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論文)AGAMOUSによるWUSCHEL発現抑制機構

2012-01-11 21:28:26 | 読んだ論文備忘録

AGAMOUS Terminates Floral Stem Cell Maintenance in Arabidopsis by Directly Repressing WUSCHEL through Recruitment of Polycomb Group Proteins
Liu et al.  Plant Cell (2011) 23:3654-3670.
doi:10.1105/tpc.111.091538

花は花芽幹細胞がその維持を終結して各花器官の原基へと分化していくことで形成される。花芽幹細胞の終結には、MADSドメイン転写因子のAGAMOUS(AG)とホメオボックス転写因子のWUSCHEL(WUS)が関与しており、花の各器官の原基が形成されるステージ6までにはWUS の発現は止まり、花芽幹細胞の維持は終結する。WUS の発現抑制にはAG が関与していることが知られており、AG は花の発生過程のステージ3には発現が見られる。しかしWUS の発現停止がステージ6であることから、AG によるWUS の発現抑制は間接的な制御によるものであると考えられていた。米国 カリフォルニア大学リバーサイド校Chen らは、AG によるWUS 発現抑制機構の解析を行なった。弱いag 変異体のag-10 は野生型と同等の花器官を形成するが、しばしば内部に新たな花器官を含んだ短くて膨らんだ長角果を形成し、花芽幹細胞の終結が不完全となっている。このag-10 変異体をEMS処理して、ag-10 変異の表現型が強化される変異体の選抜を行ない、長角果がさらに短く膨らんだ表現型となる変異体を選抜した。この変異体は、ポリコーム群(PcG)タンパク質のポリコーム抑制複合体2(PRC2)のコンポーネントをコードするCURLY LEAFCLF )遺伝子内にGからAへの塩基置換が見られ、SETドメイン内の794番目のアミノ酸がArgからHisへ置換していた。Arg-794は他のCLFのホモログにおいても保存されており、ヒストンH3 Lys-27メチルトランスフェラーゼ活性に関与していると考えられる。clf-47 と命名したこの変異とag-10 との二重変異体は、わい化、早期花成、葉が小さくなり巻くといったclf 変異体の特徴を示しているが、clf-47 単独変異体の花芽幹細胞には目立った異常は見られなかった。clf の他の対立遺伝子cfl-2ag-10 との二重変異体もag-10 clf-47 二重変異体と同じ表現型を示すことから、CLF は花芽分裂組織の有限性に関与していると考えられる。ag-10 clf-47 二重変異体でのWUS 遺伝子の発現は、ステージ7以降の花においても検出され、分裂組織細胞のマーカーであるSHOOT MERISTEMLESSSTM )の発現もag-10 clf-47 二重変異体では花の発達過程の後期まで継続していた。ag-10 clf-47 二重変異体にwus-1 機能喪失変異やstm-2 部分的機能喪失変異を導入した三重変異体の花の形態観察から、これらの変異は共にag-10 clf-47 よりも上位であり、ag-10 clf-47 二重変異体でのWUSSTM の発現期間の延長が花芽分裂組織の有限性の喪失をもたらしていることが確認された。clf-47 変異をag-1 ヌル変異体に導入した二重変異体の花の形態はag-1 単独変異体と同等であり、CFLAG は花芽分裂組織の有限性において同じ経路において作用していると考えられる。花芽幹細胞においてAG と並行して機能しているSUPERMANSUP )の変異とclf-47 の二重変異体は、sup-1 単独変異体よりも雄ずいと心皮が増えて表現型が強くなり、ag-10 clf-47 sup-1 三重変異体は花芽分裂組織の有限性がさらに喪失した表現型となった。ag-10 clf-47 二重変異体のAGタンパク質量は野生型よりも多く、clf-47AG 発現量を低下させずに花芽分裂組織の有限性を弱めており、CLF は花芽幹細胞維持の終結においてAG の下流で作用しているといえる。PcGタンパク質のPRC1コンポーネントをコードするTERMINAL FLOWER2 /LIKE HETEROCHROMATIN PROTEIN1TFL2 /LHP1 )の変異tfl2-2ag-10 の二重変異体もag-10 の表現型が強化されることから、PcGタンパク質は花芽分裂組織の有限性に関与していると考えられる。野生型植物の花序においてWUS ゲノムは全域にわたってH3K27me3に富んでおり、これはPRC2に依存したものであった。また、H3K27me3に結合するPRC1のTFL2/LHP1は、WUS ゲノムの転写開始点領域、第1イントロン領域、コード領域から800 bp下流の領域において見出された。H3K27me3とTFL2/LHP1がともにWUS ゲノムの特定領域で検出されたということは、WUS がPcGタンパク質のターゲットであることを示唆している。さらに、WUS ゲノムの3箇所のTFL2/LHP1結合領域のうち、転写開始点領域とコード領域800 bp下流にはAGタンパク質も結合することがわかった。AGタンパク質にグルココルチコイド受容体(GR)を付加した融合タンパク質(AG-GR)をag-1 変異体で発現させると、デキサメタゾン(DEX)処理によってWUS の発現か抑制されること、この抑制はタンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド(CHX)の前処理をしても起こることから、AGは直接WUS の発現を抑制していると考えられる。WUS ゲノム内のAGとTFL2/LHP1の結合する2つの領域のうち、コード領域800 bp下流にAG等のMADSドメイン転写因子が結合するCArGボックスに類似した配列が2つ並んで存在していることがわかった。このCArGボックスが花芽形成時のWUS の発現抑制に関与しているか、WUS ゲノムのWUS をコードする領域をGUS に置換したコンストラクト(WUS1.6:GUS:WUS3'wt )およびCArGボックスに変異を加えた同様のコンストラクト(WUS1.6:GUS:WUS3'mut )を用いてGUS発現を見たところ、野生型導入遺伝子では花序においてGUSの発現は見られなかったが、変異導入遺伝子では花序分裂組織や花芽分裂組織の髄領域(通常WUS が発現している領域)や幹細胞を含んでいる中央領域で強いGUS活性が検出された。よって、CArGボックスはWUS の発現の空間的および時期的な発現抑制関与していることが示唆される。AG は花序分裂組織では発現していないことから、CArGボックスを介してWUS の発現を抑制するMADSドメイン転写因子はAG以外にも存在すると考えられる。ag-1 変異体のステージ1から8までの花芽を有する花序において、WUS ゲノムのH3K27me3量は野生型よりも少なく、TFL2/LHP1の結合量も減少していた。よって、AGはWUS 遺伝子へPcGタンパク質をリクルートする作用があると考えられる。AGはステージ6の花芽においてC2H2ジンクフィンガー型転写因子をコードするKNUCKLESKNU )の発現を誘導することで間接的にWUS の発現を抑制することが知られている。ag-10 knu-1 二重変異体はag-10 変異体の花芽分裂組織有限性喪失を強め、ag-10 clf-47 knu-1 三重変異体はag-10 knu-1 二重変異体やag-10 clf-47 二重変異体よりも有限性喪失がさらに強くなった。よって、KNUCLF は並行して花芽分裂組織の有限性を制御しており、AG はPcGタンパク質のリクルートを介した直接的なWUS 発現抑制とKNU 発現の活性化を介した間接的なWUS 発現抑制の2種類の機構によって花芽分裂組織の有限性を制御しているものと思われる。花の発達過程ステージ1から6までのWUSAG の発現量変化を見ると、WUS の発現はステージ3で最も高く、4・5において20%程度減少し、ステージ6では発現が見られなくなった。一方、AG の発現はステージ3から始まりステージ6で最も高くなっていた。よって、AG 発現直後のステージ4・5ではPcGタンパク質のリクルートによって直接的にWUS 発現を抑制し、その後はKNU 発現の活性化を介した間接的なWUS 発現抑制が加わり、WUS の発現を終結させていると考えられる。

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