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論文)イネの種子休眠に関与する遺伝子座

2010-04-04 15:46:26 | 読んだ論文備忘録

Molecular cloning of Sdr4, a regulator involved in seed dormancy and domestication of rice
Sugimoto et al.  PNAS (2010) 107:5792-5797.
doi:10.1073/pnas.0911965107

農業生物資源研究所の矢野らは、ジャポニカ品種日本晴とインディカ品種Kasalathのイネ品種間QTL解析を行ない、様々な量的形質遺伝子座を見出している。今回は、種子休眠に関与している5つのQTLのうちの1つ、Seed dormancy 4Sdr4 )についてマップベースクローニングを行なった。出穂6週後のKasalath種子の発芽率は4 %で、日本晴は58 %、日本晴バックグラウンドのSdr4 の準同質遺伝子系統NIL(Sdr4 )は2 %であり、KasalathのSdr4 遺伝子座(Sdr4-k )は種子休眠に対して強い促進効果を示す。Sdr4 の候補としてOs07g585700 が見出され、本遺伝子をRNAiでノックダウンした日本晴とNIL(Sdr4 )および本遺伝子の突然変異体は発芽率が上昇していた。Sdr4 遺伝子はイントロンを含まず、コードするタンパク質はこれまでに機能が知られているタンパク質とのホモロジーが見られなかった。N-末端領域に二分性核局在シグナル様の配列が見られ、実際にSdr4タンパク質が核に局在することが確認された。Sdr4-k と日本晴Sdr4Sdr4-n )の間には11箇所の一塩基多型と2箇所のインデルが見られ、中央部の2アミノ酸の置換が機能多型(FNP)をもたらしていると考えられる。Sdr4 転写産物は胚全体で見られ、特に幼根での発現が強かった。Sdr4 遺伝子のプロモーター領域には、種子特異的遺伝子発現に関与しB3ドメイン転写因子のVP1/ABI3サブファミリーがターゲットとしているRYリピート(CATGCA)が7箇所、アブシジン酸(ABA)応答エレメント[ABRE; ACGTGG/T(C)]、ABRE関連カップリングエレメント(CE)が見られた。sdr4 変異体の胚は野生型よりも大きく、種子休眠に関してABAに対する感受性が低下している。出穂6週後の日本晴、NIL(Sdr4 )、sdr4 変異体種子のABA含量に差は見られず、sdr4 変異体にABAシグナル伝達に関与する機構に変化は見られなかった。Sdr4 の発現はイネのABI3 のオーソログであるOsVP1 の正の制御を受けていた。sdr1 変異体の胚では種子の休眠に関与するDクラスbZIP DNA結合タンパク質をコードするDELAY OF GERMINATION 1DOG1 )のイネホモログOsDOG1-like の発現量が低下し、種子発芽に関与するジベレリン生合成遺伝子OsGA20ox-1 、アクアポリン遺伝子のPIP1;3PIP2;2 、エクスパンシン遺伝子OsEXPB3 の発現量が高くなっていた。よって、Sdr4は休眠促進と発芽抑制の制御に関与していると考えられる。イネ品種のSdr4 遺伝子座にはSdr4-nSdr4-kSdr4-k' の3種類のハプロタイプが見られ、ジャポニカ品種のSdr4 遺伝子座はSdr4-n のみだがインディカ品種ではSdr4-n のものとSdr4-k のもが見られた。Srd4-k は野生イネOryza rufipogon にも見出され、Sdr4-n は、O. rufipogon の遺伝子座が突然変異を起こして生じたものと考えられる。

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