君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

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☆入室ありがとうございます☆ PN:真城灯火です。 『小説家になろう』で書いています。「なろう」で書いている小説も転載させていますが、ここはアニメ「地球へ…」の二次小説置き場です。本編の『君がいる幸せ』は終了しています。今は続編の『限りある永遠』を連載中です☆まずは、カテゴリーの「はじめに」と「目次」「年表」で(設定やR指定について等…)ご確認の上、お進み下さい。 ブログタイトルですが、これの「君」は自分自身、心の事で、「僕」は自分の身体の事です。 自分の心がそうであるなら、自分はそれに従う覚悟を意味しています。 だから、ジョミーや誰かが一方的に誰かに…って意味ではありません。(小説停滞中) 2021年に、他にあるブログを統合させたので、日常の駄文とゲームの話が混ざった状態になっています。

「海を見たかい」 十四話 迷走前編

2012-07-24 02:52:56 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える大学生          秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?   ミソカとツゴモリ
能力は高いが見えない祖父           秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女      春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる        大川孝之
高校の同級生 カイが好きらしい…       三沢結花
秋月の本家 三鷹家の若き当主         三鷹誠記

 

 「迷走」前編


 何をしていたのだろう?
 どこに行こうとしていたのだろう?

 わからない。
 覚えていない。
 だた、わかるのは、
 自分があそこに居てはいけない事だけ…。
 ただひたすらに逃げていた。

「助けて」

 そんな声を聞いたのはそんな時、
 どこだ?
 どこで呼んでいる?
 ここは暗いんだ。
 何も見えない。
 ふいに誰かに手を掴まれた。

「助けて」

 彼を俺は助け上げた。
 そして俺たちは…。


「アキラ」
「どうした?疲れたか?」
「今日は忙しかったからなぁ」

 と口々に声が掛かる。
 そう、今日は僕のデビューの日だった。
 呆けてる場合じゃない。
 最後の客を見送って俺たちは店に戻った。

「どうだった?」
「ハズしたとこあったけど、良かったぜ」
「ありがとう」

 これが最後だった。


「何があった?」
「もう戻らない」
「どうしたい?」
「突き止めたい犯人を」

「僕と一緒になろう」

「何をしたい?」




 大学二年の春だった。

 俺は坂を上ってくる春野の気配を感じてミソカにこう言った。
「ここを守って。春野を守って欲しい」と、これが彼らをここに縛る。

「ここからは俺だけの…」
 そう言って俺はメゾンの前を入れずに通り過ぎる春野を追った。
「マズイな…。ここに入って来れない程の物を連れている…」
「春野」
 ハルさん…。
 今、俺の所で動かせるのはいない。
 俺だけで何とかしないと…。
 春野に追いついた俺は、リュックから護符を取り出し春野の前に回りこむと護符を通して念を送った。
 吹き抜ける風と一緒に、春野から何かが外れる。
 彼女はこれで安心だ。
「俺の家まで戻って、そして…待ってて」
 空を飛んでいた春野から出たモノが戻って俺の中に入ってくる。
「怨念…?」
 何人分の…?
 暗い…深い…思い…。

 俺はその後、失踪した。




「カイはどこ?」
 メゾンに入るとミソカは春野にそう聞いた。
「会ったのかな?だけど…私は何があったのか覚えていなくて…ここに戻るように言われたような…気がするだけなの…カイくん!」

 その後、約一ヶ月、カイの行方はわからなかった。

 大川と春野が方々に手をつくして探した。
 春野のオカルト情報のツイッターにある書き込みがあった。
「よく似た子が、新宿のクラブでバイトをしている」
 早速、春野は友人と見に行った。
「カイ君がホストなの?」
「ううん。バーテンの見習い?ってか、忙しい時に呼ばれる臨時みたいなのだって」
「秋月海くんはいますか?」
「カイに用事だって」
 春野は意外に早くカイに会えた。

「カイくん。何で連絡してくれないの?皆心配してるんだよ」
「ちょっと、やっかいな事になってて、ここを出れないんだ」
「ここ?この店?何、ここヤバイの?」
「違う。店じゃない。ここ。この新宿から出れないんだ。携帯も通じないし」
「?」
「どういう事?なんで?携帯できるわよ。出れないって?じゃ、私たちも出れないの?」
「ううん。春野たちは出れるよ。携帯も通じる。これは俺だけだから」
 カイは圏外になっている携帯を見せた。
「他の人のを借りても駄目で、公衆電話も俺が使うと通じないんだ」
 誰かにかけてもらっても駄目だった。不通になっちゃうとカイが言う。
「だから、事件を解決しないと許してくれないんだ」
「事件?」
「八年前の失踪事件」
「失踪?どんな?」
「ここは前はライブハウスだったんだ。けど…ここで歌ってた人で蓮見明良って人がね。居なくなったんだ。だけど、今、彼はここに居るんだ」
「ええ??どういう事?」
「さっき、俺を呼んだ彼が蓮見明良。全く同じ名前なんて有り得ないだろう?」
「彼は…霊なの?」
「ううん、ちゃんとした人間。身元もはっきりしている。もう一年以上ここで働いている人だ」
「いくつ?」
「二十四歳」
「失踪している蓮見を調べる為、警察にも行ったけど、年間何万も行方不明を出してるこの国じゃ、事件にならないと動いてくれない。家族ももう諦めている事件だから、何もしてもらえなかった」
「蓮見明良ね」
 と春野はメモして、知人に電話をしようとしたが、不通になっていた。
「俺と居るからだよ」
 と諦めたように笑った。
 電話は後でかけるとして、と春野。
「でも、カイくん。他に電話がだめなら手紙とか、一緒に居ない時にかけてもらうとか出来たでしょう?」
「お願いした人が何らかの事情で携帯を無くしたり壊したり、酷い時は怪我をしてしまったんだ。だから諦めた…その内、何かで分かるだろうと…」
「…そっかぁ…」
「で、事件だけど、解決する手口は彼と、蓮見の兄」
「お兄さん?」
「俺の部屋にいるよ」
「まだ俺は仕事で行けないから先に行っててもらっていい?春野ならきっと会える。いや、視える」
 春野は友人と別れた後で、大川に連絡をした。
「ねぇ、ミソカちゃん達は駄目なの?まだメゾンから出れない?」
「あれは、カイでないと戒めが取れないな…なんでそんな事をしていったんだろう…」
「とにかく、タカくんだけでも来て」
「了解」
 春野は大川と合流してカイのメモにあったマンションへ向かった。
 店に程近い、ワンルームマンション。


 カイの言った意味がすぐにわかった。
 蓮見の兄は霊だったのだ。

「こ、こんなに霊っぽい霊って久しぶり」
 と不謹慎な事を春野が言ってしまうほどの霊だった。
 青白い病弱そうな顔色、細い体。
 消えそうな声、ほとんど聞こえない。
  こんなに弱いのに、何故ここに留まっているのだろう?
「…犯人を…」
 と霊はそれだけ言った。
「失踪事件なのに犯人がいるの?」
「弟は何をしてたんだ?」
「何でそう思ったの?」
「何があった?」
「どうして?」
 と立て続けに聞いたので彼は消えかける。
「あ、ちょっと…」
 と見えている春野があわてる。
「なんでカイを巻き込んだんだ?」
 と大川の問いに霊が反応した。
「……」
 と春野を指差す霊
 そして、消えていった。
「わ、私?」

「ま、また私なの?」
「ま、そうだろうな。ミソカが言ってただろ?カイは春野を追っていった。春野しか戻らなかった。って」
「そうよねぇ、でもあの日私、カイくんに会ったけどそれすらもよく覚えてないのよ」
「前に、あの狼みたいのってのに操られていた時も覚えていなかったんだから、そういう時ってわからないんじゃないのか?」


「それは、憑依されている状態の事を言うね」
 とカイが入ってきた。

「お兄さんには会った?」
「ええ」
「何か言った?」
「犯人をって、良く聞き取れなったけど…多分それだけ」
 そっか…とカイ。
「ねぇ、カイくん。このお兄さんが私に憑依していたの?」
「ううん。あの日、春野についていたのは弟の方、もう祓うって問題じゃなかったから…とにかく、引き剥がしたら、俺が捕まっちゃって…気がついたらこの街だったんだ」
「じゃ、弟さんは死んでいるの…?」
「そう…お兄さんはそれを知らないままここにいる」
「教えないのか?」
「言っても聞いた時しか信じないんだ。彼らは時間が止まっているからね」
「どうするんだ?どこまでわかっている?」
「弟さんの失踪の原因はまだわからない。お兄さんの方はここに弟を探しに来たけど見つからずに実家に戻って失意のまま病死だそうだ。でも一番の謎は同じ名前の蓮見」
「経歴に怪しい点はなかったってのも変だよな」
「誰かのを偽っているとか?」
「だと思うんだけど…憑依だとしたら、彼は霊だ」
「でも、あんなにはっきり見えて、ちゃんと会話もして、仕事もしてるんでしょ?」
「そんな霊っているのか?」
「わからない…」
「俺たちは一度帰って外から調べてみる。また来る」
「頼む」
「カイくん。ミソカ達を解放できないか?」
「俺が直に言わないと駄目だろうな」
「何で残して行ったの?」
「…ここには、得体の知れない大きな穴があるんだ。人の欲望とかが折り重なって出来たもの…。ここには霊も渦巻いている。捕まったら逃げられないんだ。ここに連れて来たくなかった」
「でも、新宿に行くとは思っていなかったでしょ?」
「何となく、ヤバイ気配がしたから、残した…」
「そっか、あの子達が居たらあの彼の正体もすぐにわかるのにね」
「そうだね」

「カイ」
 と孝之が神妙な顔をしてカイを呼んだ。
「…何だ?」
「いや、なんでもない」
 そして、孝之と春野の二人は家へと戻って行った。


 底知れぬ、穴の上にある街。

 新宿…。









 迷走後編……つづく





「海を見たかい」 十三話 第七感

2012-07-23 01:24:21 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)


  「第七感」


 予知というものがある。
 俺はそれは出来ない。
 じいちゃんはそれが出来たのではないかと思う。

 たまにオカルト関係の依頼で「未来を視て下さい」と言われるが、それが出来たら俺はここに居ません。
 と答えていたが、本当にそうだ。
 そう未来は見えない。
 だから生きていけるんじゃないか。

 明日死ぬとわかってしまってもそれ以前と同じ生活がおくれる人はいないでしょ?
 死にたがっている人なら変わらないかもしれないけどさ…。

「あなたには未来がありません」

 そんなのが出てしまうのが怖くて視ないようにしているだけなのかもしれない…。
 だからそんな風に迷う人を正しい道に導くのが法なのだから、
 人は法に従っていれば良いのだと思う。




 春野の友人の妹が殺された。

 恋人とのドライブ中、ふとした事で口論になり絞殺された。
 当時未成年だったのと、彼を罵倒する彼女の姿の目撃者と新しい彼氏の出現などで、二転三転した裁判は長引いていた。
 これは二年以上前の事だ。
 まだ裁判中でその犯人の後に妹が見えるのだと春野の友人が言うので、俺達は裁判所へ向かった。

 彼は冤罪なのか?
 動機は何だったのか?

 彼は真犯人だと俺は思う。

 人を殺すなら自分も死ぬ覚悟がなければ殺してはならない。
 そうでなければ…後悔の念に絡まれた霊は存在しないはずだ。


  裁判所からの帰路

「春野さん。俺はこの事件に関して何も言わないよ」

 珍しく、さん付けで呼ばれた春野美津子はドキっとした。
 カイがそういう言い方をする時は、依頼通りに動けない時だったから…。
「どういう事なの?もう依頼は受けちゃったじゃない」
 と、わざとごねてみた。
「妹さんは俺に何も言ってこないからさ…」
「それじゃ、未練があって出てきているわけじゃないのね」
「そう…理不尽だと思うのは、それは人だからさ。生きているから…」
「何が見えたの?」
「何も…」

 春野は最近カイの様子がおかしいと大川と話していた矢先だった。
 自分が持ち込んだこの事件でカイを悩ませてしまった事を後悔し始めていた。

 おもしろ半分で始めたこの「何でも屋」も、もう一年近くになる。
 私と大川が動くごく普通のちょっとした事件とカイが扱うオカルト事件のその「重さ」の違いがはっきりしてきていた。
 それなりに解決してきているので、相談件数も増える。
 カイの場合は、電話で解決できてしまう物はその場で答えを出してしまっているので相談件数は多くても解決して来ているものは月に一件くらいだったが、中には今回のように動きたくても動けない物もあった。

「寝た子を起こす」
「火に油を注ぐ」
「火を以て火を救う」

 その辺りか…もっと酷いか…。
 春野はそれでもこの問題は解決しないといけないような気がしていた。


「秋月幸次郎さんですか?いつもお世話になっています。春野美津子です」
 春野は幸次郎に電話をかけた。
「こちらこそ、いつも孫を助けてくれてありがとう」
「いいえ、いいえ。私は助けてなどいません」
「春野さんがおるから、あの子はそこで元気にやっていられるんだと思うぞ」
「私なんか、出会った時から問題ばかりで…」
「それが、あの子には必要な経験なんだ。色々知って色々悩むのが青春だろう」
「でも、最近カイくんの様子が…」
「人間不信になっているようだの」
 ああ、そうか。
 カイくんは人の醜い部分を見過ぎたんだ。
「そ、そんな時はどうすれば…?」
「あんたたちが傍にいれば立ち直るよ」


 私と大川は「商店街の福引で当たった」と嘘をついて旅行を計画した。

 行き先は横浜。
 日帰りで行ける場所だけど1泊にした。
 外人墓地とレンガ倉庫、大桟橋の観光コースそして、中華街。
 夜は中華、食べ放題のバイキング。

「紹興酒はねぇ…」
 と春野が機嫌良さげに言う。
「最初は砂糖入れると良いんだよー」
「砂糖を入れたって、僕らは飲めないから、春野」
 春野はざるとまではいかなくても普通に強かった。

「まったく役に立たないんだからぁ…」
 食べすぎでベッドで唸る二人を見て春野が呟く。
 カイは食べすぎなのに、額にタオルを乗せて冷やしている。
 ここ一年の付き合いで春野には、彼がこうして頭が痛いと言っている時は何らかの能力を不用意に使った後か、気がかりな事がある場合に起きるのはわかっていた。
 「…役に立たない?」
 やがて、いびきをかいて眠てしまった大川を見て
「いつもと違う所へ連れて来ればって、俺が絶対聞き出してやるって言ってたの」
 と春野は言った。
「すみません。気を使わせてしまって…」
「いいのよ。カイくんの事件。私たちのより重いんだもの。塞ぐ時もあるわよね」

 重い?重くなんかないよ。
 それは人がそう判断するだけ…。
「ありがとう。春野さん」
 春野はカイの表情を読んでいた。
 カイは普通の人が言いにくい、謝罪や感謝の言葉は口に出来るくせに肝心の悩み事は言ってこない。
「カイくん。私はね。謝ってもらう為にこんな事したんじゃないのよ」
 そう言って春野はツインのベッドの方にイスを向けて座った。
「今度の事は私が持ち込んだ事件。しかも殺人事件っていう重大事件なの」
「…はい」
「だからね。そこの学校に何かが出るとか、真夜中の最終列車とか、コックリさんをやったとか、そういう事件じゃないの。だから、ちゃんと皆が上手くいくようになんて解決しようなんて思わなくていいのよ。変な答えでもいいの。それが妹さんの本当ならそれでいいのよ」
「春野さん…」

 カイが天井を見つめたまま春野に問いかけた。

「春野さんは俺をどう思っていますか?」

「どうって…」
 いつもの雰囲気なら「好きよ」と言える所だが、春野は思わず聞き返していた。
「そうだな、好きとか嫌いじゃなくて、俺が怖くないですか?」
「怖い?カイくんを私が怖がるの?」
「そう…」
「怖くないわよ」
「ですか…」
「大川くんもきっとそう言うわよ」
「…大川に俺をどう思っているなんて聞きたくないなぁ…」
 とカイは少し笑った。
「でも、きっと、怖いなんて思っていないわ」
「じゃあ、俺が何をしても信じてもらえます?」
「え?」
「あ、いえ、何を言っても信じてくれる?」
「ええ、もちろんよ」

 カイは温まってきたタオルをひっくり返して目に乗せてこう言った。

「あの妹さんは…彼が幸せに生き長らえるのを望んでいるんだ」

「生き長らえる?どういう事?」
「二人は多分、本当に愛し合っていた。だけど、ささいな事で喧嘩をして殺した」
「…ええ」
「殺された時に彼女はとても後悔した。彼も激しく動揺して自分も死のうとした。これは事実だ。だけど、彼は死に切れなかった。彼女は彼が死なないように必死に止めた」
「……」
「やがて、彼は捕まり裁判になった。彼女はずっと傍にいて死なないようにしていた」
「じゃあ、後悔や反省の言葉は本当だったの?」
「そう。彼は本当に後悔して死でもって償おうとしていた。最初はね」
「最初は?」
「最初の一ヶ月くらいはそう思っていたみたいだけど、弁護人が付いて色々吹き込まれる内に生きたくなったんだ。だから、その後の証言はとても着色されている。死人に口無しだ」
「じゃあ、偽証なの?」
「残念ながらそこまでの嘘はない。それに、俺達ではそれが嘘だと証明出来ない」
「俺は生きたくなった彼を責めていない。彼女がずっと生きてと願っているのが哀れなだけだ」
「カイくん…」
「うん…?」
「それのどこが、言えない事だったの?」
「だって、そうだろ?哀れじゃないか?家族にどう言えば良いんだ?自分を殺した相手を今も愛しているなんて言っていいのか?」
「良いんだって、それが事実なら。そう言っても」
「…良かないよ…」
「今まで、カイくんは、踏み切りの時も、学校の時も、コックリさんだって、依頼人が傷つかないようにって考えてたよね?それで自分で罪を被ったりもしてたでしょ?でも、それはさ、もう話せない人の思いを、事実を伝えてない事になっちゃってない?」
「……でも、言うと…」
「でも、それでカイくんが段々人間嫌いになったら私が困るもの」
「…人間嫌い……」
「そうよ」
「…なってないよ…」

「ねぇ、カイくん。私をどう思ってる?」

 と言って春野はカイのタオルを取って上から覗き込んだ。
 目の前の春野の顔と髪と胸。
「は、春野…さ…ん」
 春野のいきなりの行動にカイは慌てた。
「こ、これは、さっきのお返し…?」
「ふーん。ごまかしたり強がっても無駄だからね。どう思っているのか、ちゃんと答えなさい」
「す、好きですよ…」
 カイは真っ赤になり目をそらし答えた。
「目を見て言って欲しかったけど、言えた事で許してあげようかな?」
 と春野は抱きついてきた。
「わっ。春野さん。離れて!酔ってますよね?」
「酔ってないわよ。あれくらいで平気よ。気分が良いだけ。お姉さんは嬉しいの」
「やっぱり、酔ってるでしょ?離して下さい」

 やがて、春野はカイのベッドで眠ってしまった。
「やれやれ…」
 カイは毛布を出してきて一つを春野に掛けて、自分も包まるとさっきまで春野がいたイスに座った。


「視たままの真実が正しいと言えないんだけどね…」



 俺から聞いたこの話を春野は友人にしたという。
 その友人がどんな答えを出したか俺にはわからない。

 春野とまだ付き合っている所を見ると彼女はそれで納得がいったのだろう。
 


 俺は先を視る事が出来ない。
 それは俺自身が先を視るのが怖いからなのだろう。

 視たままが正しい訳じゃない。
 霊だって、元は人間なのだから…正しい行いだけじゃないんだ。

 だけど、どれが正しいのかはやはり人それぞれが決める事なのだろう。








「海を見たかい」 十二話 春待草

2012-07-23 01:16:16 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)


  「春待草」 


 結花は三年振りにあの日の事を話せた事が嬉しかった。

 あの日の事は、一年の時に謝ってあったし、高校時代、彼らとは、そこまで普通の会話が出来ないという訳では無かった。
 だけど、事件の話は、自分が話せば話すほどに海に悪い噂を付けるだけだったので、話してはいなかった。
 大川からの電話で海が事件の話をしておきたいと聞いた時、自分はどうすればいいのか、と思った。
 そして、電話を切ってからうかれている自分に気が付いた。

「海くんに会える」

 その日の為に、服や靴を買って、髪もセットして化粧方法まで変えた。
「香水も買ってきたりして、私ってバカみたい…」
 それでも、それだけでも、嬉しかった。

「君を守らせて欲しいんだ」

 あのミソカというカイくんの式神を見せる時に、彼は確かにそう言った。
 その言葉は、あの日を思い出させた。


 小学校の頃
「私はあんな子何とも思わないわ」
 同級生が秋月くんを良いと言うのを私は気にもしていなかった。
 気にしていなかったのに、妹の美緒がカイくんを良いと言い出した。
 その所為で私達は塾の帰りが一緒になった。
 ごく普通のおとなしい男の子、別におもしろい所があるわけじゃないのに、皆は何処が良いのだろうと思っていた。
 それでも、彼の行った中学の行事には美緒に付き合わされて良く行っていた。

 中三の時、進学塾の帰りに私の自転車がパンクした事があった。
 もう店もやっていなくて、押して歩いている内に雨まで降ってきた。
 傘も無くて、みじめになって寂しくて泣きそうになってた時、彼の家の前を通り過ぎた。
 少し行った所で彼が傘を持って追って来た。

 傘を私に渡して
「自転車、俺が押してくよ。それと、遅いし送っていく」
 と言った。
 その時、初めて彼が私の背を抜かしている事に気が付いた。
 ここ一年以上、こんなに近くで話す事が無かった。
 彼が急に異性に見えた。
「カイくん。背が伸びたね」
「ん、半年で、十センチくらい一気にきたかな。親に筍みたいだって言われた」
 と笑った。
 視線の位置が違うとこんなに違って見えるんだ。
 と、別に何とも思っていなかったのに、彼の髪と目の色が少し薄い所も私をドキドキさせた。
 そして、ちょっと低くなった良く通る声も…。
 私はそれからは、彼の顔が見れずにずっと彼の手だけ見ていた。
 そう、私は彼を好きになった。


 あの事件の日、妹の美緒が彼に助けを求めたのは、彼に霊感があるとかだけの理由じゃない。
 妹が彼を好きで、私も彼を好きだと知っていたから…。
 私を助けられるのは、カイしかいないと美緒は思ったのだ。

「美緒は?」
「危ないから帰らせた」
「今頃は家に電話しているだろう」

「大丈夫だ」
「君を連れてここを出るから」

「俺を信じて待ってて」

 きっと、とてもすごく大事なあの独鈷を渡すのは勇気がいっただろう。
 それでも、泣き出してしまった私の為に残していってくれた。
 泣き出したのは怖かっただけじゃない。
 思いがけなく彼が現れたから…。 
 
「結花、俺を呼んで」

 カイくんは、私の事を結花と呼ぶ、皆は「ゆか」と言うけど、カイくんは「ゆっか」と何となく小さい「っ」が入る感じだった。
 小学校の頃から気付いていたけど、カイくんはあまり人を苗字で呼ばない。
 女子であっても本人がイヤがらない限り名前で呼ぶ事が多かった。
 だから、こちらからもカイくんだった。
 でも、さすがにカイくんも、中学に入ってからは名前で呼んだりするとからかわれたりするので苗字で呼んだりしていたが、それでも呼べる範囲は名前で呼んでいたらしい、その辺りの親しげな所が女子から人気を集めた理由なんだろう。
 高校一年のあの事件の後で、カイくんが入院した病院にお見舞いに行った時、私はなかなか会わせてもらえなかった。
 一度だけおじいさんが病室に入れてくれた時、私は思わず「好きです」と言ってしまった。

 でも、私は事件を起こした当事者で、彼は助けに来てくれたのに、私が色々言った所為で変な噂まで立ってしまっていたから…。
 だから、もう。
 この気持ちはあの病室で言った事で終わり。
 
 そう思っていたのに…。
 また私を守ってくれると言う。
 それは、嬉しかった。

 また会えて話せたのも嬉しかった。
 だけど、もう甘えてはいけない気がした。
 守れられるだけじゃなくて、私にも何か出来る事はないの?
 カイくん。

 その方法を教えて。






「三沢結花をまだ好きだろう?」
 孝之がそう俺に聞いた。

 そう。
 まだ好きだ。
 だけど、それだけだ。

 あの事件で彼女を助けられた事で俺はこの気持ちを留めよう。
 と思っていた。
 もし、付き合えたとしても俺は彼女には告白はしない。
 どこかで終止符を打たないといけない。

 俺が好きでいると彼女に危害が及ぶ、俺が一緒にいてはダメなんだ。

 孝之が俺に彼女が出来るまで自分も作らないと考えている事を俺は快く思っていない。
 だけど、俺も結花に彼氏が出来る事を願っている所がある。

 そうすれば、俺は解放される。
 でも、それで良いのだろうか?

 春野の所に式を残した、狭山誠記。
 あいつの行動が理解できる気がする。


 俺たちは「三鷹」に縛られている。

 俺は十五の時の、あいつのあの宣戦布告で「三鷹」を壊そうと決めた。


 だけど、あの頃は俺には何もなかった。
 今は、ミソカやツゴモリ。
 あの我皇までいる。

 けど、これでも、まだ全然足りない。
 力の差が歴然としている。

 俺は強くなりたい。


 それにはどうすればいいのだろう。
 俺自身に足りない物がある。
 あいつにあって、俺に無い物。

 俺は守られていてはいけない気がする。
 俺自身の甘えを取り除く方法を見つけないといけない。

 


 だが、これは俺の驕りでしかない事に俺はまだ気付いていなかった。 




 


「海を見たかい」 十一話 初戦敗退

2012-07-23 01:02:10 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える大学生            秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?     ミソカとツゴモリ
能力は高いが見えない祖父             秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女        春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる          大川孝之
高校の同級生 海の事が好きらしい         三沢結花



  「初戦敗退」 


 春野の高校の卒業アルバム

 あの日、彼女はこれを探していて怪我をした。
 それがあの狼みたいなものの出現に繋がった。
 ピンバッジが悪いんじゃない、アルバムだ。

「やっぱり…」
 春野は俺たちより八つ上だ。

「三-E 狭山誠記」

「彼が三鷹誠記だ」
 カイが指を示した。
 俺と春野はアルバムを覗き込んだ。

 高校のブレザーを着た。黒髪のごく普通の少年が写っている。
 どこにも変な感じはしなかった。
 高校を出てから何かあったのか?
 写真に写り込まないようにしているのか?
 それとも…
 これが彼の本当なのだろうか?
「あ…」
 と春野。
「これが?」
 と孝之。
 あの「犬神家」のイメージの三鷹家の現当主。
 って感じは全然しなかった。
「あ、じゃあ、母親がスゴイ人だったとかか?」
「孝之、犬神家を引きずるなよ…。普通の人だよ。会った事はないけどね」

「この子に、私、告られた事あるわ…」
「え?それで?」
 と。二人
「ごめんなさいって、断ったの。だって…」
「好きな人、いたの?」
「その頃は別に居なかったけど…彼、根暗くんとか、呼ばれていたのよ…だから」
「でも、卒業時にピンバッジは受け取ったんだ?」
「は?え?彼のじゃないわよ。ちゃんと好きな男子のをもらったのよ」
「…自分で目の前で取ってもらったんじゃないだろ?」
「ええ、他の男子に頼んで……あれ、狭山くんのだったの?えーーー…」
 と春野はショックを受けていた。
「その彼がどうしてそうしたか知らないけどね…」
「カイ。それ…慰めになってないぞ」

「でも、苗字が狭山なのね」
「三鷹姓には、当主とその妻と子しかならないんだ。誠記は前の当主、三鷹幸一の本当の子供だけど、母親が、愛人だったから、養子で入ったんだ」
「…カイくん。そういうのサラっと言い過ぎ…」
「俺の一族にはありふれている事だし…」
「で、カイ。この男とその狼はどう繋がるんだ?」
「ん?簡単じゃないか。狭山誠記は春野が好きだった。だから、彼女に変な虫がつかないようにしていたんだ」
「変な虫?何それ?」
 だから彼氏が出来なかったの?とまたまたショックを受けていた。
「……」
 いやそれは、それだけじゃないよ。
 と思うカイだったが、春野を無視して話を続ける事にした。

「春野がケガをした事と、俺が傍に居た事で式が反応したんだ」
「じゃあ、狼ってのは、そいつの式神なのか?」
「そうだよ」
「十八~二十六才まで式神を使ってたって事か?」
「そうなるね」
「って、お前。その式神を焼いたんだろ?それって問題にならないか?」
「向こうの式が勝手に俺を敵と見たんだ。こっちは携帯壊して、ツゴモリ使っても逃げられた。初戦惨敗だな」
「おい。本家の当主なんだろ?そんなのに手を出してお前の家は無事で済むのか?」
「もちろん無事じゃないさ。三鷹と問題を起こしたのはこれで二度目だ。二度とも、それなりの処罰は受けた」
「え?」
 処罰?そんな事は…聞いてないぞ。
「それって、何なんだ?」

「俺は東京に出て来る時に、勘当されているんだ」
「え?えーーーーー」
 これは孝之と春野が一緒に言った。
「だが、お前が東京に来る事になったのは高校一年の事件の所為だろ?」
「私と会ったのってこっちに出て来てからじゃない」
 これも、2人一緒だった。

「俺のじいちゃんは「三鷹」と俺を遠ざける方法として俺を東京に行かせようとしていたんだ。だから、高一の事件も、式とモメたのも好都合で、勘当って形にしたってだけだよ。それで、俺に独鈷を送って来た。で、俺が二十歳になったら、あのメゾンの土地も権利も全て俺に移る事になっている」
「でもそれって、私の所為よね?」
 春野がそう言った。
「私が声を掛けたりしなければ、カイくんに興味を持って近づかなければ…」
「かもしれない」
 とカイ。
 春野がちょっと傷付いた顔をした。
「でも、こんなに近くに住んでいるんだ。きっと俺が色々背負ってる春野さんを見つけてさ。声を掛けていたと思うよ。そしたら、逆ナンじゃなくて、普通にナンパになるね」
 と笑った。
「カイくーーん。君、お婿さんにおいで」
 とカイに抱きついた。
「ちょ、わかったから離して。行くとこ無かったら考えるから。離して」
 とカイは悲鳴を上げた。

「オイ」
 と孝之が俺と春野を引き剥がして会話に入ってきた。
「高校1年の時のは何だったんだ?」

「ん…俺の再教育と…」
 あからさまにカイは苦い顔になった。
 なんでそこを気にするかな?って顔だった。
「…言いたくないんだけど…」
 小さい頃から変な経験をしてきていたカイは少々の事で動じない。
 そのカイが傍から見てわかる程に、困っていた。
 でも、その動じかたが、困難にあってしまったという感じではなくて、妙に恥らっている感じだった。
 見ている俺の動悸も上がってきてしまった。
「あ、いや。そ、そんなに言いたくないなら…」
「何二人で照れてるのよ?」
「は、春野さん。だってよ、カイが…」
「……」
「それって言わなくても済む事なら良いけど…。さぁさぁ、孝之は放っておいて、お姉さんになら言えるわよね?」
 と迫ってきた。
「あの…だからさ、い、医学的になんだけど…」
「医学的?」
「そう、医学的に…俺の…子供が人質になってるような…」
「子供!?」
 と、これも2人が同時だった。
「こ、子供になる前の…俺のその…だ…だから…、医学的になんだって…」
 カイがうろたえ下を向いたままそう答えた。




 あれは、事件が起きて5日程過ぎた頃、俺の病室に三鷹から迎えが来た。
 まだ動ける状態じゃなかった俺を三鷹の本宅に私設の救急車両で運んだ。
 俺の処罰は、一ヶ月の「三鷹」での再教育だった。
 表向きは有能な人材を失わない為の再教育だけど、その方法は洗脳だ。

 我皇とのダメージがまだ残る内にマインドコントロールみたいな事を
 三鷹の下にいないとまた怖い目にあうぞ。的な言葉を延々聞かされた。

 俺はかなり捻くれているので、三鷹に守ってもらおうなんて思うような事はなかった。
 でも、ある日、
 三鷹誠記が俺の前に現れた。

 本家に連れてこられて10日程した時…俺は三鷹の医者から言われた。
「体のダメージも無くなりましたね。それでは三鷹の為にあなたの精子を取らして頂きます」
「せ、精子?な、なんでそんな…」
「優秀な子供を残す為ですよ」
「そんな事、勝手にさせるもんか!」
 と俺は力一杯抵抗した。
 結局は採取された。


「秋月 晦(ミソカ)」
 
 静かに頭に響いてくるようなその声
 その声に俺は起こされた。
 さっきまで居た医務室ではなく、別の部屋だった。
 細く開けられた障子から夕日が差し込んでくる。
 その陽を背にして男が立っていた。

「三鷹誠記さん?」
 俺は起き上がって言った。

「よくわかったね」
「俺をその名前で呼ぶのは、本家しかいない…」

 語尾も語気も薄れる気がする。
 これが人なのか?

「私が怖いですか?」

「…ええ…悔しいけど…怖いです」

「そう。素直だね」
 そして、彼は可笑しそうに笑い出した。
「いくら素直でも、私は君が嫌いなんだ。何も知らないのに知ったような顔が嫌いなんだ」
 俺の周りの空気がチリチリと音を立てて針のようになった気がした。
 実際、少しでも動いたら刺さるような感覚があった。
 これを俺は小さい時に、三鷹で感じて泣き出した。
 あれは、この男からだったんだ。

 これは人の「憎悪」という悪意だ。
 俺は何故、こいつに。

「君にさ。素敵な物をあげれると思うから、楽しみに待ってるといいよ」
「…素敵な物?」
「ああ、そして生まれて来た事を後悔させてあげる」
 そう言って三鷹は部屋から出て行った。

 人ではないような。
 人そのもののような。

 空気が重過ぎて気持ちが悪い…。
 彼を真正面から見てはいけない気がした。

 俺は俺の黒い部分を通してみるしかないのだろうか?
 彼は…どうして俺を憎むのだろう…。

 その訳を俺は……知りたくなった。





「で、何?医学的って…何だよ?」
 と、孝之はわからない顔をしている。

 俺は現実に引き戻された。
 ここは暑い夏の公園だ。

「あ、わかった」
 と春野が言う。
「何?」
「だからね、カイはこう言いたいのよ」
 と、孝之を連れて行って、彼に聞こえるように小声で話した。
「カイの意思に関係なく、子供つまりは精子を取られたって事じゃない?」
「なるほど、そうか。そりゃ言いにくいよな」
 と、孝之はニヤニヤと俺を見た。
「うるさい。放っておいてくれないか?」

「だけど、それっておかしくない?それが処罰になるの?」
「うん…。勝手に子供を作られたら困るのは三鷹の方なのに…それでどうしろって言うんだろうな」
「人質ねぇ、確かにその言い方で、あっているのかもしれないわね」

 でも、子供を作ると言う部分は言えるのに、「精子」が言えないなんて…。
 男の子ってわかんないわね。
 と思う春野だった。
 後で、この事を孝之に聞いたら、
「そこは男のプライドの問題だ」
 と答えた。
 そんなの、よけいにわからないわよ。

「まぁ、ともかく「三鷹」に変な弱点を握られているのはわかったわ」

 でも、自分の所為でこんな事になっているのは事実だし。
 高一の時の事件にしても同じような物…。
 彼の祖父ではないけど、そこから彼を救い出してやりたい気分になった春野だった。



 あの結花と再会した日の帰り電車で、俺とカイはこんな会話をした。

「お前は三沢結花をまだ好きだろ?」
 と俺が聞いた。
「好きだけど…俺はそれだけでは動けないんだ」
 カイは答えた。
「どうして?告白する度胸が無いのか?三沢もお前の事を悪くは思ってない感じじゃないか。三年も好きだったなら言ってしまえよ。すっきりするぜ」
「そんな軽はずみな真似は出来ないんだよ」
 カイは俺を見た。
「好きな子に好きって言うのは軽はずみじゃ言えないだろ?誰だって真剣なんだぜ」
 俺の中であの夏の日が浮かんだ。

「告白する事が、簡単に出来るって思ってはいないよ…」
「じゃあ、どこが軽いって言うんだ?」
「その先だよ…」
「その先?お前、告白する時にそこまで考えてるのか?」
「考えないのか?」
「考えない訳じゃないけど…」
「なら、同じじゃないか?」
「でも、そこまでって考え過ぎじゃないか?そのHするって事だろ?」
「人としての責任だろ」
「せ、責任?それじゃ、お前、いつも持ち歩いてたりするのか?その、避妊の……」
「…持ってるよ」
「……お前って…何なんだよ…どこかの遊び人か?」
 と俺はカイをからかった。
「悪かったな。お前とは違うんだよ」


 三鷹という血筋が彼を縛っている。

 好きだけじゃ動けない事。

 簡単に付き合ったり出来ない事。

 人としての責任。

 ほんの一週間ほど前の、あの日の普通の恋愛話に聞こえる俺との会話の一つ一つの温度の違いを俺は今、知った気がした。



「タカくん。私、ものすごくカイくんを守りたくなってきちゃったわ」
 と俺を見て春野が言った。
「春野さん、俺も助けたくなってきたよ」
「春野が俺を守る?タカユキが俺を助ける?それ何でだよ。それ反対じゃ…」
「カイくんを守る会でも作ろうかしら?」
「作ってもいいけど、春野さん、それダジャレ?」
「本当に作っちゃおうか?」
「って、おい。俺の話、聞いてる?」
「カイ。この前、本の山から助けてやったじゃないか」
「あ、あれは、無理して一人で動いたら本が傷みそうだったから、上からどけてもらっただけで…」
「照れない照れない、カイくんはね。人を守ろうとするばかりで自分が守られるって事を知らないのよ。だから、思いっきり守られたり助けられたりした方がいいのよ」

「て…照れてない。俺は、あんなドジはもうしないから。いいんだ」



 また今年も暑い夏が来た。
 あの日を思い出させる嫌な季節だ。

 でも、今年は違う夏になるような気がした。

 何かが動き始めている。
 そんな気がした。






「海を見たかい」 十話 三鷹家の一族

2012-07-22 13:51:08 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える大学1年           秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?     ミソカとツゴモリ
能力は高いが見えない祖父             秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女        春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる          大川孝之


 
  「三鷹家の一族」

 季節が夏に変わり、またあの暑い日を思い出させる時期が来た。

 あの高校一年の事件から三年。
 俺たちは再会した。

 俺、秋月海と大川孝之、三沢結花。

 俺たちは、あの日以来、三人で会話する事がなかった。


 新宿の駅近くにあるホテルのラウンジで待ち合わせた。

 俺と大川が早く着いた、約束の午後二時の五分前に結花が現れた。

「お久しぶり」
 結花が少し他人行儀に挨拶をする。
 彼女は薄く淡い花柄のブラウスと白いスカートと低めのパンプスだった。
「元気だったか?」
 と大川が声をかける。
 俺はその横で手を振った。

 俺たちはホテル内のカフェに予約しておいたテーブルに案内された。
 一通りの自分達の近況を話して会話は始まった。

 そして
「美緒ちゃんは元気?」
 俺はあの事件に俺が介入するきっかけとなった彼女の事を聞いた。
「元気してる。あの子も本当はちゃんとあの時のお礼がしたいって言ってたけど…」
「ん…。俺の親に会わせてもらえなかったんだろ?」
「ええ…」

 窓の外はギラギラとした夏景色だ。
 あの夜は暑くて、そして寒かった。

「あのさ」
 大川が口を挟んだ。
「電話で言ったけど、今日は高一の時の事を、カイが、話したいって言うんだけど」
 大川は俺を見る。
「…カイ、あのさ…嫌ならいいんだぜ。お前、言いたくなさそうだし…」
 と、へへっと笑った。
「…ん…言いたくないと言えば、そうだけど。いや、そうだなぁ…。これから話すのは、お前達は関わらないで居たほうがいい事なのかもしれない。とは思う。呼び出しておいて、言いたくないから帰れと言ってるように聞こえるけど…俺も、もちろん言える範囲でしか教えられない…だから、聞いたからといって害が及ぶような事はないけど。…あまりいい話でもない。それでも聞きたいなら…」
「俺は聞きたいと思う。お前が言いたくない部分まで聞こうとは思っていない」
「秋月くん。私も…知りたい…」
「わかった」
 俺は彼らの瞳を見て確認をした。

「まずは、ちょっと出しておきたい物がある。一応、護身だ」
 と俺は携帯と、懐紙に包まれた塩を用意した。
 それをテーブルの真ん中に置く。
「そうだな、何から話せばいいのだろう。あの日…あそこに居たモノについてだけど、俺が、「我皇」と呼んだのが一番やっかいなヤツだった。何故か旧校舎に居た訳だが…それについて話すのに俺の家について話さなきゃならない。俺の家の本家は、三鷹一族という霊能力者の集まりだ。その三鷹があの旧校舎に我皇を一時的に封じていたんだ。それを知らずに踏み込んでしまったという事だ」
「あの、白い髪の顔の長いのだろ?何でそんなのを…」
「経緯は、俺も詳しくは知らされていないんだ」
 結花は思い出したのか少し青い顔になった。
「我皇は怖くないよ。三沢」
「秋月…」
「我皇より怖いのは、人間さ。俺…俺達の方がやつらよりずっと怖い…。我皇の事より、俺の家の本家のが怖い。それを聞いてから、あの日の話をした方がわかりやすいと思う」
「お前の家が怖い?」
「うん」
 
 テーブルのアイスコーヒーの氷が溶けて涼しげな音を立てた。

「俺の、秋月の本家は三鷹と言って、平安時代から続く家柄らしい、始祖は陰陽師の一派だった。主に星詠みと暦、天候を見ていた。やがて星詠みが変化して予知になった。予知が当たる事で貴族社会で重宝されて、その後の武家社会でも色々と働いて、江戸時代に関東にやってきた。そう聞くと何かすごい事が出来そうな気がするよね?でも、予知なんてものは自分で作れる部分があるのはわかる?」
「作る?」
 結花はわからないようだった。
「たとえば、誰かが病気になると予知したとする。どうすればいい?」
「え?」
「そう言われた人を病気にすればいいって事か?」
 と孝之が言った。
「当たりだ。そうすれば予知は当たった事になる」
「とんだはったりじゃねぇか?」
「ま、全部が全部、嘘だった訳じゃない。天候を読んでいたり、霊能力者も多く出しているから、でもね。そうやって権力者に贔屓にしてもらえるようにしていたのは事実なんだ」
「……でも…それでも、カイくんの力は本当よね?」
「ああ、残念ながら俺のは嘘じゃない。でさ、ここからがちょっとグロイんだけど…」

「大丈夫?」
 と俺は彼らに再度確認をした。
 二人は無言で頷いた。

 たとえ、彼らが興味本位で聞きたがったとしても、そこで彼らは聞く方を選んだ。


「霊能力に関してだけど、陰陽師だった時代からそれなりの力があったらしい。その力は一族の中で、血の中で継続されてきた。その意味は一族以外の婚姻がされなかったって事なんだ。能力を持つ者だけが当主になれる。大きな権力を持つのには争いがある。その争いで家が絶えないようにと、血を守る為に、一族は四つに分かれた。四季に合わせて、春は雪下家、夏は日比野家、秋は秋月家、冬は霜月家。それと、遠縁になるが…京都に残った松月こと、九条家。とこんな感じだ」
「……別にグロイ事ないじゃないか?」
 孝之が聞いてきた。
「充分、グロイんだってば…」
「殺し合いとかあったのか?」
「犬神家みたいなの?」
 結花が言った。
 俺と孝之は顔を見合わせた。
 おいおい。せめて「ひぐらし」だろう?と孝之が言った。
 それならまだ「犬神家」のが近いと俺は思った。

「あ、いや。それなりに家督争いはあったし、色々とモメたりとかはしたんだろうけど、能力の有無で決着が着くからね」
「そか…」
 と結花が恥ずかしそうに俯いた。
 
「だから、問題は血族なんだって。より能力の高い子供が産めるかどうかになるんだ」

「あ、近親婚か?」
 と、孝之が静かなカフェで言った。

「………おい」
「大川君、声が大きい」

「家系図として文書には残ってないけど、そういう…兄と妹とか…親子とか…そうやって血は継続された。今は、雪下家と日比野家は絶えてもう無いんだけど。冬の霜月家はここ何年も能力者を出していない。で、俺の家だけど、秋月家はじいちゃんが見えないけど強い人なんだ。あの日、結花に渡した独鈷はじいちゃんの物だ」
 俺は思わず結花と言ってしまった。
 でも、あえて言い直しはしなかった。

「それじゃ、カイくんのおじいさんが三鷹を継ぐことになるの?」

 あの日、独鈷を持った時の安心感は結花にもわかったのだろう。
 結花にじいちゃんに対する怖さは無かった。
 それを俺は嬉しく思った。
「ううん。強くても見えないのはダメなんだ。三鷹は今、従兄弟が継いでいる」
「でも、それだと、長男とかの直系に力の強いのが生まれなかったら、どうなるんだ。お前は見えるんだろ?その相続に関わったりしないのか?」
 と孝之が言う。
「従兄弟は僕より八つ上の二十六歳で若いし、まだ継いで間もないから、俺自身は関係ないよ」
「その従兄弟よりお前が強くなったりしたら交替とかなるんじゃないか?」
「彼は俺より強い。だから、それはないな」
 と俺は笑って言った。

 三鷹には得体の知れない怖さを俺は感じているので、出来れば相続なんて考えたくもなかった。

「それで、あの日の我皇なんだけど…。あ、そうだ。これを一度持って」
 俺は結花に赤い紐の鈴を渡した。
「おい、その鈴って。何をするんだ?」
「この前、俺が学校でお前に助けてもらっただろ?あの時、従兄弟の声を聞いたんだ」
「三鷹を継いだ?」
「そう。三鷹誠記(ミタカマコト)と言うんだけど、今まで、そんな風に声が聞こえるなんて事無かったんだ。その時」
「何て言ってたんだ?」
「俺が倒れていた時、そんな事をしてたら守れないぞ。って」
「何を?」
「大川や、春野さん。それと三沢さんを…」
 そこで俺は結花から鈴を返してもらい
「あの旧校舎での事を、三鷹が知っているのは当然だとして、ただのご近所さんの春野さんを知っているのはおかしいだろ?それに守れないってどういう意味なのかと…」
「春野さんって意外に有名だったりしてな」
「まぁ、彼女の事はいいよ。後で考えよう。今は…」
 と俺は立ち上がり結花をエスコートするように手を出した。
「カイ?」
「結花さんも守ってくれるように、ミソカに会わせようと思って、それともう一人いるんだ。ここじゃちょっとマズイから外へ行って来る。孝之には後で会わせるよ」
「……秋月くん…」
 何が起きるのかわからない結花は怯えだした。

「大丈夫だから、俺を信じて」

 それは、あの日、結花を守ってくれた言葉だった。
 結花は独鈷を握り締めて、彼が無事に戻って来るのを待ったのだ。
 三年前の気持ちが湧き上がりそうだった。

「大丈夫。秋月くんを私は信じている」




「カイを出し抜こうなんて考えたのが、間違いだったんだ…」

 結花と秋月の二人がホテルの外へと行っている間、孝之はそう思っていた。
 俺はあの日、我皇ってのに飛ばされた。カイが結花の方に走ってゆくのを見て俺も彼女を助けようと廊下を歩いた。
 階段を曲がって、あの化け物と対峙しているカイを見た。

「俺は死んでもいいから、皆を守れる力を」

 あの言葉は、あいつの何処から出てきた言葉なのだろうと思った。
 カイは俺から見たら、普通だった。
 勉強や運動、背も普通だ、顔は母親似だからか優しい感じはするが、普通だ。
 髪と目が少し茶色だったが、気になる程じゃない。
 高校一年の時は、今よりもっとおとなしくて、今は俺様的な部分はあるけど…。
 普通のやつなんだ。

 あんな…自分の命を人の為に…なんて…。
 それって、普通じゃ出来ないだろ…。

 どこの、ヒーロー物なんだよ。
 どこをどうやったら、そんな言葉が出てくるんだ?
 かっこつけでもない。
 本当に死ぬかもしれないあの状況で…。
 あんな時だからこそだったのか?

 さっき聞いた「三鷹」の家の変な血の繋げ方と「秋月海」との根本的な違いを俺は感じていた。

 俺はあの時、普通だと、俺より下だと思っていた秋月が俺よりも上をいっているのかもしれないと思って、友人としてやってゆく自信がなくなった。
 それで、俺は高校の間ずっと悶々として過ごした訳だが…。
 カイが東京へ行く事になって、俺も東京を目指した。
 結花が何を思って出て来たかは、わからないが、俺とそう違わないんじゃないかと思う。




「うわぁぁぁーー」

「はい。静かに」
 とカイが俺の口を押さえた。
「なんだよ。お前、結花さんよりうるさいじゃないか…」

「だって、だってよ。俺、これに殺されかけたんだぜ…」
「それなら、結花さんだって同じだろ?」

 驚く俺の横で結花がクスクス笑っている。
 この子は意外に度胸が座っているのかもしれないと俺は思った。
 しかし、驚くな。と言う方が無理なんだ。

 カイの横には、あの「我皇」が居るのだ。


「俺との対決に負けたからって、俺の式になるって言うんだよ。それって、なんかポケモンみたいだろ?」
 とカイが笑って言った。
「ポ…ケモン…」

「我皇が驚かせた事を二人に謝りたいっていうから連れてきた」
 彼は霊力が高いから、人前では出せなくて、とカイが言う。
「お前も、これに殺されかけただろ?」
「ああ、そうだな。俺は彼よりずっと弱いから、独鈷が助けてくれなきゃ危なかったな」
「…俺、お前の考えが読めない…」

「我皇は怖い霊じゃないんだ。でも、こちらが攻撃すれば当然反撃してくる。その力が半端ないってだけなんだ」
「猛獣みたいなもの?」
「理性のある猛獣だね」
 とカイは笑う。
「まぁ、本音を言うと俺は三鷹にこいつをおいて置きたくない気がしただけなんだ」


 そして、俺たちは三沢を見送った。



 それから、数日後、あの桜のある公園に春野を呼び出した。

 こういうのが大好きな彼女は大喜びで、俺に「我皇とのツーショット」をデジカメに収めさせた。
 我皇もまんざらではないようで、彼女の守る事を引き受けてくれた。
「タカユキにはツゴモリね」
 とミソカが言う。

 合計三体の式神を出しているカイに
「カイくん。能力上がってるよね?」
 と春野が聞いた。
「んーと、これのおかげなんだ」
 とカイはバッグから独鈷を取り出した。
「それって、大事な物なんだろ?」
「ま…前みたいに勝手に持ち出したんじゃないぞ。ちゃんともらったんだ」
 とカイがあわてた。
 カイが独鈷をしまうと、ミソカたち式も消えた。

「結花がちゃんと理解してくれたかはまだわからないが、今度は春野に話す番だ」

「じいちゃんから独鈷をもらった時に、聞いたんだけど」


「あの狼みたいなのの正体がわかったんだ」
 

 俺と春野は見てはないが、カイから話は聞いていた。
 春野は夢遊病者みたいにここまで来た事を覚えていたし、
 俺はあの日、二人を尾けていた事は話してあった。



「春野、高校のアルバムを見せてくれる?」
 と静かに言った。