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論文)DNAのメチル化と交叉適応

2017-05-16 05:39:57 | 読んだ論文備忘録

Cold acclimation alters DNA methylation patterns and confers tolerance to heat and increases growth rate in Brassica rapa
Liu et al. Journal of Experimental Botany (2017) 68:1213-1224.

doi:10.1093/jxb/erw496

DNAのメチル化といったエピジェネティックな修飾は、植物の非生物ストレスに対する適応に関係している。あるストレスに暴露された植物は、他のストレスに対して抵抗性を示し、この現象は交叉適応と呼ばれている。しかしながら、その機構は明らかとなっていない。中国 南京農業大学のHou らは、2週間4℃処理をして低温適応(CA)させたチンゲンサイ(Brassica rapa subsp. chinensis)と通常の温度条件で育成した対照(CK)についてメチル化DNA免疫沈降シークエンシング(MeDIP-seq)を行ない、CKで19001、CAで19589のメチル化領域を見出した。メチル化領域はCK、CA共にコード領域(CDS)の2k上流で多く見られ、次いで転写終結点から2k下流に多く、イントロンには少なかった。CAとCKの間でメチル化が異なる領域が1562箇所あり、その6割は2k上流とCDSで見られた。また、CKと比較してCAにおいてメチル化されている遺伝子の方が脱メチル化されている遺伝子よりも多かった。CAにおいてメチル化が増加している遺伝子のオントロジー(GO)を見ると、アブシジン酸グルコシルトランスフェラーゼ活性のものが含まれており、メチル化が減少した遺伝子はGTPase活性とリンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性のカテゴリーものが多く見られた。また、KEGG pathwayデータベースでは、CAにおいてメチル化が増加した遺伝子はタンパク質輸送と相同組換えの経路に関与するものが見られ、メチル化が減少した遺伝子はファゴソーム、クエン酸回路、光合成による炭素固定、二次代謝産物生合成、ピルビン酸代謝の5つの経路に関連するものが含まれていた。リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性と炭素固定に関与する遺伝子は、CAにおいて2k上流領域でメチル化が減少していた。CKとCAで2k上流のメチル化が異なる39遺伝子について遺伝子発現量を調査したところ、9遺伝子について発現量の変化が見られ、4遺伝子(BramMDH1BraKAT2BraSHM4Bra4CL2 )は発現量が増加していた。DNAのメチル化は、DNAメチルトランスフェラーゼMET1によって触媒されている。CAで発現量が増加した4遺伝子を自身のプロモーターで発現制御するミニ遺伝子をシロイヌナズナの野生型もしくはmet1 変異体に導入して発現量を比較したところ、met1 変異体での発現量は野生型での発現量よりも高くなっていた。そしてミニ遺伝子プロモーターのメチル化レベルはmet1 変異体よりも野生型の方が高くなっていた。したがって、プロモーター領域のメチル化は4遺伝子の発現量変化に貢献していると考えられる。野外試験の結果、CAはCKと比較して夏期の成長率が高く、耐暑性を示した。CAの葉は、CKの葉よりも電解質の漏れ(EL)が少なく、マロンアルデヒド(MDA)含量が低くなっていた。よって、CAはCKよりも耐暑性が高いことが示唆される。このCAの耐暑性の強化は熱ショック因子(Hsf)や熱ショックタンパク質(Hsp)の発現量の増加によるものではなかった。おそらくCAは光合成や炭素固定能力が高いことで成長率が高くなっているものと思われる。CAの葉はCKの葉よりも有機酸濃度が高い。有機酸は非生物ストレスとの関連が高いことから、CAでの高有機酸濃度は耐暑性に関与していると考えられる。DNAメチル化阻害剤のAza処理をするとBramMDH1BraKAT2BraSHM4Bra4CL2 のDNAメチル化量が減少し、転写が促進された。Aza処理はチンゲンサイのバイオマスを増加させたが、熱ショック後の生存率に対照との差異は見られなかった。また、Aza処理は有機酸濃度に影響しなかった。これらの結果から、DNAの脱メチル化単独では耐暑性の強化には不十分であると考えられる。CAで発現量が増加する4遺伝子のうち、BramMDH1 は有機酸、葉の呼吸、植物の成長、アルミニウム耐性に関与していることが報告されている。BramMDH1 が耐暑性に関与しているかを調査するために、BramMDH1 を35Sプロモーター制御下で恒常的に発現するシロイヌナズナを作出して解析を行なったところ、この形質転換体は耐暑性が高まり、バイオマスが増加し、熱ストレス下においてELやMDA含量の減少、有機酸と光合成の増加、暗呼吸の減少が見られた。よって、BramMDH1 は耐暑性や成長において重要であることが示唆される。低温適応したチンゲンサイはBramMDH1 発現量が増加して耐暑性が高まるが、Aza処理したチンゲンサイはBramMDH1 発現量が増加しても耐暑性も有機酸量も増加しなかった。CAではDNAのメチル化と脱メチル化の両方が見られることから、DNAのメチル化によって有機酸の増加に負に作用する遺伝子の発現が抑制され、このことがCAでの耐暑性強化に必要であると推測される。以上の結果から、DNAのメチル化状態の変化が交叉適応をもたらしていると考えられる。

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