忠治が愛した4人の女 (43)
第三章 ふたたびの旅 ⑪

「あんたが国定忠治だって!。まっさかぁ・・・」
飯盛り女が、大きな口をあけてケラケラと笑いこける。
越後から来たばかりだという、16歳の小娘だ。
「忠治と名乗ったのは、あんたで3人目です。
だいいちさ。忠治はにっこり笑って人を斬る、鬼のような大男。
身の丈は6尺。目方は22貫。
あんた。小太りしているのは同じでも、どこからどう見ても
身の丈は5尺足らず。
忠治はもっと大きな男だよ。
嘘を言うのなら、もっと上手な嘘を言いなさいよ」
おとらと名乗った飯盛り女が、楽しそうにコロコロと笑いこける。
箸が転がっても可笑しい年頃だ。
よほど受けたのだろう。
目に涙をうかべ、これでもかとばかり笑いこけている。
「そういうおめえこそ雪ウサギみたいに肌が白いのに、おとらとは不思議だ。
なんか意味があんのか。トラなんて名乗っているのは?」
「親が勝手につけただけです。
生まれた干支が寅だから、ひらがなでとら。
ただそれだけのことです」
「そうか。俺のホントウの名前は忠次郎だ。
一文字減らせば忠治になるが、本物の忠治に比べてたら
おれの身の丈が、1尺ほど足らねぇ」
「そうよ。雲を突くような大男なんだよ、国定村の忠治は。
そうでなきゃ流れ者の無頼漢を一刀のもとでなんか、切り捨てられないさ」
おとらはとにかく、よく笑う。
「呑むか」と徳利を持ち上げると、「遠慮なく」と空になった茶碗を持ち上げる。
忠治は、おとらの明るさが気に入った。
「気にいったぜ。おめえのことが」と忠治が言えば、
「あたしもあんたみたいに、チビでデブなくせに、国定忠治だなんて
平気で嘘がつける人が大好き!」と目を細めて楽しそうに笑う。
「おめぇ。出はどこだ?」
「越後の出雲崎。目の前に、どこまでもつづくひろい海がある」
「海ってのは、そんな広いのか?」
「海を知らないの、あんた」
「産まれてこのかた、海は見たことがねぇ。
佐渡へは船に乗っていくという話だが、遠いのか、佐渡は?」
「佐渡は49里さきの波の上。
松尾芭蕉というひとが、荒海や佐渡に横たふ天の河、って詠んでるもの」
「へぇぇ・・・見かけによらず、学が有るんだな、お前」
「越後のことが知りたいのなら、いろいろと教えてあげる。
そのかわりわたしに、上州のことを教えてよ。国定忠治のにせものさん」
「にせものに教わるのか。
気をつけろ。ぜんぶ嘘ばっかり教えるかもしれねぇぞ」
「国定忠治と名乗った時はさすがに驚いたけど、あんたは嘘のつけない目をしてる。
あたし。嘘を言う人は大嫌い。
男の人ってその場しのぎで、平気で嘘をつくんだもの。
そんな男は大嫌い」
「なんだよ。さっきは嘘つきが好きといったくせに、ホントは嫌いなのかよ。
はっきりしねぇ女だな。おめえってやつも」
「あんたは嘘つきじゃない。他の男と、どこかが違うもの。
それに、あんたの目はまだ澄んでいる」
「そうか?。そうでもないぞ。俺の目は、けっこうな回数で、
この世の修羅場を見てきたぞ」
「うふふ。また可愛いことを言う。
そんな風に、強がりばかりを言わなくてもいいのにさ。
肩ひじ張って、格好ばかりつけていたら疲れてしまうわよ、ねぇあなた。
うふふ。国定忠治のにせものさん・・・」
(44)へつづく
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第三章 ふたたびの旅 ⑪

「あんたが国定忠治だって!。まっさかぁ・・・」
飯盛り女が、大きな口をあけてケラケラと笑いこける。
越後から来たばかりだという、16歳の小娘だ。
「忠治と名乗ったのは、あんたで3人目です。
だいいちさ。忠治はにっこり笑って人を斬る、鬼のような大男。
身の丈は6尺。目方は22貫。
あんた。小太りしているのは同じでも、どこからどう見ても
身の丈は5尺足らず。
忠治はもっと大きな男だよ。
嘘を言うのなら、もっと上手な嘘を言いなさいよ」
おとらと名乗った飯盛り女が、楽しそうにコロコロと笑いこける。
箸が転がっても可笑しい年頃だ。
よほど受けたのだろう。
目に涙をうかべ、これでもかとばかり笑いこけている。
「そういうおめえこそ雪ウサギみたいに肌が白いのに、おとらとは不思議だ。
なんか意味があんのか。トラなんて名乗っているのは?」
「親が勝手につけただけです。
生まれた干支が寅だから、ひらがなでとら。
ただそれだけのことです」
「そうか。俺のホントウの名前は忠次郎だ。
一文字減らせば忠治になるが、本物の忠治に比べてたら
おれの身の丈が、1尺ほど足らねぇ」
「そうよ。雲を突くような大男なんだよ、国定村の忠治は。
そうでなきゃ流れ者の無頼漢を一刀のもとでなんか、切り捨てられないさ」
おとらはとにかく、よく笑う。
「呑むか」と徳利を持ち上げると、「遠慮なく」と空になった茶碗を持ち上げる。
忠治は、おとらの明るさが気に入った。
「気にいったぜ。おめえのことが」と忠治が言えば、
「あたしもあんたみたいに、チビでデブなくせに、国定忠治だなんて
平気で嘘がつける人が大好き!」と目を細めて楽しそうに笑う。
「おめぇ。出はどこだ?」
「越後の出雲崎。目の前に、どこまでもつづくひろい海がある」
「海ってのは、そんな広いのか?」
「海を知らないの、あんた」
「産まれてこのかた、海は見たことがねぇ。
佐渡へは船に乗っていくという話だが、遠いのか、佐渡は?」
「佐渡は49里さきの波の上。
松尾芭蕉というひとが、荒海や佐渡に横たふ天の河、って詠んでるもの」
「へぇぇ・・・見かけによらず、学が有るんだな、お前」
「越後のことが知りたいのなら、いろいろと教えてあげる。
そのかわりわたしに、上州のことを教えてよ。国定忠治のにせものさん」
「にせものに教わるのか。
気をつけろ。ぜんぶ嘘ばっかり教えるかもしれねぇぞ」
「国定忠治と名乗った時はさすがに驚いたけど、あんたは嘘のつけない目をしてる。
あたし。嘘を言う人は大嫌い。
男の人ってその場しのぎで、平気で嘘をつくんだもの。
そんな男は大嫌い」
「なんだよ。さっきは嘘つきが好きといったくせに、ホントは嫌いなのかよ。
はっきりしねぇ女だな。おめえってやつも」
「あんたは嘘つきじゃない。他の男と、どこかが違うもの。
それに、あんたの目はまだ澄んでいる」
「そうか?。そうでもないぞ。俺の目は、けっこうな回数で、
この世の修羅場を見てきたぞ」
「うふふ。また可愛いことを言う。
そんな風に、強がりばかりを言わなくてもいいのにさ。
肩ひじ張って、格好ばかりつけていたら疲れてしまうわよ、ねぇあなた。
うふふ。国定忠治のにせものさん・・・」
(44)へつづく
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