WUSCHEL controls genotype-dependent shoot regeneration capacity in potato
Park et al. Plant Physiology (2023) 193:661-676.
doi:10.1093/plphys/kiad345
植物組織切片をオーキシン/サイトカイニン比の高いカルス誘導培地(CIM)で培養すると細胞が脱分化し、カルスと呼ばれる多能性細胞塊を形成する。その後、この組織片をサイトカイニン/オーキシン比の高いシュート誘導培地(SIM)に移植すると、カルスからシュートが形成され、植物体を再生する。しかし、再生能力は、植物の遺伝子型によって大きく異なっている。これまでの研究で、サイトカイニン受容体の活性やサイトカイニンによって発現誘導されるWUSCHEL(WUS)が再生にとって重要であることが示されているが、再生効率と遺伝子型との関係については不明な点が残されている。韓国生命工学研究院のLeeらは、シュート再生時の分子的差異を系統的に解析するために、12種類のジャガイモ品種を用いて再生効率を調査した。その結果、カルス形成はSIM培養1週間後にすべての品種で観察されたが、シュート再生は3週間後から品種間で差が出始め、3週から8週にかけて品種によって著しく多様なシュート再生効率を示すことが判った。ジャガイモ品種による再生効率のばらつきは、細胞運命制御に関与する遺伝子の発現が遺伝子型によって異なることが原因ではないかと考え、シロイヌナズナにおいて植物再生を制御している遺伝子のジャガイモホモログの発現を解析した。シュート再生効率が高いジャガイモ品種「Desiree」では、StWOX11、StWOX5、StLBD16、StLBD18、StAIL6、StAIL7 の発現がCIMでの培養中に著しく増加した。一方、StSTM とStNAM の発現は、CIM培養中に減少したが、SIMに移植すると徐々に増加し、移植5週間後でピークに達した。StNAC、StNAM14、StNAM18 は、CIMおよびSIM培養の両方で発現が上昇した。注目すべきことに、StWUS の発現がSIMへの移行後に急速に増加し、培養中も高い発現量を維持した。次に、シュート再生効率の低い「Phureja」、「Russet Burbank」と、再生効率の高い「Superior」、「Bintje」の4品種と「Desiree」との間で遺伝子発現を比較した。StLBD16 とStWOX11 は、すべての品種において同様の発現パターンを示し、CIM培養中に発現が高く、SIM移植後は急速に基底レベルまで低下した。StAIL7 の発現は、「Desiree」と「Bintje」ではCIM培養中に急速に有意に上昇し、SIM培養中に徐々に減少したが、「Phureja」、「Superior」、「Russet Burbank」ではCIM培養中は変化しなかったが、SIM培養中に上昇した。SIM誘導性遺伝子のStSTM、StNAC、StNAM14 は、再生過程において同様の発現パターンを示したが、「Russet Burbank」ではSIM培養中にStNAC とStNAM14 の発現レベルが上昇した。StNAM は、解析したすべての遺伝子型において同様の発現パターンを示した。したがって、StSTM、StNAC、StNAM14、StNAM の発現パターンからは遺伝子型による再生効率の違いを説明することはできない。しかし、StWUS の発現量は、SIM移植1週間後に急速に増加し、「Desiree」では高発現レベルを維持したが、「Phureja」では移植4週間後まで変化しなかった。同様に、低効率品種である「Russet Burbank」でのStWUS の発現は低いままであり、SIM培養中に有意な差は見られなかった。対照的に、高効率品種の「Superior」と「Bintje」では、SIM培養1週間後からStWUS の発現が有意に増加した。これらの結果から、StWUS がジャガイモの遺伝子型依存的な再生効率を制御する有力な候補遺伝子であることが示唆される。RNAiによってStWUS を発現抑制した「Desiree」の解析から、StWUS の高発現がジャガイモのシュート再生効率によって重要であることが判った。シロイヌナズナでは、WUS はサイトカイニン応答遺伝子として知られており、サイトカイニンによって活性化されるタイプB RR転写因子によって発現が上昇する。一方、ジャガイモでは、カルスからのシュート再生効率はサイトカイニンの種類に密接に依存していることが知られている。そこで、SIMに添加するサイトカイニンの種類を変えて「Phureja」でのStWUS 発現、シュート再生効率を見たところ、StWUS の発現は、6-ベンジルアミノプリン(BA)およびカイネチンを含むSIMでは、ゼアチンを含むSIMよりも有意に低いこと、チジアズロン(TDZ)はゼアチンと比較してStWUS の発現を3倍以上増加させることが判った。また、TDZの添加は再生効率を大幅に改善し、すべての組織片がシュートを再生したが、カイネチン含有SIMではシュート再生は観察されなかった。これらの結果から、ジャガイモではサイトカイニンを介したStWUS の発現がサイトカイニンの種類に大きく依存し、この違いが再生効率に影響を与えることが示される。サイトカイニンの種類によってStWUS 発現量が異なるのは、サイトカイニンとサイトカイニン受容体との間の相互作用の違いに起因するのではないかと考え、ジャガイモサイトカイニン受容体のセンサードメイン内のアミノ酸配列を用いて計算学的モデリングを行ない、サイトカイニンと受容体との相互作用エネルギーを計算した。その結果、TDZとサイトカイニン受容体との相互作用エネルギーはトランスゼアチンよりも高いことが判明した。TDZはトランスゼアチンよりもシュート再生を促進するという観察結果と合わせて考えると、TDZの高い相互作用エネルギーと安定的な結合は、StWUS の発現上昇を含むサイトカイニン応答を促進する可能性が示唆される。次に、シュート再生効率の異なる6品種の全ゲノムシークエンス(WGS)に基づくSNP解析を実施し、サイトカイニン誘導性のStWUS 発現とシュート再生能力における遺伝子型依存的な差異に影響を与える塩基配列変異の有無を探索した。その結果、StWUS 遺伝子プロモーター領域の塩基配列変異によって6品種は2つのグループに分かれ、このグループ分けは再生能力と一致しており、「Phureja」、「Russet Burbank」、「Dark Red Norland」を含むグループ1(G1)は再生効率が低く、「Superior」、「Desiree」、「Bintje」を含むグループ2(G2)は再生効率が高いことが判った。G1遺伝子型はZINC FINGER HOMEODOMAIN 1(ZHD1)/ARABIDOPSIS THALIANA HOMEOBOX PROTEINs(ATHBs)結合モチーフにAからGへの置換を有し、G2遺伝子型はNTM1-LIKE 8(NTL8)結合モチーフにTからAへの置換を有していた。これらの結果から、StWUS プロモーター領域におけるこれらの配列変異が、サイトカイニン誘導性StWUS 発現に影響を与えている可能性が示唆される。以上の結果から、StWUS の発現がジャガイモのカルスからのシュート再生効率を決定しており、低効率遺伝子型と高効率遺伝子型を区別する重要な塩基置換がStWUS 遺伝子プロモーター領域に存在し、シュート再生におけるサイトカイニン誘導StWUS 発現の制御に極めて重要な役割を果たしている可能性が示唆される。また、計算モデリングにより、サイトカイニンと受容体の相互作用様式がトランスゼアチンとTDZで異なることが示され、TDZがシュート再生時のStWUS 発現誘導に有効であった理由であると考えられる。
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