どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

松谷みよ子の『現代民話考』⑩最終回

2022-06-07 18:52:40 | 名作いいとこ取り

松谷みよ子さんが長年にわたって収集した日本の民話の数々の中から、その一部を紹介させていただいた。

初回では、歴史家色川大吉氏の推薦文「現代の民衆の心意現象を表現」を引用して、松谷みよ子さんの成し遂げた仕事の重要性に注目したが、実は他に二名の方が推薦の辞を寄稿しているので、末尾で劇作家木下順二氏の推薦文も引用して『現代民話考』12巻(立風書房刊)の拾い読みの〆としたい。

まずは<河童考>の続きで、<河童の婿入り>

①河童の子を産む(高知県の話)

<この話は、まっことの話じゃけん伝えちょきますらあえ。高瀬口にせんびの舟着きのあったころ、わたしの隣に豊蔵というて、生きておれば百二十ぐらいになる舟乗りがおったそうです。嫁さんが、おつるというて亭主をこびく(溺愛する)女だったそうです。夫の炭を積んだ舟が川をくだって見えなくなるまで見送り、見えなくなると翌朝積んで出る積み荷の準備を済ませてそれがすむと川下を向いて佇み立って夫の曳き上げくる舟が川端へ着くまで待つそうな。夫が戻ると二人で朝出る積み荷をしておくのが何時もの習慣でありました。それで風向きが悪かったり、出口で積み荷おろしの都合で手間どって帰り時間が遅うなる時にはいつまでも川下へ向いて夫を待ったそうな。晩春のある夕方、川下を見つめて、舟を曳きあげて帰る夫の姿を今や遅しと待つ、おつるさんの心にはおかまいなしに、時はどんどんたって日が暮れかかった頃川端から、生ぬるい風が吹きあげてきた時に風でおつるさんの前がまくれたので「あらッ」と声をあげて前を押えたその手に、「ぬるッ」としたものが手に触れたので思わず金切り声をあげて倒れましたと。当時小船運送屋の元締めをしていた渡辺庸太郎夫婦が声を聞いて駆け付けた時は前のはだかのままのおつるさんが仰向けになって、昏睡をつづけておったそうなが、揺り起こされて話すところによると夢のようだと言いましたと。庸太郎さん夫婦は、「年若い女が夕方川端へ出るもんじゃない」というて話していたそうなが、それから後は豊蔵も舟で遅うなることもなし、おつるさんも川端で佇むこともなく年を越して翌年おつるさんはお産をしたそうなが、たいそうな難産で二日目に立ち会ったお医者さん門田雄哉という人は、不思議な赤児を見たというたそうです。それから、おつるさんの産んだ児は猿猴じゃったそうな。お医者さんが瓶に詰めて取っていんだそうなと噂があったそうな。わたしが前の川に水遊びに出かける毎に母が夕方まで川端で遊ばれんいうて教えてくれました。(高知県・中平良生)文

②岩手県二戸の話。

<河童をめどつという。五十年ほど前(明治二十六年頃か)村人に呼ばれて出かけたりしていた福田の子なさせ婆さんが、一生に一度おかしな者を産ませたことがある。この山の上に住む寅という者の妻がめどつを生んだ。お産のときある産婆が呼ばれたが、いくらたっても生まれない。何か大切なものを懐中に入れてくるのを忘れて来たとて、その産婆が帰ってしまったので、代わりに福田の産婆が頼まれた。それでもどうしても生まれない。それを無理に生ませたらめどつであった。頭の上に袋があり、これを壊したら水が一升ぐらい出た。この水がある間は千人力があって生まれなかったのである。これを壊したら力が弱くなって生まれた。袋のようなものが顔に下がっており、足と手の指はそれぞれ六本、鼻の穴は一つしかなかった。この女は山から帰ると必ず川に行くのである人が怪しみ、ついて行ったらだぶんと音がした。それがめどつではなかろうかと言われている。(出典・山口弥一郎著『二戸聞書き』=六人社)

*他にも類似の話がたくさんあるが、そろそろこの稿を終わることにする。冒頭にあげた通り、松谷みよ子さんの『現代民話考』への推薦文を引用して、民話の大切さを再確認するものである。

 

<「現代民話考」を推す――木下順二。・・・・民話なるものの疑いもない本質の一つは、その作者が名もなき、そして複数の民であることだ。そういう話が昔つくられ、それに代々の人びとの知恵を加えつつ語り伝えられてきたのが昔話だが、しかし民話のあのような本質から考えれば、民話は現代にも未来にも生まれるはずのもの、そして昔話も現代に生きる限り、現代の昔話である。その点をしかと押えて、現代の昔話を深くきわめようとしている第一人者が松谷みよ子さんだ。松谷さんのこの「現代民話考」は、そのような問題を考えようとする者にとっての、まさに宝庫である。.>

 

  (おわり)

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