落合順平 作品集

現代小説の部屋。

 北へふたり旅(54) 北へ行こう⑩

2019-11-17 10:42:11 | 現代小説
 北へふたり旅(54)




 「滅多なことを口にしてはいけません。
 スマホで離婚する時代です。
 こんなの当たり前。けしてめずらしい光景ではありません」


 「スマホで離婚?」


 「ご飯を食べているときも、一緒に出かけているときも、
 ずっとスマホを手放しません。
 話しかけても上の空。
 そんな状態に嫌気がさして、離婚へ発展するそうです」


 「そこまで四六時中、スマホを見る必要があるのか?。
 いまの若者たちは」


 「暇なとき、何をしたらいいかわからない人が増えてきたからです。
 暇つぶしでSNSやゲームをはじめた人たちが、いつのまにか、
 スマホを手放せなくなる。
 スマホ依存症のきっかけはそんな風にはじまるそうです」


 スマートフォンには、中毒性がある。
車や自転車の運転中でもスマホに触る。スマホがないとなぜか落ち着かない。
会話中でもスマホをいじる。
風呂場やトイレにまでスマホを持っていく。
夜もスマホをいじる。睡眠時間が不足して翌朝、思うように起きられない。
こうなるともう完全なるスマホ依存症。


 全員がスマホ中毒とは限らない。
しかし座席に座っている全員がスマホ片手に、うつむいている光景は異常すぎる。
いや。立っている乗客でさえ、片手で器用にスマホを操作している。


 県境を越えた足利駅あたりから、夏休み前の高校生がふえてきた。
グループで乗りこんできた女子高生たちがいた。


 ひとりが耳にイヤホンをしている。


 「見て。最新の完全ワイヤレス。しかも防水タイプのイヤホンよ」


 「いいわねそれ。で、どうなの?。
 ドンシャリ?。かまぼこ?。それともフラット?」


 ドンシャリ・かまぼこ・フラット・・・
なんの話をしているんだ。この女子高校生たちは・・・


 「音響のことです。
 低音のドン、高温のシャリという擬音語を組み合わせて、ドンシャリです。
 その名の通り低音と高音を際立たせた、サウンドのことをいいます」


 「よく知ってるね君は。そんなことまで。
 では、かまぼこというのは?」
 
 「中域が強く、低音と高音を抑えたサウンドです。
 周波数のグラフが、かまぼこを切断した形に見えることに由来してます。
 ギターやバイオリンなどが聴きやすくなるそうです」


 「フラットというのは?」


 「すべての音域がまんべんなく出るタイプです。
 ありのまま伝わるため、生演奏に近いライブ感が楽しめるそうです。
 わたしも持ってます。ほら」


 妻の手のひらからワイヤレスのイヤホンがふたつ、コロッとあらわれる。


 「いつの間に手に入れたんだ・・・君は」
 
 「旅の必需品です。こういう小物も。
 でもわたしが楽しむのは、ふるいむかしの歌謡曲だけ。
 テレサテンはもう最高。うふっ。
 ここだけのはなし、これ演歌に特化しているイヤホンです。
 聴いてみたらどうですか、あなたも」


 妻がイヤホンのひとつをわたしへ手渡す。
半信半疑で耳へ差し込む。
いきなり艶のある歌声が、わたしの耳へ飛び込んできた。


 「ホントだ。まるでテレサテンが目の前にいるようだ・・・」


 それから10分後。電車は定刻通り小山の駅へ滑りこんだ。
スマホをポケットへおさめた通勤客と高校生たちが、いっせいに立ちあがった。


 
  
(55)へつづく



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4 コメント

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各メーカーも競争です (屋根裏人のワイコマです)
2019-11-17 18:51:47
いろんなスマホのタイプが沢山出てきて
ホント ピンからキリまで最近は子供
専用のスマホから高齢者専用のものまで
そして最近のキャッシュレスの推進などで
更にスマホが増えつつある。
そんな中で頑なにスマホを拒否し続ける
団塊族もある程度はいます。
でもその人達は世間から取り残されていく
最近は、TabletのLineで電話が出来るんですね
そんなことを最近知りました。
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おはようさんです! (sei19hina86)
2019-11-18 10:22:51

ブルースカイⅢです。
そうですねェ~!今は、スマホが無けれ
ば生活が成り立たないようです。
見ていると、大きな組織(スマホメーカー)
に操られているみたいで、今後が心配です。
その内、スマホにより人間がロボット化
するのではないでしょうか・・・。

私のスマホは、老人向けの簡単スマホ
ですが、通話とメール以外は使わない
です。
他にすることが沢山ありすので、スマホ
は見ません。

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では、また。(^O^)/
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こんにちはワイコマさん (落合順平)
2019-11-20 11:35:02
黒電話で育った世代です。
恋の告白をしたくても、親が取り次いでくれない、
そんな時代でした。
自分の気持ちを伝えるために手紙を書く。
親のいない時間を見計らって、彼女の家に
電話する。
そんな時代がたいへんに、懐かしい、今日この頃です。
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ブルースカイⅢさん。こんにちは (落合順平)
2019-11-20 11:41:03
電話を携帯できる時代がやって来るなど、
夢にも思いませんでした。
果たして便利になったのでしょうか?
こればかりは解りません。
スマホを使ったキャッシュレス時代の到来。
現金主義の私から見れば、どうなるのこの先・・・
の想いが強くなるばかりです。


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