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論文)花の概日リズムと授粉効率

2017-05-09 05:50:38 | 読んだ論文備忘録

Fitness consequences of altering floral circadian oscillations for Nicotiana attenuata
Yon et al. Journal of Integrative Plant Biology (2017) 59:180-189.

doi: 10.1111/jipb.12511

花の開花/閉花と香りの放出は、送粉者の活動と同調しており、概日時計による制御を受けている。しかしながら、概日時計による花の周期変動が植物の繁殖にどの程度貢献しているのかは明らかではない。ドイツ マックス・プランク化学生態学研究所Baldwin らは、野生タバコ(Nicotiana attenuata)を用いて、概日リズムと植物繁殖との関係を解析した。N. attenuata の花は、生息環境において夜行性スズメガと昼行性のハチドリが送粉者となっている。多く花は夜間に開花して、花蜜の生産と花の主要な揮発性物質でスズメガを誘引するベンジルアセトン(BA)を放出する。そして翌朝には閉花する。一部の花は、開花日の夜に開花しないで揮発性物質を放出せずに翌朝に開花する。このような朝開花の花は、食稙者の食害を受けた植物で多く見られ、昼行性の送粉者が訪花する。また、N. attenuata の花は、垂直方向の運動をし、花器官が発達中は40°上向きだが、開花初日の朝には90°下向きとなる。そして夕暮れ前に上向きとなり、花冠から香りを発する。この運動は長日条件下では2-3日繰り返される。花蜜の蓄積は2日間継続し、主に夕方から夜にかけて分泌される。花の角度を+45°、0°、-45°に固定して野生のタバコスズメガに授粉させたところ、+45°では65%の朔果が成熟し、0°では35%が成熟したが、-45°では朔果が成熟せず種子が得られなかった。したがって、タバコスズメガによる授粉の成功は花の角度に依存していることが示唆される。次に、概日時計遺伝子をRNAiでサイレンシングさせた個体を用いて概日リズムの生態学的な効果について解析した。LATE ELONGATED HYPOCOTYLELHY)をサイレンシングさせた個体(irLHY)の花は、開花、花の運動、香りの放出が対照よりも2時間早くなった。ZEITLUPEZTL)をサイレンシングさせた個体(irZTL)は、開花が不完全で香りを放出せず、運動が鈍くなっていた。TIME OF CAB EXPRESSION1TOC1)をサイレンシングさせた個体(irTOC1)は、すべてのリズムが対照と同等であった。また、irLHYとirZTLの花は花蜜量が対照よりも多くなっていた。それぞれのサイレンシング個体の花を除雄し、タバコスズメガによって野生型の花粉を異花授粉させたところ、irZTLで成熟した朔果数がやや減少したが、他は対照と同程度であった。また、朔果あたりの種子数には有意な差は見られなかった。次に、対照とサイレンシング個体とを並べて異花授粉させたところ、irZTLは成熟した朔果が対照の半分程度になり、朔果あたりの種子数も減少した。irTOC1では成熟朔果数も朔果あたりの種子数も対照と同程度であった。一方、irLHYは成熟朔果が対照の2倍になった。以上の結果から、野生タバコの花が夜間に上向きであることがタバコスズメガによる異花授粉を高めており、これはガの口吻がしっかりと花の底に達し花蜜が吸いやすいためであると考えられる。また、概日時計は、タバコスズメガを誘引すように花の向きを変化させ、異花授粉を高めていることが示唆される。

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