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論文)Dof転写因子による光合成の促進

2024-03-02 09:33:47 | 読んだ論文備忘録

The Dof transcription factor COG1 acts as a key regulator of plant biomass by promoting photosynthesis and starch accumulation
Wei et al.  Molecular Plant (2023) 16:1759-1772.

doi:10.1016/j.molp.2023.09.011

中国 蘭州大学のLiらは、シロイヌナズナのブラシノステロイド受容体変異体bri1-5 のアクティベーションタギング変異体集団から、胚軸が短い表現型を部分的に回復させるcogwheel1-3Dcog1-3D)変異体を単離した。bri1-5 変異を分離除去したcog1-3D 変異体は、胚軸が伸長し、ロゼット葉も大きくなり、野生型植物よりも1株当たりのバイオマスが有意に増加していた。COGWHEEL1(COG1; AT1G29160)は、植物特異的なDNA binding with one finger(Dof)ファミリー転写因子で、シロイヌナズナには同じクレイドに属するCYCLING DOF FACTOR 1(CDF1)、CDF2、CDF3、CDF4、CDF5、CDF6の6つのパラログが存在する。各CDF 遺伝子を過剰発現させた形質転換体は、COG1 過剰発現形質転換体と同様に、ロゼット葉が大きくなり、地上部バイオマスが増加した。COG1ファミリー転写因子の機能喪失変異体の表現型を観察したところ、COG1 およびCOG1 と最も類似性が高いCDF4 の単独変異体や二重変異体に野生型植物との大きな差異は見られなかったが、五重変異体、六重変異体、七重変異体では、変異が集積するにつれてロゼット葉がより小さくなり、生重量が減少し、花序が矮化していった。また、七重変異体表現型は、COG1 ファミリーのいずれかを過剰発現させることで回復した。これらの結果から、COG1ファミリー転写因子は冗長的に機能し、植物の正常な成長と最終的なバイオマス量を制御していることが示唆される。長日条件下で育成した野生型植物とcog1-3D 変異体の芽生えのトランスクリプトーム解析を行なったところ、311遺伝子がCOG1による制御を受けており、214遺伝子は発現が上昇、97遺伝子は減少していることが判った。そして、光合成関連遺伝子、特にLHCA1LHCA4LHCB1.1LHCB1.2LHCB1.4LHCB1.5LHCB2.1LHCB2.2LHCB2.3LHCB3LHCB4.2LHCB4.3LHCB6psaD2 などの中核的な光合成機構に関与する遺伝子は、COG1による制御を受けていた。さらに、これらの光合成遺伝子の発現は光シグナルによって制御されており、COG1によって制御されている遺伝子の58 %(168/311)は光による制御も受けていた。COG1ファミリー転写因子の過剰発現系統や機能喪失変異体での光合成遺伝子の発現制御を見たところ、LHCA1LHCA4LHCB1LHCB6psaD2 の発現量は、COG1 過剰発現系統の芽生えでは光照射に応答して急速に増加したが、七重変異体では抑制された。6種のCDF 過剰発現系統においても、光照射に反応してすべての光合成遺伝子の発現量が上昇したが、これらのCDFタンパク質が光合成遺伝子発現に及ぼす影響はCOG1に比べると限られていた。これらの結果から、COG1ファミリー転写因子は、光によって誘導される複数の光合成遺伝子の発現を冗長的かつ差異的に制御していることが示唆される。Dof転写因子は、標的遺伝子のプロモーター中の5’-T/AAAAG-3’ コア配列またはその相補鎖の5’-CTTT/A-3’ 配列に結合し、遺伝子発現を制御することが知られている。LHC 遺伝子の塩基配列を調査した結果、Dof DNA結合モチーフと推測される配列がプロモーター領域に確認され、解析の結果、COG1は、LHCA1LHCA2LHCA3LHCA4LHCB1.1LHCB2.1LHCB3LHCB4.2LHCB6 遺伝子のプロモーター領域と結合することが確認された。LHCB5psaD2 の転写産物量も光照射下でCOG1/CDFによって制御されているが、今回の解析では、両遺伝子のDof DNA結合モチーフと推定される領域へのCOG1の結合は検出できなかった。したがって、これらの遺伝子の発現制御には、COG1ファミリー転写因子と他の因子と相互作用が必要なのかもしれない。cog1-3D 変異体およびCOG1 過剰発現系統のロゼット葉の純光合成速度は、野生型植物と比較して増加しており、対照的に、七重変異体では減少していた。また、cog1-3D 変異体およびCOG1 過剰発現系統の電子伝達速度は、野生型と比較して有意に増加していた。これらの結果は、COG1 の高発現がシロイヌナズナのロゼット葉における光合成活性の上昇につながることを示唆している。COG1 過剰発現系統のロゼット葉のデンプン含量は野生型植物よりも高く、七重変異体のロゼット葉では劇的に減少していた。6種のCDF 過剰発現系統のロゼット葉のデンプン含量は、野生型植物と比較してわずかに多いか同等であった。このことから、各CDFが光合成物生産におよぼす影響は比較的限定的であることが示唆される。ロゼット葉の葉緑体を電子顕微鏡観察したところ、cog1-3D 変異体とCOG1 過剰発現系統の葉緑体には、野生型植物に比べてより大きく、より多くのデンプン粒が見られ、七重変異体の葉緑体には小さなデンプン粒しか含まれていなかった。これらの結果は、COG1がロゼット葉のデンプン蓄積を促進することを示している。COG1ホモログは、ハクサイ(Brassica rapa)、タバコ(Nicotiana tabacum)、トマト(Solanum lycopersicum)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、ダイズ(Glycine max)、イネ(Oryza sativa ssp. japonica)、トウモロコシ(Zea mays)などの代表的な作物植物で同定され、ハクサイのCOG1ホモログ(Bradof054Bradof065)を過剰発現させたシロイヌナズナは、COG1 過剰発現系統と同様に、ロゼット葉の増大、地上部新鮮重の増加、デンプン蓄積量の増加、複数のLHC 遺伝子およびpsaD2 の発現促進が確認された。また、シロイヌナズナCOG1 を過剰発現させたベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)は、野生型植物よりも著しく大きくなり、地上部新鮮重も有意に増加し、光合成遺伝子の発現レベルが上昇、純光合成速度が野生型よりも有意に高かった。これらの結果から、COG1とそのホモログのバイオマスを増加させる機能は、異なる植物種で保存されていることが示唆される。以上の結果から、Dof転写因子のCOG1は、光照射に応答した光合成関連遺伝子の発現を直接活性化することで光合成とデンプン蓄積を促進し、植物のバイオマス増加の重要な制御因子として機能していると考えられる。

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