ゆっくり読書

読んだ本の感想を中心に、日々、思ったことをつれづれに記します。

火の元

2013-11-16 21:15:31 | Weblog
今年の社員旅行は、上海から近い中国国内で、ゆっくりすることになった。
中国人社員からは「日本に行きたい」という要望が非常に強く、
理由を聞くと、ほとんどが「すごくいいって聞くから行ってみたい。買い物がしたい」だった。
特に、小さい子どもを持つ親たちは、日本ブランドの洋服や食べ物、おもちゃが買いたい、とのこと。
社員旅行というよりも、買い出しツアーだな。

中国で輸入品を買うと、日本の市価の倍ぐらいするし、
日本にいる中国人の留学生に手数料を払ってお願いすると、国際郵便で届けてくれるけど、
ネット上でそういうバイトをしている見ず知らずの学生たちには、
あやしい人も多いし、やはり自分の目で確かめて買いたいのだとか。

去年のバンコク旅行が大変に不評だったので、
国内小旅行でゆっくりしようという方針には、ほとんどの人が賛成だったのだけど、
今年入社した人は、やはり海外に行きたい様子だった。

中国人は、特に地方出身者は、中国国内もほとんど旅行したことがなく、
国慶節と春節に、上海と実家を、猛烈な人ごみの中、
ヘトヘトになって移動する以外に、中国国内を移動したことがほとんどない。
そして、都会に憧れて上海に来ているわけなので、地方都市にはあまり興味がない。

上海近郊でいくつか候補が挙がったうち、数人の中国人が「南京!」と言ったのだけど、
日本人と中国人が一緒に行って、仲良く帰って来られるとは思えないので却下だった。

南京と聞いて、ほとんどの人は「南京大虐殺」を思い出すけれど、
日本の当時の新聞報道や、当時は秘匿されていた細菌兵器のことはもちろん、
昭和2年の南京事件なども、いろいろと語れてしまう日本人が私以外にもいるので、
これでは、去年のバンコクと同じ結果になってしまう。
ただし「南京」と言った中国人は、南京大虐殺のことなんか考えずに発言している。
もしくは、私たちのことを日本人だと意識してない。

去年のバンコク旅行が不評だった理由にはいろいろあるけれど、
日本人と中国人のあいだの溝となった最大の理由はこれだろう。
空港で現地のガイドが帰ってしまい、代わりに派遣されて来た自称旅行会社の人が、
パスポートを集めると言ったので、
日本人は「知らない人にパスポートを預けるなんてイヤ!」と猛烈に反対したら怒られたので、
ある人が「中国のパスポートなんて欲しい人いないけど、日本のパスポートは人気なの!」と
口が滑ってしまい、中国人が猛烈に怒った。いまでも怒っている。
そういう日本語はバッチリ聞き取れるんだよなあ。

いまの若い人たちは、中国でパスポートを取得するのが非常に難しかった
たった20年前のことを知らない。
あの頃、日本のパスポートを何とか手に入れようとしていたのは、中国人だった。
それを日本人から言われると、中国人のプライドはいたく傷つくのだ。
怒っている理由はただそれだけで、中国人をもっとも信用しないのは中国人だから、
彼らも心の中では「そういう商売をやるヤツはいるだろう」と思ってはいる。
親戚の中には、それでお金を貯めた人がいるかもしれないくらいだ。
ただ、事実をネタに「そういうヤツら」を、ざっくばらんに、なかなか語れない。

だから、日本人が「日本人にも悪いヤツはいるよ。南京でも、いい兵隊さんもいただろうけど、
悪いヤツだって、それこそたくさんいたでしょう。そう考えると、きっと中国人も同じ。
当時は国民党だったわけだし、いいヤツもいれば、悪いヤツもいるよね」と言って、
「そうだね。私は祖父からこんな話を聞きました」と、日本人が期待する話の展開になるには、
その中国人が相当頭がいいか、外国なんて普通に行ける都会育ちの金持ちか、
もしくは、事前にかなりの努力をして人間関係を構築しておく必要がある。
単なる同僚やちょっとした顔見知りぐらいの普通の中国人(たぶん10億人以上いる人たち)は、
このセリフを日本人が言った途端に、シャットアウトしてくることだろう。
そして、それは彼らが予想していた話の展開とは違うからなのだろう。

ということで、中国人と知り合えば知り合うほど、
過去の話を中国人とするのは、かなり難しいと思うので、
こちらも無理して話を合わせたり、一緒に行動しない方が、お互いのためだとつくづく思っている。