落合順平 作品集

現代小説の部屋。

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (21)

2017-01-03 16:53:17 | 現代小説
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (21)
 清子とたまの、独り言




 「どちらが先に惚れたかは、定かでありません。
 でもいつのまにか、小春と喜多方の小原庄助さんが、切っても切れない
 恋仲になってしまったのさ」


 ミイシャの頭を撫でながら豆奴が、小春と喜多方で生まれた小原庄助の
馴れ初めについて、語り始める。
喜多方で生まれた小原庄助は、由緒ある酒蔵の跡取り息子。
喜多方は蔵とラーメーンで有名な町。ふるい町並みに12の酒蔵が立ち並んでいる。
3万7000人しか住んでいない街に、この数は、驚異的だ。
全国的に見ても、特筆すべき数と言われている。


 それには、確かな理由が有る。
町の地下を流れていく、飯豊山系の豊かな伏流水が重要な役割をはたしている。
澄んだこの水が、酒造りと、美味しいラーメンの麺を生む。
「五百万石」や「京の華」。「華吹雪」など、酒造に適した米が盛んに作られる。
これらの地元米をつかい、長年にわたる酒造りがおこなわれてきた。



 「喜多方の小原庄助さんの酒蔵には、200年余りの歴史があります。
 当主は代々、弥右衛門を名乗ります。
 当人で9代目。
 2000石の生産規模は、地酒のメーカーとして大手の部類に入ります。
 (1石はお米150kg相当。体積にして約180リットル)
 喜多方の小原庄助と、売り出し中の小春がたまたま、湯西川で行き会います。
 財力と面立ちに恵まれた若旦那と、小粋で女盛りの小春が恋に落ちるのに、
 それほど時間はかかりませんでした。
 愛し合うようになったものの、その後の2人に、厄介ばかりがつきまといます」



 「誰かが2人の仲を邪魔したのですか?
 それとも、庄助さんと小春姐さんは、道ならぬ恋をしたのですか?」



 「清子はもう、道ならぬ恋、などという言葉をしっているのですか。
 そうではありません。
 いくら自由な恋愛が許される時代とは言え、名門で大手酒蔵の御曹司と、
 売り出し中の芸妓の恋愛では、失うものが多すぎます」


 「失うものが多すぎると、男と女の仲は、うまくいかなくなるのですか?」



 「清子もそのうち恋をする。
 いちどだけじゃないよ。生きていれば、2度も3度も火傷しそうな恋をする。
 それが女の性(さが)さ。
 泣くのはたいてい女。いつの世でも、たいていはそういう結果になる。
 惚れるのはいいが、訳ありの男を好きになると、大抵は身を滅ぼす結果を招く。
 危険だとは分かっていても、女は、そんな男をすきになる。
 そう思うだろうミイシャ、メスのお前も。うふふ」



 ミイシャの柔らかな毛並みに顔を押し付けて、豆奴がうふふ笑う。
豆奴の白粉の匂いに、たまがすかさず反応する。



 『いいにおいだぜ、白粉の匂いは・・・
 ところでよぉ。一概に、女がひどい目にあうとは限らないぜ。
 最近は美魔女なんていう生き物や、妙齢の悪女どもが増えてきた。
 女は油断できない生き物だ。
 ミイシャだって、そのうちにどうなるか、わかったもんじゃねぇ』



 おいらは絶対の騙されないぜと、清子の懐でたまがせせら笑いを見せる。
そんなたまの頭へ、コツンとひとつ清子がげんこつを見舞う。



 『痛てえなぁ。何すんだよ、清子。
 あれ・・・・お前。俺の言っていることがわかんのかよ?』




 『うふふ。お前が考えていることくらい、だいたい察しはつきます。
 お前も呑気だねぇ。
 周りを見て、おまえが置かれている状況を確認してご覧。
 春奴お母さんに豆奴姉さん。あたしとミイシャ。
 ほら。見渡すかぎり、全員が女です。
 余計なことを口にすると、全員を敵に回してしまいます。
 黙ってらっしゃいな、この口は。
 お口はチャック。手はお膝』


 お行儀よくしてくださいね・・・・と、清子がたまに笑いかける。




 『なんだよ清子。つれねぇ事を言うなよ。
 お前くらいは、孤独な俺の味方をしろってんだ。
 そんなことを言うと、もう、懐へ入って遊んでなんかやらないぞ』



 『いいわよ。もう、懐へ潜り込んで来なくても。
 だいいちお前ったら、すっかり大きくなってきたから、重いのよ。
 お前の重さのせいで、大事なあたしの胸が潰れてしまったら、
 お嫁に行けなくなるじゃないの』



 『嫁に行くのか。清子は』



 『もらってくれるのなら、いつでも行くわよ,お嫁に』




 『もらわれて行くのか、嫁ってのは。
 自分の意思では決められねぇんじゃ。人間てのも、見かけ以上に不便だな。
 好きなら好きで、本能のまま行動すればいいだろう。
 それが自然というものだ。
 やりたいから女のところへやりに行く。それだけが真実だ』



 『あんたって子は、本能を剥き出しにし過ぎ。
 しつこく迫りすぎるから、ミイシャに、いつも嫌われるのよ。
 女の子は繊細で、壊れやすい生き物なの。
 もうすこし女性の心理を勉強しておかないと、最後にきっと、嫌われます』



 『へん。大きなお世話だ。
 下手な鉄砲だって、数を打つから、たまには当たるんだ。
 今に見ていろ。ミイシャのハートも身体も全部、俺のものにしてやるから』



 『お前は考え方が、いたってシンプルで、ホントに気楽だわねぇ』




 『おう。シンプル・イズ・ベスト。これこそがおいらの生き方だ。
 男の道は、惚れた女にひたすら、脇目もふらずにまっしぐら。
 止めるんじゃねえぞ、清子。
 ミイシャ一筋においらは、熱い情熱をそそぐ!』



 『誰も止めやしません。
 やんちゃな子猫の恋なんかに、誰が興味があるもんですか。ふんっ』



 たまの恋よりも、もっと肝心なことが有ります。
小春姐さんと、喜多方の小原庄助さんのその後がどうなったかです、と、
清子がたまの頭を撫でながら小さな声でそっと、つぶやく。

(22)へつづく


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2 コメント

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お気の毒に・・ (屋根裏人のワイコマです)
2017-01-03 19:32:37
置いてきぼりでしたか ( ●^o^●)
でも、たまには静かで我儘勝手に
過ごすのも、またいいものですね
私もたまに一人にされることが
あるのですが・・泊まってきてくれれば
いいと思いますが、何時も夕飯までには
帰ってきてしまうんですよね
何時も、ゆっくりしておいで・・
と言っても、こちらの厄除けの
お寺さんの催事は8日と9日です
お仕事の人はお寺さんの日程に合わせ
きれませんよね。残されたお休みを
有意義にお過ごし下さい。

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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2017-01-04 17:10:50
正月休みの最終日です。
明日からは仕事。
一週間の休みなど、終わってみれば短いものです。
明日からまた、ホウレンソウの出荷です。
頑張って仕事をしたいと思います。
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