HSP90 regulates temperature-dependent seedling growth in Arabidopsis by stabilizing the auxin co-receptor F-box protein TIR1
Wang et al. Nature Communication (2016) 7:10269.
DOI: 10.1038/ncomms10269
Heat shock factor 90(HSP90)は植物および動物の様々なシグナル伝達に関与している。米国 カリフォルニア大学サンディエゴ校のEstelle らは、HSP90が高温条件での植物の成長における役割について調査した。シロイヌナズナ芽生えを高温(29℃)で育成すると胚軸伸長が促進されるが、HSP90の阻害剤であるゲルダナマイシン(GDA)処理をすると伸長促進が見られなくなった。高温処理は芽生えの側根形成と主根の伸長を促進したが、GDAはこれらの根の成長変化も阻害した。GDA以外のHSP90阻害剤であるラディシコールや没食子酸エピガロカテキン(EGCG)も高温による芽生えの成長促進を阻害した。高温処理をするとオーキシンレポーターDR5:GUS の発現が根とシュートの両方で上昇するが、GDAはこれを強く阻害した。また、GDA処理は高温によるオーキシン応答遺伝子GH3.17 、IAA19 、IAA5 の発現誘導も抑制した。これらの結果から、HSP90はオーキシン作用に影響することによって高温が制御する植物の成長に対して重要な役割を担っていることが示唆される。GDAはオーキシン生合成遺伝子YUCCA8 の高温による発現活性化には影響しないことから、HSP90は温度に応答した成長制御をオーキシン生合成を介してではなくオーキシンシグナル伝達等の他の過程をを通して制御していると思われる。GDAはオーキシンによる胚軸伸長促進、側根形成促進、主根伸長阻害、根の重力屈性応答を阻害することから、HSP90はオーキシンによる成長制御の多くに関与していることが示唆される。芽生えをGDA処理すると、オーキシンコレセプターのTIRやAFB2が大きく減少した。よって、HSP90はTIR1やAFB2の安定性に関与しており、HSP90の活性低下によるオーキシン応答の変化はオーキシンコレセプター量の減少によるものと考えられる。GDA処理の際にプロテアソーム阻害剤のボルテゾミブを同時に添加するとTIR1の減少が見られなくなることから、HSP90の阻害はTIR1のプロテアソーム系による分解を引き起こしていると考えられる。TIR1 、AFB2 、AFB3 の転写産物量は高温処理をしても大きな変化を示さないが、高温処理によってTIR1タンパク質量は増加し、HSP90阻害剤を処理することによって増加は抑制され、HSP90阻害剤とボルテゾミブを同時に処理すると増加が回復した。シクロヘキシミド処理した芽生えではTIR1の安定性は22℃よりも29℃で高く、GDA処理をすると高温でのTIR1安定性が低下した。よって、高温下でのTIR1の安定性の増加はHSP90によるものと考えられる。HSP90量は22℃では比較的少なく、29℃に温度を上げることで1時間以内に増加した。免疫沈降(co-IP)試験から、HSP90はTIR1と複合体を形成することが確認された。SUPPRESSOR OF G2 ALLELE SKP1(SGT1)はオーキシン応答に関与しているHSP90のコシャペロンで、co-IP試験やプルダウン試験からTIR1と相互作用をすることが確認された。また、BiFCアッセイからSGT1bとHSP90は細胞質と核において相互作用をしていること、TIR1とSGT1bは核において相互作用をするが、TIR1とHSP90は相互作用をしないことがわかった。SGT1b の変異体enhancer of tir1 auxin resistance 3 (eta3 )は22℃でのTIR1量が野生型よりも少なく、高温処理によるTIR1量の増加が起こらなかった。このことは、SGT1-HSP90複合体がTIR1の安定性に関与していることを示している。以上の結果から、HSP90はオーキシンコレセプタータンパク質を安定化させることで高温条件での成長促進を引き起こしていると考えられる。
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