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安部悦生『文化と営利』「第Ⅱ部」「第8章 イギリスの経営文化」(前半):土地所有に基づく貴族・地主的価値体系の優越!しかし1980年代以降、ジェントルマン資本主義は死滅した!

2020-02-22 13:16:15 | 日記
※安部悦生『文化と営利 ―― 比較経営文化論』有斐閣、2019「第Ⅱ部 経営文化の国際比較」「第8章 イギリスの経営文化」(前半)

(1)「イギリスは階級社会か――地主・貴族的価値体系」:イギリスでは土地所有が価値序列の最上位だ!
A 土地所有が価値の最上位、これが地主・貴族的価値体系だ。19世紀末、貴族400家族が全所有地の17%を占め、これに大地主(3000エーカー以上)1688家族、大規模ジェントリー(300エーカー以上)1万2000家族を合わせると、彼ら1万4000家族でイギリスの土地の70%を占めた。
B 貴族・地主的価値体系の中心は土地所有だが、19世紀末以降は証券(特に高配当の海外証券)保有も重視された。
B-2 20世紀に入ると所得税・相続税の重税化で、地主が土地を耕作農民に売却。借地面積は1880年代85%、1960年50%となった。
B-3 すでに19世紀末の農業不況で地主が農業経営に関心を示さなくなり、20世紀はまた独立自営農民の時代となった。
《感想》イギリスで、土地所有は価値序列の最上位だ。貴族・大地主・ジェントリー・独立自営農民は、土地所有ゆえに社会的序列が高い。

(2)「宗教――イギリスと日本の親和性」:イギリス人は「非宗教的」だ!
C イングランドは国教を持ち、それがイギリス国教会(Angrican Church)だ。スコットランドは長老派(プレスビテリアン)が国の宗教だ。現在、イギリスの平均的な人々は、信仰心が篤くなく、日曜に教会に行く人も少ない。日本人と同じように非宗教的だ。
C-2 森嶋『イギリスと日本』によれば、日本人の3大特徴は「(イ)都会好き、(ロ)非宗教的、(ハ)死後の生活を信じない」である。イギリス人は「非宗教的」だが、日本人より「神を信じる」。

(3)「イギリスの企業――その構造」:イギリスの経営者は階級的ジェネラリスト!日本の経営者は社内的ジェネラリスト!
D 企業構造は、株式会社である限り、イギリスも日本・アメリカと異ならない。
E イギリスでは、①職長レベル(ネクタイをする)と工員レベルが、経営と労働つまり「奴らと俺たち(them and us)」の対立感情の先鋭化の場だ。
E-2 ②大規模な労働組合組織における組合幹部と平組合員(工員)の対立もある。②-2「shop stewward(ショップスチュワード、職場委員)」による山猫ストが頻発。
E-3 さらに③ホワイトカラー(月給)とブルーカラー(週給)の対立・差別、④技師(engineer、大卒)と技手(technician)の対立・差別もある。
E-4 ⑤イギリスの経営者は、パブリックスクール(学費の高い私立校)・大学卒のアマチュア的ジェネラリストだ。(ジェントルマン資本主義!)かくて「アマチュア経営者対職員(プレイヤー)」の対立。⑤-2 イギリスの経営者は、階級的バックグラウンドに基づくジェネラリスト(Ex. ラグビーの決断力など全人的知識の養成。)(Cf. サッカーは労働者階級のスポーツ。)
E-5 日本では、意識的ジョブローテーションで社内的にジェネラリストが養成される。
《感想》イギリスは諸種の階級(経済的地位)・身分(出自的地位)対立からなる社会だ。

(4)「工業対商業・金融(サービス産業)」:国家の政策決定において、地主・金融業者による支配力は強靭だったが、第2次大戦後、政治的にも経済的にもジェントルマン資本主義は解体した(1980年代以降、死滅)!
C イギリスでは、ハイファ―ミング(農業生産性を上げる根菜類の導入)により18世紀後半から19世紀前半にかけ、農業生産性が高まり、地主・借地農(農業経営者)・農業労働者の3階級制(3分割性)が登場した。農業の隆盛による地代・地価の上昇、さらにエンクロージャーも実行し、地主階級は政治的支配力が増大した。
C-2 産業革命で富を拡大した産業資本家は、貴族・地主的価値体系の下では、土地を購入し地主・さらに貴族とならない限り、社会の上層にたどり着けなかった。また煤煙を嫌い・農村を好む「反工業精神」(anti-industrial spirit)の社会風土に、工業は攻撃された。
D  16世紀の「マーチャント・アドヴェンチャラーズ」の時代から「大商人」には一定の社会的敬意が払われた。
D-2 17世紀末に国債が大量に販売され出すと、「大金融業者」(マーチャントバンカー)が国家に貢献するものとされた。
D-3 かくて「大商人」と「大金融業者」は、「大地主」に次ぐ社会的地位を持つものとして、「上流階級」に組み入れられた。
D-4 ただし「土地」と異なり、商業・金融をふくむ「ビジネス」をいかがわしいとする「反ビジネス精神」(anti-business spirit)が多かれ少なかれ存在した。これは、キリスト教が「富者が天国に入るのは至難」としていることに由来する。(カルヴィニズムが支配的な地域を除く。)
E ケインズの3階級論:①資産家階級(地代を得る地主、利子を得る証券保有者)、②企業家階級(商業利潤を得る商人、工業利潤を得る工業家)、③労働者階級(賃金を得る)。そして①資産家階級を徐々に衰滅(「安楽死」)させるのが賢明だとケインズは述べた。
E-2 ケインズの構想は実現せず、イギリスの政策は産業資本家(②企業家階級)でなく、土地利害(土地所有者)と金融利害の複合体(①資産家階級)によって決定された。ジェントルマン資本主義!
E-3 国家の政策決定で、地主・金融業者(ロンドンのシティ)による支配力が強靭だったが、第2次大戦後は、政治的にも経済的にもジェントルマン資本主義は解体した。(1980年代以降、死滅した。)
《感想》地主・金融業者(ロンドンのシティ)の支配力は低下し、②企業家階級(商業利潤を得る商人、工業利潤を得る工業家)が、イギリスでは政治的にも経済的にも主力となった。

(5)「企業の発展――個人的資本主義から経営者資本主義へ」:イギリスも経営者資本主義、機関投資家資本主義となった!
F イギリス企業では、血縁を重視した家族資本主義(個人的資本主義)が強固だったが、戦間期に、「私会社」(private limited company)から「公募会社」(public limited company)への転換が起きた。経営者資本主義への転換だ。
F-2 1960年代以降は大企業比率(国民純所得における巨大企業100社の比率)について、イギリスがアメリカを超えた。また個人投資家の比率が下がり、機関投資家(とりわけ海外)の比率が40%を超えた。
F-3 イギリスも経営者資本主義、機関投資家資本主義となった。
《感想》1980年代(Cf. ジェントルマン資本主義も死滅)以降、イギリスは経営者資本主義、機関投資家資本主義の点で、米国と変わらない。

(6)「教育制度の問題」:昔と異なり、イギリスの大学進学率は高い!2010年、日本の大学進学率51%、イギリス63%だ!
G 「初等・中等・高等教育」:イギリスの階級制を温存する仕組み!
G-2 公立教育:まず小学校6年間(5-11歳)。ついで中学校5年間(11-16歳)は、モダンスクール(基礎教育校)、テクニカルスクール(専門教育校)、グラマースクール(総合ハイレベル教育校)(約15%)に分かれる。全2者から「古典教育」の大学(高等教育機関)にはまず進めない。グラマースクールに入った者の一部が高校(6 th Form)(2年間)、さらに大学(3年間)に進む。(1950年代の大学進学率は5%。)大学ではラテン語など古典教育を学ぶ。
G-3 貴族や富裕な家庭は、パブリックスクール(インデペンデントスクール)に通う。ここがアマチュア経営者、ジェントルマン経営者を輩出した。全人的教育、リーダーシップを養う実践的教育(寮・スポーツ)。教育格差の再生産だ。
G-4 「古典教育」の大学(高等教育機関)に関し、オックスブリッジの卒業生はMA(Master of Arts)、他大学の卒業生はM.Phil.(Master of Philosophy)だ。
《感想》ここの話は「古典教育」の大学のことだ。「実学教育」の大学が今は多くあり、イギリスの大学進学率は日本より10%以上高い。文科省資料(OECD 調査)によると2010年、日本の大学進学率は51%。これに対しイギリス63%だ。Cf. アメリカ74%。

H 「実学教育」「ビジネス教育」:「古典教育」でなく「実学教育」「ビジネス教育」の大学が今は多数ある!
H-2 ラテン語などを学ぶ「古典教育」と異なり、工学士、商学士、経済学士等を生み出す「実学教育」の大学が今は多数ある。1990年代のイギリスの大学進学率は40%に達した。(Cf. 2010年には63%!)
H-3 例えば、「ポリ」と呼ばれ軽んじられていた工業専門学校(ポリテクニーク)が1980年代には、大学に昇格した。
H-4 なおイギリスの保守党のメージャー首相(職1990-97)は中学卒で、父はサーカスの座長だった。もちろん保守党には、いまだオックスブリッジ(オックスフォード&ケンブリッジ)出身者が多数いる。
《感想》「古典教育」のジェネラリストだけでは、今の企業は発展できない。多くの「実学教育」の大卒者が企業に必須だ。若者には『学問のすすめ』だ!
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