A decoy receptor derived from alternative splicing fine-tunes cytokinin signaling in Arabidopsis
Králová et al. Molecular Plant (2024) 17:1850-1865.
doi:10.1016/j.molp.2024.11.001
シロイヌナズナのサイトカイニン受容体遺伝子AHK4/CYTOKININ RESPONSE 1(CRE1)/WOODEN LEG(WOL)は、10個のエクソンと9個のイントロンで構成されている。チェコ共和国 パラツキー大学のZalabákらは、CRE1 ORFのクローニングを行なった際に、第7イントロンが残っているスプライスバリアントCRE1int7 を単離した。第7イントロンを保持すると、未成熟終止コドン(PTC)が導入され、レシーバードメインを欠く短縮型タンパク質となり、受容体機能に影響を及ぼす可能性がある。公的データベースを解析したところ、シロイヌナズナの根のサンプルにおいてCRE1 転写産物38リードのうちCRE1int7 転写産物と思われる2リードが見出された。また、根から抽出したRNAを用いてRT-qPCRを行なったところ、41140 ± 3440の全CRE1 転写産物(全RNA100 ngあたり)のうち、930 ± 187がCRE1int7 であり、CRE1 転写産物プールの2.3 %に相当することが確認された。サイトカイニン処理(1 mM BAP、1時間)により、根のCRE1 およびCRE1int7 転写産物量が増加し、この処理はCRE1 転写産物よりもCRE1int7 転写産物をより強く誘導した。したがって、サイトカイニンはCRE1 第7イントロンのスプライシングに影響を与え、CRE1int7 転写産物の蓄積につながると考えられる。CRE1int7 のスプライシングに対する内性サイトカイニンの影響を評価するために、サイトカイニン生合成遺伝子ISOPENTENYL TRANSFERASE のipt3/5/7 三重変異体およびipt2/9 二重変異体を用いた解析を行なった。その結果、ipt3/5/7 三重変異体ではCRE1 転写産物と比較してCRE1int7 の減少が強くなり、ipt2/9 二重変異体ではそのような変化は見られなかった。これらの結果から、CRE1int7 スプライシングは、CRE1が高い特異性で優先的に感知する活性サイトカイニンの量によって制御されていることが示唆される。異常なmRNA転写産物は、ナンセンス変異依存mRNA分解経路(NMD経路)によって認識され、分解の標的となる。シロイヌナズナのNMD経路に関与している因子が機能喪失したupf1-5 変異体、upf3-1 変異体においてCRE1 の発現はわずかに増加していたが、CRE1int7 の比率は変化していなかった。このことから、CRE1int7 はNMD経路の基質ではなく、生物学的機能を有すると予想される。大腸菌を用いた発現解析から、CRE1int7バリアントはサイトカイニン結合能は保持しているが、下流へのシグナル伝達は出来ないことが確認された。CRE1int7バリアントの植物体での役割を解析するために、TWO-COMPONENT SYSTEM::LUCIFERASE(TCS::LUC)サイトカイニンレポーターを発現させたプロトプラストを用いた解析を行なった。その結果、CRE1int7 を発現するプロトプラストは対照よりもサイトカイニンシグナル応答が著しく弱くなっており、CRE1int7はサイトカイニンシグナル伝達活性を妨害して減弱させるデコイ受容体として機能していることが示唆される。CRE1 プロモーター制御下でCRE1int7-GFP を発現させた形質転換体(pCRE1::CRE1int7-GFP)芽生えの根は、対照と比較してサイトカイニンに対する感受性が有意に低く、cre1 変異体と同様にサイトカイニン処理による主根の伸長阻害や側根の発達抑制が低減していた。このことから、CRE1int7-GFPは内性のサイトカイニン受容体を妨害し、最終的にサイトカイニンに対する根の感受性を低下させていると考えられる。さらに、pCRE1::CRE1int7-GFP 系統は、対照よりも早く発芽し、主根の伸長が早くなっていた。また、pCRE1::CRE1int7-GFP 系統では、サイトカイニン応答遺伝子(ARR5、ARR7、ARR16)の発現誘導が対照よりも低下しており、CRE1int7はサイトカイニンシグナル伝達を抑制していることが示唆される。CRE1int7 転写産物の機能を詳細に解析するために、pCRE1::CRE1int7-GFP をcre1 変異体に導入することを試みたが、両遺伝子座がホモ接合体となった芽生えを得ることはできなかった。おそらく、両遺伝子のホモ接合体は胚性致死となるものと思われる。そこで、pCRE1::CRE1int7-GFP(+/+),cre1-2(+/ー) 系統を用いて解析を行なったところ、本系統でのARR5、ARR7、ARR16 の発現は、サイトカイニン未処理条件では野生型植物やcre1 変異体と同等であったが、サイトカイニン処理による発現誘導が抑制されていた。よって、CRE1int7はサイトカイニンシグナル伝達機構を阻害していることが示唆される。BiFCアッセイから、CRE1int7はホモ二量体を形成し、3つのサイトカイニン受容体すべてと二量体化することが確認された。よって、CRE1int7は正規のサイトカイニン受容体と二量体化して受容体活性を阻害していると考えられる。CRE1 ゲノム配列から第7イントロンを除去したpCRE1::gCRE1Δint7-GFP を発現させた系統は、対照のpCRE1::gCRE1WT-GFP 系統と比較して、CRE1-GFPタンパク質量は同等であったが、主根が短く、サイトカイニン処理による主根の伸長抑制がより強くなっていた。よって、第7イントロンはCRE1受容体の機能を負に制御していると考えられる。幾つかのスプライシングレポーターを用いた解析から、CRE1int7 転写産物は植物体内で翻訳されていることが確認された。CRE1int7と正規CRE1受容体の発現パターンは根の中心柱で重複しており、両受容体はシロイヌナズナの同じ細胞内器官に局在していた。このことから、2つのサイトカイニン受容体バリアントはサイトカイニンシグナル伝達経路において協力していることが示唆される。以上の結果から、サイトカイニン受容体スプライスバリアントのCRE1int7は、正規の受容体と二量体を形成してサイトカイニンシグナル伝達を不活性化するデコイ受容体として機能しており、サイトカイニンシグナル伝達の負のフィードバック制御機構としてシグナル伝達の微調整を行なっていると考えられる。
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