人と、オペラと、芸術と ~ ホセ・クーラ情報を中心に by Ree2014

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2019年 ホセ・クーラ、BBCカーディフ国際声楽コンクールでマスタークラス

2019-06-24 | マスタークラス

 

ホセ・クーラは、今年のBBCカーディフ国際声楽コンクール(BBC Cardiff Singer of the World2019)で、初めて審査員を務めました。そしてコンクールの一環の行事として、マスタークラスを実施しました。

素晴らしいことに、その1時間半弱のすべての様子を、BBCウエールズが録画して、オンデマンドでアップしてくれています。

私も早速、視聴しました。舞台上の配置からして一般的なマスタークラスとは様相が違っているうえ、とにかくクーラの型破りの”先生ぶり”!爆笑につぐ爆笑で、あっという間の1時間半でした。もちろん英語でのやり取りなので、理解できない部分が多かったのですが、クーラの身振り手振り、声色を様々に変え、擬音まで使って語る様子、生徒や観客の反応、笑い声を聞いているだけで、こちらも楽しくなってきます。

とにかく、お時間のある時にでも、さわりだけでもぜひご覧になっていただきたいと思います。クーラに対しては、いろんな印象、評価をお持ちの方がいらっしゃると思います。この動画からは、クーラのユーモア、知性、オペラに対する知識と解釈、生徒に対する姿勢など、この間、積み重ねてきた、歌手として、また指揮者、演出家、作曲家として、多面的に発展させてきたキャリア、経験を生かして、全力で若いアーティストのために伝えようとする姿勢、そのユニークさと情熱は伝わるのではないでしょうか。もちろん「もっと真面目に」と眉をひそめる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは若いアーティストたちの緊張をほぐすためのクーラの配慮であるようにも思われます。

とにかく、ご覧になってみていただけると幸いです。

なお、このコンクールは、バリトンの故ディミトリ―・ホロストフスキーやブリン・ターフェル、ソプラノのアニャ・ハルテロスなどの国際的キャリアで成功する歌手を多く輩出しています。クーラ自身は、このコンクールに出場したことはありません。

 

●告知画像 コンクールのサイトのトップページにリンクをはっています。

 

 

≪クーラのマスタークラス動画リンク≫


●こちらの画像がクーラのマスタークラスの動画へのリンクです↓

 

 

≪マスタークラスの様子≫


もちろん動画を見ていただければ、それだけで何の説明もいらないのですが、一応、どんな風だったのか、少々、ご紹介を。

まずクーラが紹介されて登場、そして参加者を1人ずつクーラが呼び出して紹介。その後の舞台には、ピアノとピアニスト、そしてクーラと3人の出場者。通常、マスタークラスの場合、審査員を前にして、1人ずつ受講者が登場して歌う形が多いみたいですが、今回は、3人の生徒が舞台上にクーラとともにテーブルを囲んで座り、ずっとクーラの話を聞いています。テーブルの上には、楽譜のようなファイルと、水の入ったコップが4つ。クーラはコーヒーらしきカップも持って登場。

 

 

 

●1番目は、本選にも出場した南アフリカ出身のオーウェン君。ドニゼッティの「ランメルモールのルチア」から、エドガルドのアリア “わが祖先の墓よ”を歌いました。ベルカントの音楽の美しさとキャラクターの感情についてなど、興味深い指摘をしていました。クーラの”挑発的”な指摘によって、彼が見事に歌で怒りの感情を表現して、会場は大喝采でした。

最後の時間を使って、クーラは彼を再度、歌わせました。曲はクーラの18番、ヴェルディのオテロ第3幕の独白"Dio! mi potevi scagliar"。時間がなくてさわりだけ、そしてクーラのアドバイスもとても早口でしたが、彼に対する期待の大きさがわかりました。この時のヴェルディが書いた音楽の意味、オテロの解釈に関し、ヴェルディの手紙などについて語っていました。

クーラは、バリトンからテノールに移行した彼の声を、自分のような声だと言い、「君のようなテノールを求めている」「将来のオテロが見えてくる」、そして一番最後には、「いつか、あなたの初めてのオテロを指揮できるなら大変嬉しい」とまで述べて激励しました。 

 

 

おまけですが、こちらはクーラのオテロの同じ場面。2013年。クーラがマスタークラスで語っていた、オテロの心理、肉体の状態を示すオーケストラの音楽が最初に聞こえてきます。

Jose Cura "Dio! mi potevi scagliar" Otello

 

 

●2人目の受講者、27歳のヒュー君(?名前がよく聞き取れずすみません)。ベルリオーズ「トロイ人」から「おお、金髪のセレス」を選びました。

クーラ自身はこのオペラを歌ったことはないようで、「非常に長く複雑なオペラ」「自分はあなたたちのようにこの曲をマスターしているわけではない」と率直に言いつつ、「かつて、英国の指揮者サー・コリン・デイヴィスの依頼でバービカンからこの曲のスコアが送られてきたことがあったが、送り返した(笑)。自分はあなたのような勇気とl声を持っていなかった」というエピソードを告白していました。

クーラのアドバイスは、長いオペラを歌いきるうえでのペース配分の重要性、オーケストラの音をよく聞くことなど、歌手とオケとの関係、音楽が示しているムードや感情のつかみ方などを指摘していたように思います。また、彼のジャケットを脱がせてリラックスさせ、「あなたの美しい声で観客を愛撫するように」と、一緒になってゆらゆら手を動かしたり舞台上を歩いたり・・。

 

 

 

●3番目の登場、32歳、トリスタン君。ドニゼッティの「愛の妙薬」からネモリーノの”人知れぬ涙”を歌いました。

クーラはますます調子があがってきたようで、爆笑につぐ爆笑。たとえ話が意表を突くものばかりで、またネモリーノのキャラクターとこの曲に込められた思いをどうとらえ、どう表現するのか、エロティックな表現もまじえ、面白くて興味深い話の連続でした。とはいえ単なるジョークや軽口ではなく、ドラマとキャラクターの本質をどう分かりやすく、リアルに伝えるのか、現代のオペラとはどうあるべきか、クーラならではの知的な分析があってのうえでのことです。ぜひご覧になってお楽しみください(笑)

 

 

 

≪カーディフ国際声楽コンクールの審査員として≫


今回、コンクールには全部で20人が出場、4つのラウンドに分かれて5人ずつで歌い、各ラウンドから選ばれた最優秀者4人と、それ以外で次点と考えられる1人の計5人が決勝で歌いました。

全ての審査の様子は、コンクールのHPに公開されています。 → 2019年BBCカーディフ国際声楽コンクール

 

こちらは、審査員としてのクーラの紹介動画。クーラ自身がFBに掲載したものです。「カリスマを探す」と語っています。

 

ともに審査員を務めたうちの3人の女性と。ソプラノ歌手、キリ・テ・カナワ、フェリシティ・ロット、メゾのフレデリカ・フォン・シューターデ、ベテランぞろいです。

 

 


 

 

今回のコンクールでは、各ラウンド、決勝ふくめ、全部の審査の様子が公開、放送されただけでなく、関連行事の、このクーラをはじめとする全部のマスタークラス、出場者のリサイタルなど、全編がオンデマンドで公開されています。世界中の声楽を学ぶ若い人たち、オペラファン、関係者にこうした様子が共有されていることは、本当に素晴らしいと思います。おかげで、私もはじめてクーラのマスタークラスの全編を見ることができました。BBCに感謝です。

録画を見ていただければと伝わると思いますが、クーラの若いアーティストたちへの愛と期待、同僚として先輩としての後輩たちをリスペクトし、自分の経験をできる限り伝えたいという思いがつよく感じられました。率直でユーモアたっぷりの話しぶり、参加者を笑いでリラックスさせながら、でも指摘の鋭さ、分析の深さには、やはり長年の歌手としての経験とクーラが歩んできた自立したアーティストとしての生き方、そして指揮者、作曲家、演出家として活動してきたクーラの、音楽・スコアとリブレット、オペラのドラマへの理解の深さ、高い知性が示されていると思います。

最後に、途中でクーラが触れたことには、少しドキッとさせられました。クーラは、今回のコンテストで、イタリアオペラのレパートリーの参加者がもっとも良くなかったと、審査員としての感想を述べ、その理由には、パヴァロッティなどの大歌手が亡くなった後の、イタリアの音楽学校、業界の衰退があることを指摘していました。そしてイタリアはオペラ発祥の地であり、自分が生きているうちは、そういうことは許さない、それは自分の責任だ、と話していました。なるほど、クーラはそういう見方をしていて、そういう覚悟と思いで活動しているのだと、とても印象に残りました。

私自身は、全く素人で、音楽について無知であり、おこがましいことではありますが、ぜひ1人でも多くの方に、このクーラのマスタークラス、視聴していただきたいと思います。とにかく、面白いです(笑)。ふざけているようで、本気、クーラの深い、つよいメッセージと愛が込められています。

 

 


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2 コメント

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Mrs (RH)
2019-06-24 04:31:33
見ました! とっても感動してこのコメントを書いています。ホセクーラはまだ若くて有名になりかけの頃(もう20年ほど前)ROH で彼のオテロを見ました。
その時は本当にがっかりしてそれ以来一度も聞いていませんでした。今回彼が成長して素晴らしい歌手であり先生であることを発見して、これを書いてくださった貴方に感謝しています。ありがとうございます。
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コメントありがとうございます! (Ree2014)
2019-06-26 08:17:47
コメントありがとうございます!
しばらく気が付かず、公開・返信が遅くなって失礼いたしました。とても嬉しいです。
本当に、ユニークで楽しいマスタークラスでしたね!

ROHのオテロ、2001年頃でしょうか。もし差し支えなければ、どんな点にがっかりされたのかご教示いただけませんか?

私はまだクーラのオテロ実演を見る機会がなく、録音・録画だけでしか聞いていません。かなり歌を減らし、作曲、指揮、演出に比重を移しつつあるので、早く聞かないと生のオテロを聞き逃しそうで、ちょっとあせっています。
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