北へふたり旅(6)

3月1日。朝から農場が騒がしくなった。
Sさんの発言が火種になった。
「3日にベトナムがやって来る。
寮はこちらで用意するという決まりだ」
「寮を用意する?。聞いていません。
こちらで滞在のためのアパートを、用意するということですか?」
突然の話に、奥さんの目が丸くなる。
「そういうことだ。
安心しろ。アパートは昨日おれが契約してきた」
「借りただけでは住めないでしょう?」
「そうだな。
とりあえず寝るための布団と、カーテンくらいは必要だろう。
おまえ。用意しておいてくれ」
奥さんの顔が青くなる。
「なに言ってんの、あなた。
蒲団とカーテンだけで、3年間も住めると思ってるのですか!。
暮らすためには準備があります。
ああ・・・もう~あなたったら、呑気なんだから。
甘いったらありゃしない」
「無理か。布団とカーテンだけじゃ・・・」
「当たり前です!」
たった2日で、借りたばかりのアパートを住めるようにするのは至難の業。
そばに居た妻がしゃしゃり出た。
「奥さん。私も手伝います」
「助かるわ。こういうとき、男は役にたたないもの。
掃除も必要だし、日用品も買い揃えなきゃいけないし・・・
手分けして、準備しましょう」
奥さんと妻が母屋へ消えていく。
Sさんが借りたのは、隣村の古い木造の一軒家。
一ヶ月の家賃は4万円。
トイレは、汲み取り式だという。
いまでも残っているのだろうか。そんな古式なトイレが。
Sさんは万事こんな調子。
作業中。ときどき居なくなることがある。
用事を思い出したのだろう。
または忘れていたなにかを思い出し、あわてて動き始める。
Sさんの頭に、ものごとの優先順位はない。
思いついたらそく実行にうつす。それを信条とする。
計画性はない。
ゆえに奥さんは、Sさんに振り回される。
「まったくもう、うちのひとときたら・・・」
今日もまた奥さんは、Sさんのしりぬぐいに走り回ることになる。
(遅くなりそうです。今日は)
助手席から顔をだした妻が、そんな風につぶやいた。
(7)へつづく

3月1日。朝から農場が騒がしくなった。
Sさんの発言が火種になった。
「3日にベトナムがやって来る。
寮はこちらで用意するという決まりだ」
「寮を用意する?。聞いていません。
こちらで滞在のためのアパートを、用意するということですか?」
突然の話に、奥さんの目が丸くなる。
「そういうことだ。
安心しろ。アパートは昨日おれが契約してきた」
「借りただけでは住めないでしょう?」
「そうだな。
とりあえず寝るための布団と、カーテンくらいは必要だろう。
おまえ。用意しておいてくれ」
奥さんの顔が青くなる。
「なに言ってんの、あなた。
蒲団とカーテンだけで、3年間も住めると思ってるのですか!。
暮らすためには準備があります。
ああ・・・もう~あなたったら、呑気なんだから。
甘いったらありゃしない」
「無理か。布団とカーテンだけじゃ・・・」
「当たり前です!」
たった2日で、借りたばかりのアパートを住めるようにするのは至難の業。
そばに居た妻がしゃしゃり出た。
「奥さん。私も手伝います」
「助かるわ。こういうとき、男は役にたたないもの。
掃除も必要だし、日用品も買い揃えなきゃいけないし・・・
手分けして、準備しましょう」
奥さんと妻が母屋へ消えていく。
Sさんが借りたのは、隣村の古い木造の一軒家。
一ヶ月の家賃は4万円。
トイレは、汲み取り式だという。
いまでも残っているのだろうか。そんな古式なトイレが。
Sさんは万事こんな調子。
作業中。ときどき居なくなることがある。
用事を思い出したのだろう。
または忘れていたなにかを思い出し、あわてて動き始める。
Sさんの頭に、ものごとの優先順位はない。
思いついたらそく実行にうつす。それを信条とする。
計画性はない。
ゆえに奥さんは、Sさんに振り回される。
「まったくもう、うちのひとときたら・・・」
今日もまた奥さんは、Sさんのしりぬぐいに走り回ることになる。
(遅くなりそうです。今日は)
助手席から顔をだした妻が、そんな風につぶやいた。
(7)へつづく