ホンダジェット、技術畑の社長さんの英語力
日本人としてどれくらい英語力をつければいいか、私たちの学習目標を知るのが、「日本人の英語」シリーズの目的です。
「あの人は英語ができるねえ」などとなんとなく言うことは多いと思いますが、その場合の英語力とは何か。ちょっと考えると人によってずいぶん考えが違うと思います。まずは、「英語が読める」か「英会話が得意か」ということがあります。まあ、このへんは多くの人が意識するので、「英語ができるねえ」と言ったあとで、「こないだ外人とペラペラ話していたよ」などの注釈がつくことが多いので区別している人が多いことが分かります。しかし、もっと細かくなるとけっこういいかげんなものです。プレゼンができるか、パーティーなどで和気あいあいと話すことができるか、ディベートができるか、など、ちょっと考えると水準が違うことが分かります。要するに「英語ができるねえ」と言うのはまじめに情報伝達の能力を論じているのではなく、内向きのコンプレックスを語っているのに過ぎないのでしょう。アングロフォンの人は母国語ですからだれでも英語が使えますが、そういう人は「英語ができる」とは言わない。英語が優越言語で、劣等言語である日本語の話者はただただそれに追いつかねば、という願望のみが潜在意識を占めていて、じっさいの英語の用途が頭から追い出されている、というような事情が背景にあるとしたら困ったものです。
何のために英語を使うか。このことを考えさせてくれる人をこのシリーズでは取り上げます。
近頃、ホンダの5人乗り小型ジェット機が国内でも10機売れたという報道がありました。このクラスの飛行機では性能が一番よく、世界で一番売れているそうです。藤野さんはそのホンダジェットの社長さんです。数年前に米国で許可が下りた際、The Edgeというメディアのインタビューに答えている動画があるので、見てみます。
https://www.youtube.com/watch?v=XXFTU53OuWg
00:49から、01:49までだけ、話しぶりを追っかけてみましょう。(訳と間違いらしい点はこの記事の下にあります。)
00:49
- Well, thank you so much for joining us today.
-Thank you very much.
- You’ve been involved in making aircraft for over twenty-five years. Can you tell me how initially got involved in making planes for Honda?
- I joined Honda 1984 and first two years I worked on the automotive division, research division. But one day my boss came to me at lunch time and he told me that you should go to the airplane project.
- In nineteen-ninety six Fujino was sent to Mississippi in the U.S. on a secret mission. To learn how to build a plane from scratch.
- I was told to go to the United States. Then I greeted to my professor, you know, because I was going to the United States. But at the time I couldn’t say what its assuagement was, and what I was going to do at the time. So my professor still complains that I didn’t say I was working on the airplane project at the time.
- At this moment, it was still an experimental project when -------- 01:48
聴きましたか?。
インタビューの受け答えは、気負いなく、スムーズに進んでいます。英語初級者にとくに言いたいのですが、藤野さんは日本人の英語会話力の一つの目標レベルを示していると思います。重点は、相手との会話に自然に入れるスピードがあることと、無駄なく正確であることです。たしかに下で見るように、間違いがあるのですが、これも、この人はいわゆる「英語屋」ではなく、大人になって現場でやり取りすることで身につけた英語だということを明かしています。
藤野さんは、大学では航空工学を専門にしたそうです。高校でも大学でも意識して英語を学習したことはなさそうです。ちょうどセンター試験に英語リスニングが導入されたばかりの世代でしょうか。しかし、私が見るところ、大学受験の際に英語を文法的に、論理的に読む、書く訓練をかなりしていると思います。それが、8年後ぐらいたったあと、現場で米国人たちと、やりとりするうちに鍛えられたのが藤野さんの英語ではないでしょうか。米国で精密なモノを作る、その経験には論理、数字、それに焦点についても過たないこと、速いことが要求されます。その場では、英語、日本語を越えた普遍的な言語能力とでも言うべきものが育ちます。アメリカに滞在すればいいというわけではありません。何年もいても皆目英語力が進歩しないひともたくさんいます。昔は日本製は性能がいいというだけで、売り手の英語力と関係なく買ってくれたということもその理由の一つでしょう。しかし、ホンダジェットの場合、米国人と共同でモノを作るという作業を経験したわけです。モノは勝手に動いてくれません。意を尽くし理を窮めて、アングロフォンの人と議論を尽くし、共同して初めてモノをう動かすことができるのです。
こういう藤野さんの英語にも課題がないわけではありません。日本人の英語学習者すべての最大の課題、時制と法という動詞の形と、単数、複数の区別です。とりわけ、モノを扱う場合...、もっと曖昧でない表現を使いましょう...、技術、工学分野...、ですね、この分野では、上記の二つの側面は弱くても通じさせることは可能です。そこが政治家などに要求される英語力と違う点です。下のトランスクリプトを見るとそれが分かります。しかし、私たちは逆に、ここから自分たちの英語学習の課題を読み取るべきです。
問題は「英語力」ではないでしょう。日本語以外の言語を用いる人とも、正確で、ユーモアと余裕のあるやり取りができ、そして、なにより、お互いの信頼感に基づて、共同して問題を深めて行ける人がでてきたということです。私たちは以前に、教室などで建築家の板茂さんをその例として挙げました。残念ながら、いわゆる文系の分野では意外とこういう人は出てこない。歴史、哲学、政治で日本人以外の人と微妙な点まで、肝胆相照らすという水準で共同作業を行える人がどれだけいるか。「留学」した友人の大学教師たちも向こうで学位をとってきたのに、高い知的な会話を常に行える友人がいる人を知らないようです。この点に関して、このあいだ産経新聞の『正論』欄に袴田茂樹さんが興味深いことを言っておられたので、近々取り上げましょう。
00:49
- Well, thank you so much for joining us today.
今日インタビューに応じてくださりありがとうございます。
-Thank you very much.
こちらこそ。
- You’ve been involved in making aircraft for over twenty-five years. Can you tell me how initially got involved in making planes for Honda?
航空機製造に25年以上携わってこられたのですが、ホンダの航空機製造に最初どうやってかかわったか教えていただけますか。
- I joined Honda 1984 and first two years I work(ed) on the automotive division, research division. But one day my boss came to me at lunch time and he told me that you (should) go to the airplane project.
私は1984年にホンダに入り、最初の2年間は自動車部門、研究部門におりました。しかし、ある日、上司が昼食時にやってきて、航空機部門に移れと言われました。
- In nineteen-ninety six Fujino was sent to Mississippi in the U.S. on a secret mission. To learn how to build a plane from scratch.
1996年、藤野さんは米国のミシシッピー州に、秘密の使命を帯びて派遣されました。ゼロから飛行機を製造かを学ぶためです。
- I was told to go to (the) United States. (Then) I greet(ed) to my professor, you know, because I go (= was going to) (the) United States. But at the time I couldn’t say what is its assignment(s) (= what its assuagement was), and what I was going to do at the time. So my professor still complain(s) that you (= I) didn’t say you (=I) work (= were working) on the airplane project at the time.
私は米国行きを命じられました。そのとき、大学の教授に挨拶に行ったのですね。米国に行くわけですから。しかし、そのときは私の任務が何なのか、何をしようとしているのか言うわけにはいきませんでした。だから、いまでも教授にあのとき君は飛行機製造に携わると言ってくれなかったではないかと叱られます。
- At this moment, it was still an experimental project when --------
当時、まだ実験段階のプロジェクトだったのですね。そのとき... 01:48
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