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論文)側根原基誘導と小胞輸送

2020-12-21 21:30:58 | 読んだ論文備忘録

Cell wall remodeling and vesicle trafficking mediate the root clock in Arabidopsis
Wachsman et al.  Science (2020) 370:819-823.

DOI: 10.1126/science.abb7250

シロイヌナズナの側根は、「root clock」として知られている約6時間周期の遺伝子発現によって誘導が調節されている。米国 デューク大学Benfey らは、DR5::LUC の発現を指標にして将来側根原基(LRP)が形成される部位(prebranch site)を特定し、RNA-seq解析で遺伝子発現の変化を観察した。その結果、遺伝子発現が周期変動している領域で発現している遺伝子で最も一般的なGO termは、細胞壁生合成と小胞輸送に関連するもので、特に、ペクチンリアーゼ、ペクチン酸リアーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ(PME)、およびそれらのインヒビター(PMEI)といったペクチン代謝プロセス関連の遺伝子が含まれていた。この領域で発現量の高いもう1つの遺伝子群としてオーキシンの輸送とシグナル伝達に関連するものが含まれていた。発現量の高い第三のグループは、窒素関連化合物の輸送、代謝、応答に関与しており、これらは側根の密度と成長に影響していることが知られている。さらにシステインリッチ受容体様キナーゼサブファミリーや側根形成関連の遺伝子が含まれていた。これらの結果から、周期変動領域は側根原基形成に必要な様々な経路の転写中心として機能していることが示唆される。次に側根形成とPMEとの関係を明らかにするために、PME5 もしくはPME13 を過剰発現させたところ、prebranch siteが減少して側根数も減少した。また、pme2 変異体、pme3 変異体および両者の二重変異体も側根数が減少した。したがって、ペクチンのエステル化と脱エステル化のバランスがroot clockの機能を支えていることが示唆される。次に、DR5:LUC種子を変異原処理をしてroot clockに異常の見られる変異体を単離した。得られた変異体は、ROOT HAIR DEFECTIVE 3RHD3 )、GNOMSHORTROOT 、GLUTHATIONE REDUCTASESECA1 に変異があり、RHD3とGNOMは小胞輸送に関連するタンパク質として知られている。そこで、芽生えを小胞輸送阻害剤のブレフェルジンA(BFA)で処理したところ、gnom 変異体と同じように側根形成が見られなくなり、root clockマーカー遺伝子の発現にも異常が生じた。さらに、BFA処理をしても側根が発達する2つの変異体を単離した。そのうちの1つは、ADENOSINE PHOSPHATE RIBOSYLATION FACTOR GTPase ACTIVATING PROTEIN DOMAIN 3AGD3 )の変異体であった。AGD3は小胞形成における出芽・分離過程に関与しており、GNOMとは逆の作用がある。gnom 変異体にagd3 変異を導入することでroot clock機能や側根の表現型が部分的に回復した。これらの結果から、GNOM-AGD3回路による小胞輸送はroot clockと側根原基誘導に必要であることが示唆される。ペクチンの成分であるホモガラクツロナンは、ゴルジ体内でエステル化された状態で合成され、細胞壁に分泌され、そこでPMEによって脱エステル化される。gnom 変異体の根は脱エステル化したホモガラクツロナンを含む細胞壁領域が減少しており、内鞘と内皮の接合部で脱エステル化したホモガラクツロナンの密度が野生型よりも高く、これが側根の出現を妨げている可能性がある。側根原基出現部位近傍では細胞壁の剛性の増加に関連する脱エステル化ホモガラクツロナンが減少していた。以上の結果から、GNOM小胞輸送によってもたらされる細胞壁内でのペクチンのエステル化と脱エステル化のバランスが、適切にroot clockが機能して側根原基が誘導されるために重要であると考えられる。

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