goo blog サービス終了のお知らせ 

Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)選択的スプライシングによるアブシジン酸シグナル伝達因子の制御

2010-08-13 21:52:13 | 読んだ論文備忘録

The Conserved Splicing Factor SUA Controls Alternative Splicing of the Developmental Regulator ABI3 in Arabidopsis
Sugliani et al.  The Plant Cell (2010) 22:1936-1946.
doi:10.1105/tpc.110.074674

ABSCISIC ACID INSENSITIVE3(ABI3)はアブシジン酸(ABA)シグナル伝達経路における主要な調節因子であり、多くの植物種において保存されている。ドイツ マックスプランク植物育種学研究所のSoppe らは、シロイヌナズナのABA非感受性変異体abi3-5 種子にガンマー線照射した変異体集団の中からabi3-5 変異が抑制されるsuppressor of abi3-5sua-1 )変異体を得た。abi3-5 変異体の種子はクロロフィルが含まれているために緑色を呈しており、休眠せず、乾燥に弱い。abi3-5 sua-1 変異体種子は、休眠はしないが、野生型と同じ黄褐色をしており、乾燥に強く、種子発芽に対するABA感受性もある。abi3-5 sua-1 変異体の原因遺伝子のマッピングを行ったところ、At3g54230の第15エクソンに47-bpの欠失が見られ、SUA cDNAをSUA プロモーターと融合してabi3-5 sua-1 変異体へ導入したところ、sua-1 変異が相補されてabi3-5 変異体に見られる表現型が現れた。SUAタンパク質はZnフィンガードメインの両側にRNA認識モチーフがあり、C末端側にGly-richドメインがある。SUAタンパク質はヒトRNA結合モチーフタンパク質5(RBM5)と45%の類似性があり、核に局在している。シロイヌナズナの公的マイクロアレイデータによると、SUA は恒常的に発現しており、種子での発現がやや高かった。SUAタンパク質のホモログであるRBM5は、RNAのスプライシングに関与するプレスプライセオソーム複合体の構成因子であり、プレmRNAスプライシング因子の大サブユニットU2AF65と相互作用を示す。SUAもシロイヌナズナU2AF65と生体内で相互作用を示すことが確認された。sua-1 変異体とabi3-5 以外のABA非感受性abi3 変異体との二重変異体ではabi3 変異の抑制が見られないことから、sua 変異体はabi3-5 対立遺伝子特異的に作用する。abi3-5 変異体は、フレームシフト変異により、ABI3タンパク質内の4つのドメイン(A1、B1、B2、B3)のうちのB2ドメインの前で34のコドンの変化と停止コドンの形成が起こっている。1塩基の変異によりabi3-5 変異体とほぼ同じ位置に停止コドンが形成されるabi3-4 変異体は、ABA非感受性を示すがsua 変異によるabi3 変異の抑制は見られない。そこで、各変異体の乾燥種子のABI3タンパク質を免疫ブロットで解析したところ、野生型とsua-1 変異体では116 kDa付近に完全長ABI3に由来する2本のバンドが見られ、abi3-4abi3-4 sua-1abi3-5 各変異体では変異によって形成された停止コドンにより70 kDa付近に短いバンドが見られた。しかし、abi3-5 sua-1 変異体では70kDaのバンドに加えて完全長ABI3と同じサイズの2本のバンドが検出された。よって、abi3-5 sua-1 変異体で観察されるabi3-5 変異の抑制は、abi3-5 転写産物の未成熟停止コドンの喪失によって読み枠が回復したABI3 転写産物が形成されるために引き起こされている可能性がある。そこで、abi3-5 sua-1 変異体の転写産物を調査したところ、abi3-5 転写産物に加えて、abi3-5 変異の下流にありabi3-5 の停止コドンを含んでいる77 bp の潜在イントロンが切り出された転写産物が見つかった。この転写産物(abi3-5-β )は潜在イントロンの切り出しによって読み枠が回復し、ABI3タンパク質の4つのドメインを含んだタンパク質が翻訳される。abi3-5 sua-1 変異体の表現型は、abi3-5-β スプライスバリアントがABI3機能を示すことによって引き起こされると考えられる。野生型植物において、ABI3-β スプライスバリアントは不完全なABI3タンパク質に翻訳される。ABI3-β は種子成熟後期に蓄積量が増加することから、この時期にSUAの失活もしくは分解が起こり、選択的スプライシングにより正常なABI3の翻訳量を減少させることで種子の成熟・発芽を制御しているものと思われる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 論文)ブラシノステロイドの... | トップ | 論文)エチレンによるフラジ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ論文備忘録」カテゴリの最新記事