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論文)MAPキナーゼカスケードによる種子休眠の解除

2024-02-28 11:26:08 | 読んだ論文備忘録

The MKK3–MPK7 cascade phosphorylates ERF4 and promotes its rapid degradation to release seed dormancy in Arabidopsis
Chen et al.  Molecular Plant (2023) 16:1743-1758.

doi:10.1016/j.molp.2023.09.006

中国農業科学院 深圳農業ゲノム研究所(AGIS)Xiangらは、シロイヌナズナの種子休眠を正に制御しているタイプ2Cタンパク質フォスファターゼREDUCED DORMANCY5RDO5)のT-DNA挿入変異体rdo5-2 をγ-線処理した変異体集団の中から、rdo5-2 変異による種子休眠の低下が抑制された6つの復帰突然変異体odr16 を単離している。このうち、ODR1についてはアブシジン酸(ABA)生合成を制御する因子であることを明らかにしているが、今回、ODR2について解析を行なった。odr2 変異体は、MAPキナーゼキナーゼMKK3(AT5G40440)遺伝子座の第2エクソンに1-bpの欠失を有し、未成熟停止コドンを引き起こしていた。別途入手したmkk3 機能喪失変異体は、種子休眠が強く、rdo5-2 変異による休眠が浅くなる表現型を回復させた。よって、MKK3ODR2 であり、種子休眠を負に制御していると考えられる。MKK3の直下のMPKとして、グループCのMPK(MPK1、MPK2、MPK7、MPK14)が同定されていることから、これらのMPKの機能喪失変異体について発芽試験を行なったところ、mpk7 変異体のみが強い種子休眠を示した。また、MPK7 は種子の発達や発芽過程で高い発現を示していた。MKK3およびMPK7の過剰発現は、種子休眠を有意に低下させた。興味深いことに、恒常的に活性を示すMKK3EEを過剰発現させると、種子の発芽能力が劇的に増加した。したがって、MKK3-MPK7カスケードは、シロイヌナズナの種子休眠制御において重要な役割を担っていると考えられる。種子休眠の解除においてジベレリン(GA)が重要な役割を担っているので、mkk3 変異体、mpk7 変異体にGA処理をしたが、休眠打破に対する感受性は野生型植物よりも低かった。さらに、乾燥および浸漬した変異体種子のGA恒常性関連遺伝子の発現は、野生型植物と有意な差は見られなかった。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールは、GAによる休眠打破に必要であり、GA代謝経路を通じて種子休眠を制御しているのではないことが示唆される。種子の休眠を打破する他の方法として、GA生合成を活性化する冷湿処理(CS)があるが、mkk3 変異体、mpk7 変異体は野生型植物よりもCSに対する感受性が低かった。この結果は、MKK3-MPK7モジュールはCSによる休眠打破にも必要であり、GAおよびCS処理によってMKK3-MPK7カスケードを活性化する共通のシグナル分子が存在する可能性が示唆される。過酸化水素(H2O2)も種子休眠解除の重要な調節因子であり、GAやCS処理によって生成されるが、mkk3 変異体、mpk7 変異体は野生型植物よりもH2O2処理に対する感受性が低かった。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールは、H2O2、GA、CSの下流で作用していることが示唆される。MKK3-MPK7モジュールによる種子休眠解除とABAシグナルによる種子休眠との関係を明らかにするために、mkk3 変異体、mpk7 変異体の種子発芽におけるABA感受性を野生型植物および種子発芽においてABA高感受性を示すahg1-5 変異体と比較した。その結果、mkk3 変異体、mpk7 変異体のABA感受性は、野生型植物よりも高かったが、ahg1 変異体よりも低いことが判った。しかしながら、mkk3 変異体、mpk7 変異体の種子休眠の程度は、ahg1 変異体と同等かそれ以上強かった。さらに、ABAシグナル伝達関連遺伝子の発現は、mkk3 変異体、mpk7 変異体と野生型植物の間で非常に類似していた。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールはABAシグナル伝達に大きく影響してはおらず、ABAはmkk3 変異体、mpk7 変異体の種子休眠増強の主要な要因ではないと思われる。また、種子休眠の主要な調節因子であるDELAY OF GERMINATION1DOG1)およびRDO5 の発現量およびタンパク質量は、mkk3 変異体と野生型植物で同等であり、DOG1、RDO5とMKK3は相互作用をしないことが確認された。したがって、MKK3-MPK7モジュールによる休眠制御は、おそらくDOG1/RDO5とは無関係であると考えられる。これらの結果を総合すると、MKK3-MPK7モジュールは、主に休眠の確立よりも休眠解除の際にその役割を果たしていることが示唆される。MKK3-MPK7モジュールの下流で作用している因子を探索するためにRNA-seq解析を行なったところ、mkk3 変異体、mpk7 変異体では、種子浸漬時に9つのα-EXPANSINEXPA)遺伝子(EXPA13EXPA810EXPA13EXPA15EXPA20)の発現誘導が抑制されていることが判った。これらのEXPA 遺伝子は種子浸漬時に高発現し、GAおよびH2O2処理によって劇的に誘導され、細胞拡大に必須であることが知られている。そこで、種子浸漬後の幼根や胚軸の細胞長や細胞伸長率を計測したところ、mkk3 変異体、mpk7 変異体ではこれらの領域の細胞伸長が阻害されていることが判った。また、mpk7 変異体においてEXPA1EXPA13 を過剰発現させたところ、休眠を増強する表現型が回復した。これらの結果は、MKK3-MPK7モジュールは、EXPA 遺伝子の発現を促進することにより種子浸漬時の胚の拡大を促進していることを示唆している。MKK3-MPK7モジュールによる遺伝子発現促進は、MPK7のキナーゼ活性によって転写因子等が活性化されることによると推測される。そこで、MPK7と相互作用をする転写因子を酵母two-hybridスクリーニングによって探索した。その結果、種子休眠に関与していることが報告されているERF4が見出され、MPK7はERF4と生体内で相互作用をして、ERF4をリン酸化することが確認された。erf4 機能喪失変異体は種子休眠が低下し、過剰発現系統は種子休眠が強くなった。したがって、ERF4は種子休眠を正に制御していることが示唆される。興味深いことに、♀erf4×♂Col-0(野生型)のF1種子(種皮がerf4 ホモ接合体で胚がヘテロ接合体)の発芽は、♀Col-0×♂Col-0のそれと区別がつかず、胚がERF4による休眠制御において主要な役割を果たしていることが示唆される。そこで、浸漬種子の幼根-胚軸伸長を見たところ、erf4 変異体は、野生型植物よりも3~4倍高く、mkk3 変異体、mpk7 変異体よりも8倍近く高いことが判った。この結果は、ERF4とMKK3-MPK7モジュールが相反する方向で細胞拡大を制御していることを示している。ERF4は、ターゲット遺伝子のGCC boxに結合して発現を抑制することが知られている。解析の結果、erf4 変異体では、EXPA13EXPA810EXPA15 の発現が有意に増加しており、ERF4はEXPA 遺伝子のエクソン領域にあるGCC boxモチーフと相互作用をすることが確認された。よって、ERF4はEXPA 遺伝子のエクソンにあるGCC boxに直接結合し、その発現を阻害していると考えられる。無細胞実験系による解析から、ERF4は26Sプロテアソーム系によって分解されること、MPK7によってリン酸化されると推測される3つのSer残基をAsp残基に置換したERF4DDDは速く分解され、Ala残基に置換したERF4AAAは分解が遅延すること、mkk3 変異体、mpk7 変異体由来の無細胞系ではERF4の分解が遅延することが判った。これらの結果から、MKK3-MPK7モジュールによるERF4のリン酸化は、ERF4の分解を調節していることが示唆される。種子休眠制御においてERF4がMPK7の下流で作用しているかを確認するために、mpk7 変異体、erf4 変異体、mpk7 erf4 二重変異体の種子休眠を比較したところ、ERF4 の機能喪失がmpk7 変異体の休眠強化を有意に抑制することが判った。さらに、ERF4 の機能喪失によってmpk7 変異体でのEXPA 遺伝子発現量の低下が回復することが判った。しかしながら、ERF4 機能喪失によって、mpk7 変異体の種子休眠とEXPA 遺伝子発現量が野生型植物と同等にまでは回復しなかった。このことから、MPK7によってさら他の下流制御因子が影響を受けていることが示唆される。以上の結果から、MKK3-MPK7モジュールは、ERF4をリン酸化して分解を促進するこでEXPA 遺伝子の発現を促進し、種子を休眠から発芽へと移行させていると考えられる。

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