落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(62) 行くぜ北海道⑥

2019-12-10 17:53:15 | 現代小説
北へふたり旅(62) 


 
 発車の合図はベルではなく、青葉城恋歌。
懐かしいメロディーにおくられて、はやぶさ11号が仙台駅をあとにする。


 はやぶさは東京~新函館北斗間を、3時間58分で走りぬける。
東京を出たあと、大宮、仙台、盛岡、新青森で停車する。
途中で停まるのはたった4駅。これがはやぶさ号の速さの秘密。




 「お弁当箱の紐を引くと、あら不思議、冷めた牛タンがホカホカになります。
 すごいでしょ、この仕掛け。思わず2つ買ってしまいました」


 なるほど。ふたに『温まる牛タン丼』と書いてある。
薄切りの牛タンが麦飯の上に敷きつめてある。
牛タンは冷めると固くなる。
食感を戻すため、加熱式の容器をつかったのだろう。


 平らな場所へ置く。弁当を軽く押さえ紐を引く。
10分から15分待つ。蒸気が止まってもしっかり温まるまでお待ちください、
と注意書きが添えてある。


 「駅弁のスタートは、宇都宮駅で売られた握り飯。
 にぎり飯なら冷めても美味しく食える。
 窓から見える景色をサカナに、冷えても美味しく食えるのが駅弁。
 炊き込みご飯がおおいのは、水分が抜けてパサパサになるのを防ぐためだ」


 「では加熱容器で温めるのは、駅弁として邪道ですか?」
 
 「肉は冷めると固くなる。しかし。肉を名物にしている産地はおおい。
 加熱式容器の登場は肉を使った駅弁の救世主になった。
 いいんじゃないか。温める駅弁があっても」

 市街地を外れると、広大な景色が車窓にひろがりはじめた。
畑は無い。目に入るのは田圃ばかり。
東北は果樹や野菜の栽培も盛ん。
しかし東北全体を見た場合、米作りが農業の大半をしめている。
耕地面積の7割が水田。
320㎞で駆け抜けても、まだまだ果てしなく水田がつづいていく。

 


 「それにしても空席が目立ちますねぇ・・・」


 妻が車内を見回す。
今日は平日の月曜日。週末ではない。たしかに乗客の姿はすくない。
おおめにみても4割前後の乗車率。

 仙台駅へ到着した時は、ほぼ満席だった。
(おっ、満席だ!)と驚いたことを覚えている。
しかしその後の光景が衝撃だった。
停車した瞬間、乗客がいっせいに立ちあがった。
全員が仙台で降りるのではないかと思うほど、つぎからつぎ降りてきた。
降車する人がホームにあふれた。


 仙台から乗ったのは、わたしたちをふくめて20人ほど。
ようやくそこそこの乗車率へ回復した。
しかしそれもつかの間、盛岡でまたばらばらと乗客が降りていく。
数人がわたしたちの車両へ乗り込んで来た。
見回すと、やたら空席が目立つ状態になってきた。
乗務員が新青森駅で交代する。この駅でもまた乗客がおりていく。


 新青森から乗り込んでくる乗客は、まったくいない。
ついにわたしたちの前もうしろの席も空席になった。


 (全員が北海道まで行くと思っていたが違ったらしい。ガラガラだね)




 (そうですね。すくなからず寂しい光景です)


 お手洗いへと言って妻が立ち上がる。
3分後。妻が「大変です!」と声をあげてトイレから戻ってきた。


 「前の車両、乗客が溢れています。
 こちらはガラガラなのに、すごいなと思い覗いてびっくりしました。
 台湾からツアーの皆さんで、満席です!」


 すごいねと言いかけた瞬間、窓の外がとつぜん暗くなった。
本州に別れを告げたはやぶさ号が、青函トンネルの中へ飛び込んだ。
 


(63)へつづく



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2 コメント

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はやぶさも (屋根裏人のワイコマです)
2019-12-10 19:17:05
その新函館北斗に到着する時間の
列車によりけりで混雑具合に差が
ありますね~そして途中停車駅の
多いはやぶさもあるし・・少なく
とも今日本で一番快速で乗り心地の
いいのが・・はやぶさと思います
そしてこの新函館北斗行きには
車内販売があります。いつも決まって
この車内販売で・・谷川岳の水を買います
このペットボトルのキャップが
はずれなくて、私のお気に入り

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こんばんはワイコマさん (落合順平)
2019-12-13 18:20:59
12日。予定通りゴルフへ行ってきました。
前日の穏やかな天気から一転。
吹き飛ばされそうな強風が吹き荒れました。
グリーン上の枯葉の山。
ラフへ入ったボールは落ち葉に埋もれて見えません。
後続の3人組は、4ホールを残して早退しました。
群馬の冬にはげしい季節風はつきもの。
早くも季節の厳しい洗礼を受けました。
あ・・・本日より、ネギの出荷がはじまりました。
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