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論文)重力刺激に応答したアミロプラスト沈降の分子的役割

2024-02-04 14:55:07 | 読んだ論文備忘録

Amyloplast sedimentation repolarizes LAZYs to achieve gravity sensing in plants
Chen et al.  Cell (2023) 186:4788-4802.

doi:10.1016/j.cell.2023.09.014

LAZY ファミリー遺伝子は、重力屈性応答を正に制御しており、シロイヌナズナlazy 多重変異体の根は単独変異体よりも重力応答性が低下する。中国 清華大学Chenらは、CRISPR/Cas9で作出したシロイヌナズナlazy2 lazy3 lazy4lazy234)三重変異体を用いて根の重力屈性応答とLAZYタンパク質との関係についてについて解析を行なった。lazy234 変異体の主根と側根は全ての方向にランダムに伸長したが、重力方向を変えた際のコルメラ細胞でのアミロプラストの沈降は野生型植物と同じ挙動を示した。よって、これらのLAZYタンパク質はアミロプラストの沈降に関与していないことが示唆される。また、DR5ver::GFP オーキシンレポーターの発現から、lazy234 変異体では重力方向の変化に応答したオーキシン分布の変化が見られず、これらのLAZYタンパク質は重力刺激が誘導するオーキシンの極性分配と屈曲応答に必須であることが示唆される。lazy234 変異体でLAZY-GFPを自身のプロモーター制御下で発現させ、LAZYタンパク質の細胞内局在を確認したところ、3種のLAZYタンパク質はコルメラ細胞細胞の周縁部だけでなく、アミロプラスト表面にも局在していた。解析の結果、LAZYタンパク質は、複数の膜リン脂質、特にホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)と結合することが判った。したがって、LAZYタンパク質はリン脂質との結合を介して膜に結合している可能性が示唆される。N末端領域が欠失したLAZYタンパク質は、アミロプラスト局在が見られず、lazy234 変異体の重力屈性の欠損を補完しなかった。これらの結果から、LAZYタンパク質のアミロプラスト表面の局在は重力屈性にとって重要であると思われる。LAZYタンパク質はコルメラ細胞の下側に優先的に局在しており、重力方向を変えることで、LAZYタンパク質は再配置されて下側に多く蓄積した。ホスホグルコムターゼ1が機能喪失したpgm1 変異体のプラスチドは、デンプンを含まないため重力応答が遅くなり、LAZYタンパク質の新しい下側への再分布が遅れた。このことから、重力刺激後のアミロプラストの沈降はLAZYタンパク質の再分布を促進していることが示唆される。複数の画像データから、LAZYタンパク質はアミロプラストに隣接する細胞膜領域に優先的に局在することが確認された。また、LAZYタンパク質はアミロプラストから隣接する細胞膜へ移動しうることが判った。LAZY4-GFPタンパク質の免疫沈降-質量分析(IP-MS)解析から、LAZY4タンパク質に複数のリン酸化部位が見出され、リン酸化は重力刺激によって増加し、その後徐々に元の状態に戻ることが判った。また、IP-MSデータから、LAZY4は重力刺激後に2つのタンパク質キナーゼMPK3とMKK5との相互作用が強くなり、その後元の状態に減少していくという、LAZY4タンパク質のリン酸化状態と同じような挙動を示すことが判った。その後の解析で、MKK5によって活性化したMPK3はLAZY4をリン酸化することが確認された。これらの結果から、重力刺激はMKK5およびMPK3によるLAZY4のリン酸化を速やかに誘導することが示唆される。MPK3と機能重複しているMPK6が機能喪失している変異体でMPK3 をRNAiで発現抑制して作出した二重変異体では、LAZY4-GFPのアミロプラスト表面への局在と重力刺激によるLAZY4-GFPの細胞膜上での極性再分布が阻害され、その結果、重力応答が遅延した。また、LAZY4の13ヶ所のリン酸部位をAla残基に置換したLAZY4-A13-GFPは、アミロプラスト表面への局在と、重力刺激下での細胞膜への極性再分布が見られず、lazy234 変異体の重力屈性欠損を補完しなかった。これらの結果から、MAPKカスケードによるLAZY4のリン酸化は、重力屈性におけるLAZY4の機能にとって重要であることが示唆される。葉緑体およびアミロプラストの外包膜に存在するタンパク質輸送装置(TOC)複合体の構成要素の機能喪失変異体の解析から、TOCタンパク質は重力屈性に対して正の役割を果たしていることが示されていたが、その根本的な機構は不明であった。LAZYタンパク質もアミロプラスト表面に局在することから、両者の関係について調査したところ、リン酸化状態のLAZY4はTOCタンパク質(TOC34、TOC120、TOC132)と強い相互作用を示すことが判った。このことから、LAZY4タンパク質のリン酸化は、細胞質に面したTOCタンパク質との相互作用を促進し、LAZY4タンパク質のアミロプラスト表面への移動を促進すると考えられる。CRISPR/Cas9によってTOC120TOC132 を機能喪失させた変異体では、LAZY4-GFPタンパク質のアミロプラストへの局在と細胞膜への極性再分布が見られなくなり、重力屈性も見られなくなった。したがって、これらのTOCタンパク質はアミロプラスト表面の重要なアンカータンパク質であり、LAZYタンパク質に結合して再分布を促進していると考えられる。以上の結果から、重力刺激に応答してMKK5-MPK3モジュールによりリン酸化されたLAZYタンパク質は、アミロプラスト外包膜上のTOCタンパク質との相互作用を促進し、アミロプラストが沈降することでコルメラ細胞の細胞膜下側にLAZYタンパク質が蓄積、このことがオーキシンの不均等分布、ひいては根の重力屈性をもたらしていると考えられる。

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