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論文)不定根形成におけるオーキシンとジャスモン酸のクロストーク

2012-08-18 17:17:41 | 読んだ論文備忘録

Auxin Controls Arabidopsis Adventitious Root Initiation by Regulating Jasmonic Acid Homeostasis
Gutierrez et al.  The Plant Cell (2012) 24:2515-2527.
doi:10.1105/tpc.112.099119

地上部の器官から自然にもしくは環境変化に応答して形成される根を不定根という。不定根形成においてオーキシンが重要な役割を演じているが、詳細な分子機構には不明な点が残されている。シロイヌナズナを用いた研究から、オーキシン応答因子(ARF)のうち、マイクロRNA miR167 のターゲットであるARF6ARF8 が不定根形成を正に制御し、miR160 のターゲットのARF17 が負に制御していることが明らかとなっている。ARF17 はアシル酸アミド合成酵素をコードしているGrtchen Hagen3GH3 )遺伝子のGH3.3GH3.5GH3.6 の発現を負に制御しており、GH3.3、GH3.5、GH3.6のタンパク質量と不定根形成数との間には正の相関がある。GH3はジャスモン酸(JA)、オーキシン、安息香酸塩とアミノ酸との縮合体形成を触媒しており、この反応によってJAの活性化、オーキシンの不活性化、安息香酸の分解が起こる。スウェーデン ウメオ大学Bellini らは、不定根形成を制御するARF の機能喪失変異や過剰発現によって不定根数が変化したシロイヌナズナにおいて内生オーキシン(IAA)量が野生型と同等であることを見出した。よって、これらの個体での不定根数の変化はIAA含量の変化とは関連していないことが示唆される。そこで、GH3.3GH3.5GH3.6 の発現量を見たところ、不定根形成数の少ない系統ではこれらの遺伝子の転写産物量が減少し、不定根形成数の多い系統では転写産物量が増加していることがわかった。また、arf6 変異体、arf8 変異体の解析から、ARF6ARF8 は不定根形成とGH3.3GH3.5GH3.6 の発現に対して相加的に作用することがわかった。しかしながら、gh3 単独変異体の不定根形成数は野生型よりも多くなった。しかもこれら単独変異体の内生IAA量は野生型と変わらなかった。ところが、gh3.3 gh3.5 二重変異体やgh3.3 gh3.6 二重変異体の不定根数は野生型の半分になり、gh3.3 gh3.5 gh3.6 三重変異体では不定根数がさらに減少した。よって、gh3 変異は不定根形成に対して相加的に作用し、GH3.3GH3.5GH3.6 は不定根形成制御において冗長的に作用していると考えられる。gh3 単独変異体では他方のGH3 遺伝子の発現量が増加しており、このことがgh3 単独変異体での不定根数増加をもたらしていると考えられる。gh3.3 gh3.5 gh3.6 三重変異体芽生えの遊離IAA量および遊離サリチル酸量は野生型と同等であったが、暗所で育成した三重変異体芽生えのJA量は野生型の2倍あり、芽生えを明所に移すことで野生型、三重変異体ともにJA量が大きく減少した。また、三重変異体ではJA-Ile量も野生型より多くなっていた。3種のGH3タンパク質はJA-Asp、JA-Met、JA-Trpを形成する活性を有していたが、JA-Ile形成は触媒しなかった。よって、三重変異体でのJA量の増加は縮合体形成量の減少によるものであると考えられる。また、三重変異体ではJA生合成の主要な酵素をコードする遺伝子の発現量が増加しており、三重変異体でのJA蓄積は生合成の増加と縮合体形成の減少の両者によって引き起こされていると考えられる。JAの蓄積量増加はJA-Ile量の増加をもたらし、COI1を介したJAシグナルを活性化させ、不定根の誘導を阻害していると考えられる。三重変異体胚軸芽生えにおいてJAシグナル伝達に関与するJAR1JAZ1JAZ3JAZ5COI1 の発現量は野生型よりも高くなっており、JAシグナルが活性化されていることが確認された。JA非感受性変異体jai3-1 の不定根形成に野生型との違いは見られなかったが、JAR1 /GH3.11 過剰発現個体やMYC2 過剰発現個体といったJAシグナル伝達経路が強化された個体では不定根形成数が減少し、jar1-12 変異体、coi1-16 変異体、myc2 変異体、myc2 myc3 myc4 三重変異体といったJAシグナル伝達経路に変異のある系統では不定根数が増加していた。arf6 coi1 二重変異体、arf8 coi1 二重変異体、ARF17 過剰発現coi1 変異体は野生型よりも不定根数が多くなった。よって、COI1を介したJAによる不定根形成阻害はARF /GH3 の下流において作用している。以上の結果から、オーキシンによって活性化されたARF6、ARF8によって発現誘導されるGH3.3GH3.5GH3.6 は内生JA量を調節し、これが不定根形成の制御をもたらしていると考えられる。

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