この季節になると
さびしく死んでいった友人のことを
痛みと共に思い出す
小説家として期待され
あと一息でデビューを飾るはずだったのに
こころざし半ばで行き暮れたのだ
友を蝕んだのは胃がんであったが
辛抱しきれなかった苛立ちのがんとも言える
持って生まれた運命の黒い塊とは思いたくない
どんな作家に憧れたのやら
どこかで無頼派を気取っていたふしもある
あるいは耽美派ではとつぶやく者もいたが
短い小説は洋食に添える生花のようで
憧れる女性ファンは少なくなかった
潤いのある文節を食べてしまいたいとまで
だが現実は雑穀の粥のよう
日常の不如意は吐く息を白くする
焦らずに息長く書き続ければよかったのに
いつの頃か生家から見放され
新たに築いた家庭をも失った
妻子の去ったあとの深淵を誰が覗き込めようか
死に行く病床の枕元に立ち
やせ衰えた友人に頑張れよと声をかけたが
身内のいない酷さが甘い匂いの底に澱んでいた
小説家などと結婚するな
いまとなったら僕だって娘にそう言うだろう
虚無に重さがあるなんて誰が知り得ただろうか
文学仲間との旅行は安らぎの想い出
城ヶ崎公園の蝋梅の下に立ち
晴れやかに微笑む同人番長の写真がある
あの日から冬はいくたび巡っただろう
蝋梅の咲く季節は友の蘇る季節
凍える手に息を吹きかけ再びピン留めを試みる
(2016/01/08より再掲)
今となればもうお会いできませんが
折にふれ埋もれていた思い出がポロポロと浮かんできます。
それだけ魅力のある方だったと懐かしんでいます。
惜しい・・・・この一言が今の心境です。