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論文)2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)による不定胚形成誘導

2024-02-19 10:36:37 | 読んだ論文備忘録

Structure–activity relationship of 2,4-D correlates auxinic activity with the induction of somatic embryogenesis in Arabidopsis thaliana
Karami et al.  Plant Journal (2023) 116:1355-1369.

doi:10.1111/tpj.16430

2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)は、植物ホルモンのオーキシンの合成アナログであり、植物再生実験系の不定胚形成(somatic embryogenesis;SE)に使用されている。また、2,4-Dはストレス関連遺伝子の発現を上昇させ、高濃度の2,4-Dは双子葉植物を対象とした除草剤として利用されている。いくつかのストレス関連転写因子はSEに影響することが示されていることから、2,4-DのSE誘導効果は、オーキシン活性よりも、2,4-Dが誘導するストレスに起因していると考えられるが、この仮説はまだ十分に検証されてはいない。オランダ ライデン大学Offringaらは、40種類の2,4-Dアナログについて、シロイヌナズナのSE誘導能とオーキシン活性を指標にして構造と活性との関係を調べた。第一段階として、2,4-Dアナログのシロイヌナズナ未熟胚からのSE誘導能を試験した。各化合物を2,4-Dと同じ濃度(5 µM)で試験したところ、4種類の化合物(クラス1:4-Cl、4-Br、2,4-DP、2,4-Br)が2,4-Dと同程度に未熟胚から不定胚を効率的に誘導することができた。他の13化合物(クラス2:2,4-DB、2-Cl-4-F、MCPA、Mecoprop、4-F、4-I、2,5-D、3,4-D、2-F-4-Cl、2-F-4-Br、2,4,5-T、2,4-DiB、MCPB)はSE誘導したが、2,4-Dと比較して効果は低かった。残りのアナログ(クラス3:2-Cl、2-I、3-Cl、2,6-D、3,5-D、2,4-F、2,3,4-F、2,3,4-T、2-NO2-4-Cl、2,4-DnB、PHAA、4-NO2、3,5-Me、2-Cl-4-ホルミル、2,4,6-F、3-Me、2,3-D、3,5-D、2,4,6-T、2,4-DnP)はSE誘導しなかった。全体として、SE誘導する化合物の能力は、2,4-D様の構造と相関しているように思われた。幾つかのクラス1、クラス2化合物について濃度を2倍(10 µM)にして試験を行なったところ、2,4-D、4-Br、4-I、MCPAでは不定胚形成数が減少したが、4-Cl、4-F、2,4,5-TではSE効率に大きな影響はなかった。この結果は、クラス1化合物では、2,4-Dと同様に5 µMが適正濃度であり、クラス2化合物のSE効率の低さは高濃度適用でも補えないことを示している。次に、オーキシンによる主根の伸長阻害について調査した。その結果、4-Cl、4-Br、2-Cl-4-F、2,4-DB、MCPA、Mecopropは、2,4-Dと同様に、低濃度(50 nM)でも高濃度(5 µM)でも主根の伸長を効率的に阻害した。4-F、4-I、2,5-D、3,4-D、2,4-Br、2-F-4-Cl、2-F-4-Br、2,4,5-T、2,4-DiB、2,4-DP、MCPBは、低濃度では阻害効果を示さなかったが、高濃度で強い阻害効果を示した。このことから、これらの化合物は「活性型」に分類した。一方、2-Cl、2-I、3-Cl、2,6-D、2,4-F、2-NO2-4-Cl、2,3,4-T、2,3,4-F、2,4,6-T、2,4,6-F、2,4-DnP、2,4-DnBは、高濃度でも根の伸長に対して弱い効果しか示さなかったので、「弱活性」と分類した。残りのPHAA、2-F、3-Me、2,3-D、3,5-M、3-OMe、4-NO2、3,5-Me、3,5-D、2-CL-4-ホルミル、2,4,6-T、2,4-DnPは、高濃度でも根の長さに対して明らかな抑制効果を示さなかったことから、これらの化合物はオーキシン活性が非常に弱いか、あるいは全くないことが示唆される。根系構造に着目したところ、2,5-D、3-Clは、側根と不定根の形成を強く促進した。一方、2,4,6-T、3-Me、2,3-D、3,5-D、2,4-DnPは、根長に明確な影響を与えずに側根の数を減少させた。さらに、3-Cl、3,4-D、2,4-DP、Mecopropは根毛の発達を強く促進した。これらの結果から、特定の2,4-Dアナログは、濃度と構造に依存して根の成長と発達に特異的な影響を及ぼすことが示唆される。オーキシン応答プロモーターpDR5 でGUSを発現するコンストラクトを導入したシロイヌナズナを用いて、2,4-Dアナログによる根の伸長阻害がオーキシン応答によるものかを調査した。その結果、非常に活性が高いと分類された化合物は、いずれも根の細胞伸長部におけるpDR5 活性を強く促進し、根の伸長阻害活性と一致した。したがって、2,4-Dアナログの根の成長を阻害する能力は、オーキシン活性(オーキシン応答を誘導する能力)とよく一致しているといえる。2,4-DアナログのTIR1/AFB-Aux/IAAオーキシンコレセプターとの結合能力を分子動力学シミュレーションにより調査したところ、コレセプター結合能とオーキシン活性、SE誘導能の間には強い相関があることが判った。これらの結果から、(i) 2,4-Dとそのアナログは、TIR1/AFB共受容体を介したオーキシンシグナル伝達経路を通じてSEを誘導し、(ii) SE誘導に必要なストレス応答は、2,4-Dとそのアナログによって誘導される強いオーキシン応答の結果である、という推測が導かれた。そこで、シロイヌナズナのtir1afb1afb2afb3afb4afb5 の各単独変異体および多重変異体を用いてSE誘導実験を行なった。その結果、4種の単独変異体と2つの二重変異体においては軽度ではあるが有意にSE効率が低下し、変異がさらに集積することでSE効率の低下が強まることが判った。これらの結果から、2,4-Dはオーキシンの典型的なシグナル伝達経路を介してSEを誘導しており、2,4-Dに特異的なコレセプターは存在せず、TIR1/AFBファミリーが冗長的に作用していることが示唆される。2,4-Dによるストレス応答について調査したところ、tir1 afb2 afb3 三重変異体およびtir1 afb2 afb4 afb5 四重変異体では、2,4-Dによるストレスレポーター遺伝子(At2g18690At3g26440At4g16260ERF6)の発現誘導は野生型植物に比べて強く減少し、活性酸素種の発生は観察されなかった。このことから、2,4-Dによって誘導されるストレス応答は、オーキシンシグナル伝達経路の下流にあると考えられる。以上の結果から、2,4-Dによる不定胚形成誘導はオーキシン活性と相関しており、2,4-D処理によって誘導され、SE誘導に必要であると報告されているストレス応答は、オーキシンシグナルの下流に位置していると考えられる。

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