※サキ(Saki)、本名ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)(1870-1916)、『サキ短編集』新潮文庫、1958年。
(6)「七番目の若鶏」
(a)ブレキンスロプは、「汽車通勤仲間に感心され評判となる話をしたい」といつも思っていた。最近、「2ポンド以上の重さのジャガイモ」の話をしたが、さっぱり評判にならなかった。
(b)そこで彼は話を「創作」した。「1匹の蛇がうちの鶏小屋にはいった。7羽いた鶏に、眼で催眠術をかけぼんやりしているところを噛みつき殺した。ところが『七番目の若鶏』はフランス種で眼に羽が垂れかかっていて、催眠術を免れた。そこでその若鶏が蛇を嘴(クチバシ)で殺した。」
(c)彼の話は、汽車通勤仲間に感心され大評判となった。しかし、そのうちに、別のスミス=バトンと言う男の「事故を免れた愛娘」の話が全盛となった。ブレキンスロプは、再び灰色の後景に押し込められてしまった。
(d) ブレキンスロプは、また新しい話を創作した。「伯母の側を通りかかった紳士が、若い男に仕込み杖で2度、刺され血が飛び散ったのに、平気でまた歩いて行った。2週間後、伯母が同じ場所を通りかかった時、ある銀行の支配人が、仕込み杖で刺し殺された。」この話は「ほら話」として評判になった。
(e)この時以来、ブレキンスロプは汽車通勤仲間の「ほら男爵」と目されるようになった。彼は自分を一座の花形に留めるため、次々と驚異事件を創作した。
(f)そんなある日、彼が勤めから帰ると、細君がトランプで「死神の首」という独り遊びをしていた。「とっても難しいのよ」と細君が言った。「お母さんの大伯母さんがやって、出来た時、興奮して死んだわ。」「お母さんは出来た晩に死んだ。病気だったのは確かだけど、不思議な偶然の一致だったわ。」
(g)細君は、なかなか出来ない。ブレキンスロプが見ると「だってできるじゃないか」と教えた。細君は「死神の首」がついに出来た。だがその晩、細君は亡くなった。
(h) ブレキンスロプは愛する妻を失った悲しみの内にあったが、彼はこのセンセイショナルな事件を新聞に載せてもらおうと考えた。彼は記事を書いた。ところが「作り話の名人」と言う噂が立っていたので新聞社は、彼の記事を事実とみなさなかった。記事は掲載されなかった。
(e) ブレキンスロプの友人たちは、「女房が死んだというのに、『ほら男爵』の真似ごとをするなんてけしからん」と彼を非難した。彼はこれまでの通勤仲間の交際から身を引いた。そして今、彼自身、かつて「七番目の若鶏」の話で評判となった男であったことも忘れてしまった。
《感想1》「事実は小説(ほら話)より奇なり」だ。
《感想2》羊飼いの少年が「狼が来たぞー」と嘘をつき、村人を驚かせるうち、ある日、本当に狼がやってきて食べられてしまうという話に似る。
《感想2-2》蛇の催眠術にかからなかった「七番目の若鶏」のような「ほら話」ばかりしていたので、「ほら話のような奇なる事実」が「事実」と思われなかったという話だ。
(6)「七番目の若鶏」
(a)ブレキンスロプは、「汽車通勤仲間に感心され評判となる話をしたい」といつも思っていた。最近、「2ポンド以上の重さのジャガイモ」の話をしたが、さっぱり評判にならなかった。
(b)そこで彼は話を「創作」した。「1匹の蛇がうちの鶏小屋にはいった。7羽いた鶏に、眼で催眠術をかけぼんやりしているところを噛みつき殺した。ところが『七番目の若鶏』はフランス種で眼に羽が垂れかかっていて、催眠術を免れた。そこでその若鶏が蛇を嘴(クチバシ)で殺した。」
(c)彼の話は、汽車通勤仲間に感心され大評判となった。しかし、そのうちに、別のスミス=バトンと言う男の「事故を免れた愛娘」の話が全盛となった。ブレキンスロプは、再び灰色の後景に押し込められてしまった。
(d) ブレキンスロプは、また新しい話を創作した。「伯母の側を通りかかった紳士が、若い男に仕込み杖で2度、刺され血が飛び散ったのに、平気でまた歩いて行った。2週間後、伯母が同じ場所を通りかかった時、ある銀行の支配人が、仕込み杖で刺し殺された。」この話は「ほら話」として評判になった。
(e)この時以来、ブレキンスロプは汽車通勤仲間の「ほら男爵」と目されるようになった。彼は自分を一座の花形に留めるため、次々と驚異事件を創作した。
(f)そんなある日、彼が勤めから帰ると、細君がトランプで「死神の首」という独り遊びをしていた。「とっても難しいのよ」と細君が言った。「お母さんの大伯母さんがやって、出来た時、興奮して死んだわ。」「お母さんは出来た晩に死んだ。病気だったのは確かだけど、不思議な偶然の一致だったわ。」
(g)細君は、なかなか出来ない。ブレキンスロプが見ると「だってできるじゃないか」と教えた。細君は「死神の首」がついに出来た。だがその晩、細君は亡くなった。
(h) ブレキンスロプは愛する妻を失った悲しみの内にあったが、彼はこのセンセイショナルな事件を新聞に載せてもらおうと考えた。彼は記事を書いた。ところが「作り話の名人」と言う噂が立っていたので新聞社は、彼の記事を事実とみなさなかった。記事は掲載されなかった。
(e) ブレキンスロプの友人たちは、「女房が死んだというのに、『ほら男爵』の真似ごとをするなんてけしからん」と彼を非難した。彼はこれまでの通勤仲間の交際から身を引いた。そして今、彼自身、かつて「七番目の若鶏」の話で評判となった男であったことも忘れてしまった。
《感想1》「事実は小説(ほら話)より奇なり」だ。
《感想2》羊飼いの少年が「狼が来たぞー」と嘘をつき、村人を驚かせるうち、ある日、本当に狼がやってきて食べられてしまうという話に似る。
《感想2-2》蛇の催眠術にかからなかった「七番目の若鶏」のような「ほら話」ばかりしていたので、「ほら話のような奇なる事実」が「事実」と思われなかったという話だ。