DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

映画『ビューティフル・デイ』You Were Never Really Here(2017年、イギリス):トラウマを持つ二人にとって、ここ(かつ今)は空虚だ!

2018-06-02 22:18:12 | 日記
(1)
戦争のトラウマを抱え、暴力に不感症の元軍人ジョー。彼は、必要ならば、極めて残酷となり、平然と人を殺す。彼は、年老いた母と暮らす。彼は母を愛する。そのような彼は、行方不明の少女たちを捜し出す報酬で生計を立てていた。
(2)
彼のもとに、「上院議員の娘ニーナを捜してほしい」との依頼が舞い込む。報酬は5万ドル。ニーナは、誘拐され、少女売春をさせられていた。ジョーは、警備する連中等、数名を殺し、ニーナを救出する。見つけ出したニーナは、感情を失っていた。
(3)
だが、不可解な事件が起こる。依頼者の上院議員が自殺する。ジョーたちは襲われ、ニーナはジョーの目の前で再びさらわれてしまう。
(4)
ジョーが自宅に戻ると、母は殺されていた。ジョーは、悲しみに打ちのめされ、母親を湖に水葬した。
(5)
その後、ジョーは襲撃者の一味に反撃し、下手人が、知事だとわかる。(知事は、表面上は上院議員の協力者だった。)知事は少女を犯す嗜好を持ち、ニーナもそのために連れ去った。襲撃者たちは、証拠を消すため、《ニーナ救出をジョーに仲介した組織》の関係者も、殺害した。
(6)
ジョーは、知事に復讐し、またニーナを救出するため、知事の屋敷に侵入する。ここでジョーは知事の警備官、数名を殺す。ところが、知事はすでに、ナイフで喉を切られ殺害されていた。
(7)
知事を殺したのはニーナだった。彼女は知事を油断させ、ナイフで平然と殺した。彼女の精神は異常だ。ジョーは、ニーナを連れ、逃亡する。
(8)
ニーナを大切に扱うジョーと、ニーナの間には信頼関係が成立する。ジョーは、自分が殺されたと妄想する。戦争のトラウマは、彼の精神を壊したままだ。ニーナが、「外はいい天気(a beautiful day)だから散歩する」とジョーに言う。

《感想1》
戦争のトラウマを抱え、暴力に不感症の元軍人ジョーが、平然と人を10名以上殺す様子は、精神の異常を示す。
《感想2》
ジョーは心の平安を、母との相互的信頼&愛の関係で、かろうじて保った。母を殺されたジョーは、悲しむとともに、襲撃者に対して、無慈悲に反撃し殺害する。
《感想3》
ニーナは、精神に異常をきたしている。だが、ジョーとニーナの信頼関係が、ジョーにとっては母親との信頼(or愛)の関係の代替物になるだろう。ただし、精神に異常を持つ二人の信頼関係は、危うい。
《感想4》
原題「君たちは決してここにいなかった(You Were Never Really Here)」とは、「彼らの精神は、実はここになかった」ということだ。元軍人ジョーの精神は過去にのみリアリティを感じ、少女ニーナも彼女を傷つけた過去の時間に縛られている。精神にトラウマを持つ二人にとって、ここ(かつ今)は、空虚だ(空虚に出現する)。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

伊集院静(1950ー)「朝顔」(2005年):戦災孤児だったが、企業経営者になり成功し、平穏な余生を送る70歳を過ぎた老人(男)の幸せな回想!

2018-06-02 16:22:43 | 日記
川添龍三郎、70歳を過ぎた男の回想。
(1)
朝顔の夢。60年前、母ミオを追い出した祖母が憎くて、祖母が大事にしていた朝顔を、弟とともに、めちゃくちゃにした時の夢。(弟は、新しい母親の連れ子。)
(2)
龍三郎は、5年前に妻がなくなり、独り暮らし。嫁いだ娘が二人いるが、遠慮して、一緒に住まない。
彼は、最近、軽い脳梗塞になったが、大事に至らなかった。
(3)
龍三郎は、瀬戸内海沿いの小市から上京。勤めていたプラスチックの問屋から独立し、東京・足立で加工工場を30年余り経営。その後、他人に譲り引退。足立にすでに40年以上住む。
昔の小さかった娘や、元気だった妻の事を思い出すと、「私は独りになってしまった」と思う。
(4)
龍三郎は、今回、60数年ぶりに、故郷の瀬戸内海沿いの街を訪れる。
昔、祖母は、県下で一番優秀な高校に合格すれば、進学してよいと言ってくれた。そして合格した。また東京の国立の理工系の大学の受験も、許してくれた。大学受験は失敗し、予備校に通っている時、祖母が亡くなった。父は、数年前に女と失踪し、仕送りが止まった。
(5)
予備校の講師が、勤め先として、老舗のプラスチック問屋を紹介してくれた。その社長が、龍三郎の身の上を知り、自分の家に住まわせた。彼は、運が良かった。めぐり逢った人から親切にしてもらった。
(6)
見合いで一緒になった妻も、「器量も人並みで何より普段から明るくて性格が素直で、よく自分に嫁いできてくれた」と、彼は思う。
(7)
龍三郎は、実は、戦災孤児だった。空襲で焼け出され、両親も生家も失った。浮浪児の生活を、1945年夏の空襲の日から、秋、冬まで続けた。ある日、偶然、闇市で彼に雑炊を食べさせてくれた女と、彼は、生活することになる。女は、彼に自分を「母ちゃん」と呼ばせた。それが龍三郎の母ミオだった。
(7)-2
母ミオは、旧家の放蕩息子にうまく取り入り、その家に龍三郎とともに入った。祖母は、母ミオに嫌味を言ったが、強気のミオは「ここの家の大事な跡取りを、連れて来たんだ」と言い返した。
(7)-3
しかし祖母は、放蕩息子が連れて来た、血もつながらないし、まともな戸籍もない母子を、役場で入籍し、彼には龍三郎という名もつけてくれた。そして、学校にも通わせた。龍三郎は、。めぐり逢った母ミオ(もともと他人)からも、また血のつながらない(もともと他人の)祖母からも、親切にしてもらったのだ。
(7)-4
祖母が母ミオを追い出したのは、「ミオという女(母)は、家を出ても、別の幸せを見つけて生きて行ける」と思ったためかもしれない。また祖母は、私が東京に行く時、「この家のことは考えなくてよい。私のことも両親のことも気遣わずともよい。独りで生きよ。」と言い、金の入った封筒をくれた。
(8)
彼は、家の奉公人で話し方も動作も鈍い大男に、片腕を失わせる事件を起こしたことがあった。今回、故郷の街を訪れたのは、封じ込めていた過去との対峙のためだが、祖母の墓参もしたかったし、この男が生きていたら謝りたいとも思った。

《感想1》
戦災孤児だったが、企業経営者になり成功し、平穏な余生を送る70歳を過ぎた老人(男)の幸せな回想だ。もちろん、様々の思いや後悔がある。しかし「終わりよければ全(スベ)てよし」だ。
《感想2》
これは小説だが、実際に、これに似た人生をたどった戦災孤児もいるだろう。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

吉田修一(1968ー)「風来温泉」(2005年):保険外交員・恭介の心は暗い!彼は、今、人生の岐路だ!

2018-06-02 11:52:29 | 日記
(1)
恭介は、保険の外交員だ。実力があり、営業所ではいつも1位の成績。収入は多く、立派なマンションに住み、高価な商品も購入できる。
(2)
しかし、これまで恭介は親戚、友人等、強引に保険に加入させたので、今や、彼等は「会えば保険の勧誘を受ける」と思い恭介に近寄らない。
(3)
恭介は、保険の販売増のことのみ考え、顧客との付き合い・勧誘で帰りも遅く、休日もない。妻・真知子は、そのような恭介が、自分に心を向けないことに、不安を感じている。そして二人は遂に衝突した。
(4)
かくて今日、恭介は一人、那須塩原の温泉宿に行く。
(5)
温泉で、恭介は、化粧品会社の女社長と出会う。彼は、彼女とのラブ・アフェアを期待しながらも、結局、いつもの保険外交員の習性で、彼女に団体保険を紹介した。
(6)
突然、恭介は、気分が悪くなる。夜、温泉を激しく秋の風が吹く。森が暗い。追い詰められた恭介の心も暗い。

《感想1》
恭介の心が、なぜ暗いのか、以下、まとめてみる。
①彼は、いつも保険の営業成績が落ちることを秘かに恐怖し、そのプレッシャーに不安だ。
②自分が「保険の外交員」と、周囲から馬鹿にされているとのコンプレックスがある。
③妻・真知子は、保険の営業成績のことしか頭にない恭介に、不安・不満だ。
④「恭介は、保険勧誘にしか興味がない男」と、親戚・友人から嫌われた。彼はつらい気分だ。
⑤「女性との情事を期待しながら、結局、団体保険を紹介する」という自分の保険勧誘の習性への自己嫌悪。
《感想2》
恭介の人生の岐路だ。彼は今、30歳位。保険外交員歴5年。工業高校卒で、もとは塗装工だった。(ア)競争が激しい保険外交員の世界を離れる選択肢もありうる。(イ)しかし、その場合、現在の高収入の維持は難しい。(ウ)妻・真知子は高収入でなくても、恭介が、妻に関心を向けてくれることを望む。(エ)子供を持つかどうかも、やがて決めねばならない。
Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする