Molecular framework integrating nitrate sensing in root and auxin-guided shoot adaptive responses
Abualia et al. PNAS (2022) 119:e2122460119.
doi:10.1073/pnas.2122460119
硝酸塩は好気性土壌における窒素の主要な無機形態の一つであり、植物の成長と発達に大きな影響を与える。オーストリア科学技術研究所のBenková らは、シロイヌナズナ芽生えをコハク酸アンモニウム(AS)を唯一の窒素源として7日間栽培し、その後にASまたは硝酸カリウムを含む培地に移植して成長を観察した。その結果、硝酸塩を窒素源として育成した芽生えは、ASを窒素源とした場合よりも、根および地上部の成長が促進されることが判った。植物の成長・発達過程においてオーキシンとその濃度勾配が重要な役割を担っていることから、PINオーキシン排出キャリアーを介したオーキシンの輸送が硝酸供給による器官の発達に寄与しているかを検討した。その結果、硝酸培地に移植することで根ではPIN3 の発現量が増加し、地上部ではPIN1 、PIN4 、PIN6 、PIN7 の発現量が増加することが確認された。したがって、硝酸供給に対する芽生えの応答の初期段階は、地上部における極性オーキシン輸送の変化を伴っている可能性がある。そこで、pin4 変異体、pin7 変異体を硝酸培地に移植して成長を野生型と比較したところ、pin 変異体の地上部の成長は野生型よりも劣ることが判った。このことから、植物が硝酸供給に対して効果的に成長調整するためには、PINを介したオーキシン輸送が必要であることが示唆される。PIN 遺伝子の転写調節因子として機能しているAPETALA2/ERF型転写因子をコードするCYTOKININ RESPONSE FACTOR2 (CRF2 )とCRF6 は、硝酸培地で育成することによってシュートでの発現量が高くなった。また、植物の硝酸応答を制御しているNIN-様転写因子NLP7の機能喪失変異体nlp7 は、硝酸培地での育成によるCRF2 、CRF6 の発現量増加が見られなかった。crf 機能消失変異体は、nlp7 変異体と同様に、硝酸による地上部の成長促進が見られず、恒常的にCRF2 、CRF6 を発現させた形質転換体は、硝酸供給に関係なく地上部の成長が促進された。これらの結果から、CRFはNLP7を介したシグナルの下流で硝酸供給による成長適応の制御因子として機能していることが示唆される。また、nlp7 変異体、crf 変異体では硝酸培地での育成によるPIN 遺伝子の発現量変化が見られず、CRF2 を恒常的に発現させた形質転換体では窒素源に関係なくPIN7 の発現量が増加していた。したがって、硝酸に応答した地上部の成長促進は、NLP7/CRFを介したPINによるオーキシン輸送の制御に依存していると考えられる。接ぎ木試験の結果、nlp7 変異体の接ぎ穂を野生型の根に接いだ際には硝酸供給による地上部成長促進が部分的に回復したが、野生型の接ぎ穂をnlp7 変異体の根に接いだ場合には硝酸による成長促進効果が見られなかった。したがって、硝酸はNLP7を介して何らかの移動性シグナルの根から地上部への移行を促進し、地上部の成長を制御していることが示唆される。解析の結果、根において硝酸によって活性化されたNLP7シグナルは、地上部へのサイトカイニン輸送に関与していることが判った。硝酸培地への移植によって、根においてサイトカイニン生合成遺伝子(IPT3 、IPT7 )、トランスポーター遺伝子(ABCG14 )の発現量が増加するが、nlp7 変異体の根ではそのような変化は見られなかった。nlp7 変異体やサイトカイニン生合成能が欠損したipt3,5,7 三重変異体の根にサイトカイニンを与えると頂上部の成長が促進されたが、abcg14 変異体やサイトカイニン受容体が欠損したahk2,ahk3 二重変異体ではそのような変化は見られなかった。したがって、根におけるNLP7を介したサイトカイニンの生合成と輸送の制御は、硝酸供給に応答した地上部の成長にとっての重要な要因の1つであると考えられる。硝酸供給は根と地上部のトランスゼアチン(tZ)型サイトカイニン含量を高めた。一方で、nlp7 変異体では根のtZ型サイトカイニン含量が野生型よりも高く、地上部の含量は野生型よりも低くなっていた。したがって、NLP7は、硝酸供給に応じてサイトカイニンの生合成に加えて、分布を微調整することすることも重要な役割である可能性がある。接ぎ木植物を用いた解析から、サイトカイニンは、硝酸供給された根で生合成され、地上部に輸送されてPIN 遺伝子の発現を活性化する移動性のシグナルであることが示唆された。以上の結果から、硝酸は根のNLP7を介したシグナル伝達によりサイトカイニンの生合成と地上部への輸送を促進し、地上部ではサイトカイニン量の変化に応答してCRFがPIN 遺伝子の発現を微調整することでオーキシン流量を制御して成長を促進していると考えられる。