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論文)ジャスモン酸によるPIN2タンパク質の制御

2011-07-22 20:54:38 | 読んだ論文備忘録

Jasmonate modulates endocytosis and plasma membrane accumulation of the Arabidopsis PIN2 protein
Sun et al.  New Phytologist (2011) 191:360-375.
doi: 10.1111/j.1469-8137.2011.03713.x

オーキシン排出キャリアのPIN1、PIN2の細胞内局在は、エンドサイトーシスと構成的循環(constitutive cycling)と呼ばれる小胞輸送を介した細胞膜と細胞内との間の循環によって維持されている。オーキシンはPIN1、PIN2のエンドサイトーシスを阻害して細胞膜への局在を促し、自らの排出を促進することが知られている。さらに最近になってジャスモン酸(JA)がPIN1、PIN2の細胞膜局在を抑制することが報告されている。中国科学院遺伝及び発育生物学研究所Li らは、GFPタンパク質を融合したPIN2(PIN2:GFP)を発現させたシロイヌナズナの芽生え根の表皮細胞でのJAによるPINタンパク質の分布制御機構の解析を行なった。小胞輸送を阻害するブレフェルジンA(BFA)処理をするとBFAボディと呼ばれる細胞内小胞が形成され、そこにPINタンパク質が蓄積するが、5 μMのメチルジャスモン酸(MeJA)の前処理によってPIN2:GFPの蓄積したBFAボディの形成が抑制された。よって、低濃度のMeJAはPIN2:GFPのエンドサイトーシスを阻害していると考えられる。MeJAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシスの阻害はcoi1-1 変異体やaxr1-12 変異体では打ち消されてしまうことから、この阻害にはCOI1やAXR1が関与していると考えられる。JAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシス阻害にJAによって誘導されたオーキシン合成が関与しているかを調べるために、JAによって発現が誘導されオーキシン生合成に関与している酵素アントラニル酸シンターゼをコードするASA1 の変異体asa1-1 を用いて解析を行なった。MeJAのない状態でasa1-1 変異体でのPIN2:GFPの蓄積したBFAボディの形成は野生型よりも多くなっており、MeJAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシス阻害は野生型よりも低下していた。よって、ASA1によって合成されるオーキシンがPIN2:GFPのエンドサイトーシスの阻害に関与していると考えられる。MeJAによるPIN2:GFPのエンドサイトーシス阻害はオーキシン受容体の変異体tir1-1tir1 afb1, 2, 3 四重変異体では野生型よりも低下しており、この阻害はTIR1/AFBを介したオーキシンシグナル伝達が関与していると考えられる。次に高濃度のMeJA(50 μM)を処理をしたところ、細胞膜上のPIN2:GFPが徐々に減少していくことがわかった。MeJAはPIN2 の転写を促進することから、高濃度MeJA処理によるPIN2:GFPの細胞膜からの減少は転写後に起こっているものと思われる。この高濃度MeJAによる細胞膜のPIN2:GFPの減少はcoi1-1axr1-12 変異体では抑制されており、ここにもCOI1とAXR1が関与していることが示唆される。しかしながら、asa1-1 変異体ではMeJAによる細胞膜PIN2:GFPの減少が野生型よりも高まっていた。MeJAによる細胞膜PIN2:GFPの減少はシクロヘキシミド処理をしても影響を受けず、このことからもMeJAの効果は転写後に起こっていることが示唆される。高濃度MeJAは野生型植物の膜結合PIN2:GFP量には殆ど変化をもたらさないが、asa1-1 変異体では膜結合PIN2:GFP量が減少していた。よって、高濃度MeJAはPIN2タンパク質の代謝回転を促進しているものと思われる。asa1-1 変異体と同様にtir1 afb1, 2, 3 四重変異体においても高濃度MeJAによる膜結合PIN2:GFP量の減少が見られることから、JAはオーキシンシグナルとは独立して細胞膜のPIN2:GFP量に影響していると考えられる。高濃度MeJAは細胞膜のPIN1:GFP量を僅かに減少させるが、asa1-1 変異体では僅かに増加させた。しかし、AUX1タンパク質量には影響しないことから、JAはPINタイプのオーキシン排出キャリアのみ制御していると思われる。PIN2タンパク質の細胞内輸送や代謝回転は根の重力屈性に関与していることか知られており、MeJA処理をすることで重力屈性が弱まったが、asa1-1 変異体ではMeJAによる重力屈性がさらに弱くなった。根に重量刺激を与えると重力方向にオーキシンが蓄積する不均等な分布を示すが、MeJA処理をするとオーキシンの不均等分布が妨げられ、その影響はasa1-1 変異体では野生型よりも強くなっていた。以上の結果から、JAはPIN2タンパク質の細胞内分布や代謝回転を制御することでオーキシンの分布に影響を及ぼし、植物の成長や応答を調節していると考えられる。

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