えたところでうまくいくと思えないからな。
気がついたら小豆島でハチを捕まえるための巣箱をつくってる。
美大を出てデザイナーになるはずだったのに、どこかでなにやら間違えて
いつの間にかこんな生活になっている。
どうなっているんだ・・・俺の人生は?」
「卒業できないくせによく言うわ」
「君が決めつけるな。可能性はゼロじゃない」
「限りなくゼロにちかいくせに。うふふ」
「俺のことはいい。問題はユキちゃんだ。
小豆島へ来てからずっとふさぎ込んでいるんだ。変だろう」
「ふさぎこみたくなる理由があるからね。ユキには」
「どんな理由だ?」
「説明するのは難しい。長い話になる」
「やっぱりだ。何か有るんだな」
「明日、休みでしょ。
午前中、ホームセンターへ資材を買いに行くから付き合って。
そのとき説明してあげる。
小豆島へ来てからユキがふさぎ込み、なぜ無口になっているのかを」
(42)へつづく
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次の日から巣箱造りがはじまった。
老人との朝食がおわると寅は、少し離れた作業小屋へ向かう。
午前9時。巣箱造りがはじまる。
海を見おろす作業小屋で、3人並んで巣箱造りの日課がはじめる。
丘から見下ろす3月の海の色は心地よい。
瀬戸内海は内海。そのため太平洋や日本海と海の色が異なる。
水深が浅く、水の交換がさほどない。
島が多く点在し、影ができるなどの条件のため紺碧の色は出ない。
そのかわり場所により緑やヒスイ色に見えるときもある。
作業手順は頭に入っている。
鹿児島で30個ちかく製造している。ここでの目標も30個。
会話もなく、もくもくと3人で作業する日がつづく。
そんな中、寅には気になることができた。
小豆島へ来てから急にユキが無口になったことだ。
あれほど快活だったユキが口をひらかず、黙々と作業している。
寡黙なユキへ、チャコも声をかけない。
一週間後。作業を終えた寅がチャコへ声をかけた。
「何かあったのかい?。ユキちゃんに」
「何もない。いつも通りのユキだ」
「そんなことない。おかしいだろ。
箸が転がっても笑っていた子が、ひとことも口をきかないんだ」
「ユキにも話したくない時がある。
そんなに気になるのなら自分で聞けばいいだろう。
どうしたユキ。なにか有るなら俺に言え。相談にのるからって」
「相談したいことがあるのか?。ユキちゃんには」
「誰でも悩みはある。それが人生というものだろう」
「人生について考えているのか。ユキちゃんは」
「自分の人生について考えないのかい、寅ちゃんは?。悩みは無いの?」
「考えないさ。考えたところでうまくいくと思えないからな。
気がついたら小豆島でハチを捕まえるための巣箱をつくってる。
美大を出てデザイナーになるはずだったのに、どこかでなにやら間違えて
いつの間にかこんな生活になっている。
どうなっているんだ・・・俺の人生は?」
「卒業できないくせによく言うわ」
「君が決めつけるな。可能性はゼロじゃない」
「限りなくゼロにちかいくせに。うふふ」
「俺のことはいい。問題はユキちゃんだ。
小豆島へ来てからずっとふさぎ込んでいるんだ。変だろう」
「ふさぎこみたくなる理由があるからね。ユキには」
「どんな理由だ?」
「説明するのは難しい。長い話になる」
「やっぱりだ。何か有るんだな」
「明日、休みでしょ。
午前中、ホームセンターへ資材を買いに行くから付き合って。
そのとき説明してあげる。
小豆島へ来てからユキがふさぎ込み、なぜ無口になっているのかを」
(42)へつづく
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