Auxin controls seed dormancy through stimulation of abscisic acid signaling by inducing ARF-mediated ABI3 activation in Arabidopsis
Liu et al. PNAS (2013) 110:15485-15490.
doi:10.1073/pnas.1304651110
種子の休眠と発芽は植物ホルモンによって制御されている。ジベレリンは休眠打破と発芽促進に関与しており、他にもブラシノステロイド、エチレン、サイトカイニンが発芽を促進する。アブシジン酸(ABA)は種子休眠の誘導、維持に関与しており、ABAシグナル伝達の主要な因子であるABSCISIC ACID INSENSITIVE 3(ABI3)が種子休眠と発芽阻害の主要な調節因子として機能している。最近の研究から、オーキシンも種子休眠に関与していることが示唆されているが、オーキシンが種子休眠に直接関与しているのか、どのような機構で関与しているのかは明らかとなっていない。中国科学院 上海生命科学研究院 植物生理生態研究所のHe らは、オーキシンのシグナル伝達に関与しているARF10 、ARF16 、ARF17 の発現を抑制するMIR160 を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナの裂開前の長角果の新鮮含水種子は、野生型のものと比べて種子休眠が弱いことを見出した。よって、オーキシンシグナルは種子休眠において重要な役割を演じていることが推測される。また、オーキシンを過剰生産する形質転換体iaaM-OX では野生型よりも種子休眠が強くなっていた。さらに、野生型の新鮮含水種子にオーキシンを与えると、その濃度に応じて種子休眠が強くなった。しかし、4℃で4日間の層積処理を行なうと、オーキシン添加による種子休眠効果が見られなくなった。オーキシン生合成経路の鍵酵素であるYUCCA(YUC)ファミリーフラビンモノオキシゲナーゼのうち、種子発達過程ではYUC1 、YUC2 、YUC6 が発現しており、yuc1 yuc6 二重変異体の新鮮含水種子は野生型よりも休眠が弱くなっていた。オーキシン受容体TIR1/AFBの変異体tir1 afb2 やtir1 afb3 、TIR1/AFBの下流に位置してオーキシンシグナルの抑制因子として機能するIAA7/AXR2やIAA17/AXR3の変異体axr2-1 やaxr3-1 は、野生型よりも種子休眠が弱くなっていた。MIR160 過剰発現個体において発現が抑制されているARF10 、ARF16 の変異体arf10 arf16 も種子休眠が弱くなっており、MIR160 耐性型のARF10 、ARF16 (mARF10 、mARF16 )を発現させた形質転換体は種子休眠が強くなっていた。したがって、TIR1/AFBを介したオーキシンシグナル伝達とその下流に位置するARF10、ARF16は種子休眠に関与していることが示唆される。ABAシグナル伝達に関与しているABI4やABI5の機能喪失変異体のabi4 やabi5-1 はABAによる種子発芽阻害に対して非感受性となるが、種子休眠には変化が見られない。よって、ABAによる種子休眠と発芽阻害はシグナル伝達経路が異なっていると考えられる。そこで、ABAによる種子発芽阻害におけるオーキシンの役割を調査した。ABAによる種子発芽阻害は、オーキシンを同時に添加することによって強まり、両者は相助的に作用していた。また、ABA存在下で発芽阻害を起こす濃度のIAAを、IAA単独で与えても発芽は阻害されなかった。よって、オーキシンによる発芽阻害はABAに依存していることが示唆される。yuc1 yuc6 二重変異体種子は、ABA存在下で野生型よりも僅かに早く発芽し、tir1 afb1 afb2 afb3 四重変異体は発芽におけるABA感受性が低下していた。したがって、オーキシンシグナルの欠損とABAに対する感受性の低下は正の相関がある。さらに、axr2-1 変異体、axr3-1 変異体、arf10 変異体、arf16 変異体の種子もABAに対する感受性が野生型よりも低く、arf10 arf16 二重変異体種子はABA感受性が著しく低下していた。これらの結果から、種子発芽におけるABAの作用は、TIR1/AFB-AUX/IAA-ARFによるオーキシンシグナル伝達が大きく関与していることが示唆される。ABAの作用に対するオーキシンの関与としては、ABA生合成の促進とABA応答の活性化が考えられる。iaaM-OX 、tir1 afb1 afb2 afb3 変異体、arf10 arf16 変異体の葉の蒸散速度は野生型と同等であることから、IAAには葉のABA量を高める作用は無いと考えられる。種子の休眠や発芽に対するIAAの効果は、ABA生合成欠損変異体aba2-1 においても見られることから、オーキシンはABA応答に作用することで種子の休眠・発芽の阻害を行なっていると考えられる。ABI3、ABI4、ABI5は種子特異的なABAシグナル伝達因子として機能しているが、ABI3のみがABAによる種子休眠と発芽阻害の両方に作用している。ABI3 転写産物量は発芽前の種子で高く、発芽後は急速に減少するが、iaaM-OX やmARF10 の種子では、浸漬後も高いABI3 転写産物量が維持され、arf10 arf16 変異体では野生型よりも早くABI3 転写産物が減少した。また、浸漬中にIAAを添加すると、ABI3タンパク質の安定性に変化は見られなかったが、ABI3 転写産物量は増加した。したがって、オーキシンとARF10/16は、浸漬後のABI3 発現の維持に関与していると考えられる。abi3-1 変異体ではIAAとABAによる相助的発芽阻害が見られなくなり、iaaM-OX やmARF10 種子の強い種子休眠やABA高感受性はabi3 変異が付与されることによって弱まった。よって、オーキシンによる種子休眠の強化やABAによる発芽阻害は、ABI3によって制御されていると考えられる。ABI3 遺伝子のプロモーター領域にはオーキシン応答エレメント(AuxRE)があるが、この領域に変異の入ったプロモーターでABI3 を発現するコンストラクト(mABI3:ABI3 )を導入したabi3-1 変異体は、正常なABI3 プロモーター制御下でABI3 を発現するコンストラクトを導入した場合と同様に、abi3-1 変異によるABA非感受性を相補した。したがって、ABI3 遺伝子プロモーター領域のAuxREは、種子発芽の際のABI3 の発現制御には関与していないと考えられる。また、酵母one-hybridアッセイ、ABI3:LUC を用いた発現試験、クロマチン免疫沈降試験から、ARF10、ARF16はABI3 プロモーター領域に直接結合しないことがわかった。以上の結果から、オーキシンはABI3 の発現状態を維持してABAの作用を強めることで種子休眠や種子発芽阻害を引き起こしていると考えられる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます