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論文)DELAY OF GERMINATION1による種子休眠

2017-08-18 23:54:38 | 読んだ論文備忘録

DELAY OF GERMINATION1 requires PP2C phosphatases of the ABA signalling pathway to control seed dormancy
Née et al. Nature Communications (2017) 8:72.

DOI: 10.1038/s41467-017-00113-6

シロイヌナズナDELAY OF GERMINATION 1DOG1 )遺伝子は種子休眠を制御しており、DOG1 の変異体の種子は完全に休眠しなくなる。しかしながら、DOG1タンパク質のアミノ酸配列には機能が知られているドメインが見られず、DOG1の休眠制御の分子機構は明らかとなっていない。ドイツ マックス・プランク植物育種学研究所Soppe らは、dog1 変異体においてYFP-DOG1タンパク質をDOG1 プロモーター制御下で発現させた形質転換体を作出し、休眠状態の異なる形質転換体種子を用いて乾燥種子と24時間浸漬種子でプルダウンアッセイを行ない、YFP-DOG1と相互作用をするタンパク質をマススペクトルで解析した。その結果、種子に関連する17の遺伝子オントロジー(GO)のタンパク質が見出された。したがって、DOG1は種子発達過程の様々なタンパク質と相互作用をすることが示唆される。さらに、GOうち7つはアブシジン酸(ABA)応答に関連するタンパク質であることから、DOG1はABA関連タンパク質と相互作用をすることでABAシグナル伝達経路に関与しているものと思われる。休眠状態にある種子はYFP-DOG1と共精製されるタンパク質が多く(乾燥種子:138タンパク質、浸漬種子:80タンパク質)、休眠が低下した種子では相互作用するタンパク質は大きく減少(乾燥種子:6タンパク質、浸漬種子:2タンパク質)していた。これらのタンパク質のうち、REDUCED DORMANCY5(RDO5)とABA-HYPERSENSITIVE GERMINATION1(AHG1)は全ての条件でYFP-DOG1と相互作用を示した。RDO5はPP2Cフォスファターゼファミリーに属しているがフォスファターゼ活性はなく、種子特異的に発現して休眠の正の制御因子であることが報告されている。AHG1はPP2CクレイドAフォスファターゼであり、このクレイドはABAシグナル伝達の負の制御因子とされている。休眠状態にある乾燥種子と浸漬種子においてYFP-DOG1と相互作用をするタンパク質として、AHG3とPROTEIN PHOSPHATASE 2A SUBUNIT A2(PP2AA/PDF1)が見出された。AHG3はAHG1と同じPP2Cのクレイドに属しているが、PDF1はPP2Aタンパク質フォスファターゼの足場サブユニットの1つである。そこで、AHG1/3、RDO5、PDF1について詳細な解析を行なった。DOG1とRDO5、AHG1/3、PDF1との相互作用は、酵母two-hybridアッセイおよびベンサミアナタバコを用いたBiFCアッセイによって確認され、AHG1/3とRDO5は核に局在し、PDF1は細胞質に局在することが判った。pdf1 変異体は野生型よりも種子休眠が強くなり、pdf1 dog1 二重変異体はdog1 単独変異体と同様に完全に休眠が起こらなくなった。よって、dog1 変異はpdf1 変異よりも上位にあり、DOG1はPDF1の下流で機能していると考えられる。ahg1 変異体とahg3 変異体は発芽時のABA感受性が高く、発芽速度が低下することが報告されている。今回、休眠について調査したところ、両変異体とも休眠が強くなっていることがわかった。また、ahg1 ahg3 二重変異体は単独変異体よりも休眠が強くなった。しかし、二重変異体の発芽能力は維持されており、ジベレリン処理をすることで発芽した。これらの結果から、AHG1とAHG3は種子休眠を冗長的に負に制御していることが示唆される。また、dog1 変異体は発芽時のABA感受性が低下していた。RDO5 の変異体は、他のDOG1相互作用タンパク質とは異なり、休眠が強く低下した。dog1 ahg1 二重変異体、dog1 ahg3 二重変異体は休眠しなくなるが、dog1 ahg1 ahg3 三重変異体はahg1 ahg3 二重変異体と同様に非常に強い休眠を示した。したがって、DOG1が機能するためにはAHG1とAHG3が必要であり、両フォスファターゼはDOG1の下流において冗長的に機能していると考えられる。DOG1タンパク質の量が多い種子やAHG1もしくはAHG3が変異を起こした種子は休眠が強くなることから、DOG1はAHG1とAHG3の作用に対する抑制因子として機能していると考えられる。dog1 ahg1 ahg3 三重変異体種子はABAに対する感受性がahg1 ahg3 二重変異体と同程度であることから、ahg1 ahg3 二重変異はABA感受性についてもdog1 よりも上位に位置していることが示唆される。ABAとDOG1はいずれも種子休眠に関与しており、両者は独立して機能しているが、2つの経路はクレイドA PP2Cフォスファターゼに収束していると考えられる。

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