High temperature restricts cell division and leaf size by coordination of PIF4 and TCP4 transcription factors
Saini et al. Plant Physiology (2022) 190:2380–2397.
doi:10.1093/plphys/kiac345
高い環境温度は、シロイヌナズナのロゼット葉の拡大を抑制する。しかしながら、温度による葉の大きさの制御機構については殆ど判っていない。インド 国立植物ゲノム研究所(NIPGR)のRanjan らは、シロイヌナズナを通常温度(21 ℃)と高温(28 ℃)で育成し、高温下ではロゼット葉の面積が減少することを見出した。この変化を細胞レベルで観察すると、高温下では対照と比較して1葉あたりの表皮細胞数が50 %、柵状細胞数が66 %減少していることが判った。また、高温下で展開中の葉では細胞周期のマーカー遺伝子CyclinB1;1 の発現量が減少していた。これらの結果から、高温に長時間曝されると細胞分裂が抑制されることで細胞数が減少し、葉面積が減少することが示唆される。PHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR4(PIF4)は、温度形態形成を制御する転写因子として知られている。高温下の葉では、調査した全てのPIF 遺伝子の発現が誘導され、特にPIF4 の発現量が高くなっていた。この発現誘導は高温処理8時間後には減少していったが、PIF4 だけは高い発現を維持していた。PIF4 は、高温処理した葉の基部で発現量が増加し、表皮細胞でPIF4タンパク質の蓄積も観察された。pif4 変異体は、ロゼット葉の表現型や表皮細胞数の高温処理による変化が見られなかった。したがって、PIF4は細胞数を制御することで高温下で葉の大きさを決定していると考えられる。高温に応答して葉で発現誘導される遺伝子を公的トランスクリプトームデータから探索し、クラスⅡTEOSINTE BRANCHED1/CYCLOIDEA/PCF (TCP )転写因子遺伝子のTCP3 、TCP4 の発現量が増加することを見出した。TCP4は細胞分裂を抑制することで葉の大きさを制御していることが報告されており、tcp4 変異体は高温処理による葉面積の減少は見られず、細胞数の減少も野生型植物と比較すると僅かであった。このことから、TCP4は温度に応答した細胞分裂制御を介して葉の大きさの決定に関与していると考えられる。pif4tcp4 二重変異体の解析から、PIF4とTCP4は葉の温度形態形成において同じ経路上で機能していることが示唆された。TCP4は細胞周期阻害因子をコードするKIP-RELATED PROTEIN1 (KRP1 )の発現を増加させることで細胞分裂を阻害することが知られている。野生型植物を高温処理すると1時間以内にKRP1 の発現が誘導されたが、pif4 変異体、tcp4 変異体、pif4tcp4 二重変異体では誘導が見られなかった。また、pif4tcp4 二重変異体のKRP1 転写産物量はそれぞれの単独変異体よりも少なかった。krp1 変異体は、高温処理による葉面積の減少が見られず、細胞数の減少も野生型植物よりも少なかった。ベンサミアナタバコを用いたプロモーター活性アッセイから、KRP1 プロモーター活性はPIF4とTCP4によって活性化され、両者は単独の場合よりもプロモーター活性を高めることが判った。また、PIF4とTCP4は相互作用することが確認された。KRP1 プロモーター領域には、既知のTCP4結合部位と、その近傍にPIF4が結合するG-boxが見られた。クロマチン免疫沈降-PCRアッセイから、高温処理によってTCP4のKRP1 プロモーター領域への結合は40倍増加し、PIF4の結合は4倍増加することが判った。また、高温処理によるG-boxへのPIF4結合の増加はtcp4 変異体では見られなかった。PIF4 遺伝子プロモーター領域にもTCP結合エレメントが見られ、高温処理によるPIF4 の発現誘導はtcp4 変異体では見られなかった。したがって、TCP4は高温処理によるPIF4 の発現誘導も制御している。以上の結果から、TCP4は高温下で PIF4 の発現を誘導し、PIF4とTCP4はKRP1 の発現を活性化して高温下での葉の細胞分裂を抑制しており、環境制御因子であるPIF4と発生制御因子であるTCP4の協調的な相互作用が高温下での最終的な葉の大きさを決定していると考えられる。
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