外国語学習の意味、そして母国語について考えましょう

社内公用語の英語化、小学校での英語の義務化など最近「英語」に振り回され気味ですが、何故、どの程度英語を学ぶか考えます。

戦前の駐米大使 斎藤博(9) April 2018

2018年04月04日 | 駐米大使:斉藤博 1886 - 1939

戦前の駐米大使 斎藤博(9)

前回(7)

齋藤博大使1このブログは、或る人から「フェイスブック」を始めろと言われ、言われるままに、読む人のことも念頭になく、しぶしぶ戦前期の駐米大使、斎藤博についてメモ程度に書き出したもののです。その後もフェイスブックの意味、用途が分からないので、フェイスブックは中断して、評論家の小浜逸郎さんたちに習ってグーのブログに移り, 断続的に書き続けてまいりました。このブログは、英語学習、教育が中心ですが、狭い意味での英語に限らず、歴史や世の中の出来事について英語を通じ、知り、考える過程が、結局は英語力の向上につながるのは言うまでもありません。

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数年ぶりに、斎藤博さんに戻ってまいりました。外交史について手堅い意見を述べる術はありません。ブログの気安さをいいことに「感想」を述べるばかりです。基準はと問われれば、コモンセンスと答えるしかないのでしょう。

以前の私のブログや、テレビで放映された斎藤博のルポなどから、「良い者」としての斎藤と「悪者」の軍部という図式が伝わってしまうかもしれませんが、じっさいは、そのように単純なものではなさそうです。

小川栄太郎さんは今日の「正論欄」(産経新聞:平成30年4月4日)に、幕末の外交交渉に関し次のように述べています。

一見、幕府が合理的、松陰は無謀・軽挙・狂気に見える。が、さうだろうか。幕府の理性的な詰めの中での小さな譲歩は、修好通商条約の大きな譲歩に繋がり、穏便な外務省外交と強硬な軍事突破の激しい往復となる日本近代史序奏となった。譲歩と爆発を繰り返す日本は、世界から見ると狡猾な打算と強奪の国に見えることになる。彼我の肖像の大きな相違が日本近代史の破局の背後にあったのは間違ひない。

齋藤大使夫人幕末以来の、穏便派と強硬派の対立は、斎藤博の時の外交にも当てはまります。もちろん穏便派は斎藤博。外務省の天羽と対立する様は下にURLを引用したTV番組でも触れられています。斎藤の親米的姿勢はそのまま受け止められていたのでしょうか。日本の大陸での行動、ドイツとの同盟は、疑い、あるいは疑い以上の目で見られていたでしょう。如何に友好関係を演出しようが、国家の意思が単一であるとすれば、齋藤は狡猾の烙印を押される可能性が高かったのではないか。齋藤個人ではないとしても、斎藤を送り込む政府の狡猾さ、という図が浮かんできます。そう考えると下にURLを挙げた壮大な葬儀も素直に受け止められません。葬儀が米国の誠意を最大限に示すものとして盛大であればあるほど、米国人の目には日本が米国を裏切っていると映るのではないでしょうか。日米戦を前にして、斎藤の死が米国に利用されたということも言えるかもしれません。

では、「譲歩と爆発を繰り返す日本は、世界から見ると狡猾な打算と強奪の国に見える」という小川さんの指摘する事態が起きてしまうのはなぜか。つきつめると、国家が組織として一体化して機能していないからではないかと思います。どこの時代のどの国にもビューロクラシー(官僚支配)がありますが、日本の場合、度を越していないか。もっと、根本的に見ると、日本人には組織というものの理解が乏しいのではないか、と思えてきます。みなさんは、どうお考えになるでしょう。

 

■パネイ号事件(1937)後、英語で謝罪する斎藤のニュース映像 

齋藤博大使の英語力、より正確には、伝ようとする力に注目。中級の方、ぜひ聴いてみましょう。きれいな映像です。

https://www.gettyimages.co.jp/detail/%E5%8B%95%E7%94%BB/japanese-ambassador-to-the-us-hiroshi-saito-reads-newspaper-sot-%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E5%8B%95%E7%94%BB/529303776

I am very sorry to receive the report that an American gunboat, Panay has been bombed and sunk by a Japanese naval airplane in the the Yangtze River above Nanking. It was a great mistake. It was an unintentional and unexpected occurrence. The Japanese government and people wish to express their sincerest and profoundest regrets to the American government and people on account of this deplorable incident. I have today called upon Secretary of states, Mr Cordell Hull to express Japanese regret.

gunboat武装船 bomb爆撃する   naval海軍の    the Yangtze River揚子江   above~の上流域での    unintentional意図せざる   unexpected予期しない   occurrenceできごと   sincerest最も誠実な   profoundest最も深い   regret後悔の念    on account of = because of = owing to = due to~が原因で   deplorable嘆かわしい   incident小事件(歴史上、盧溝橋の後に歴史につながるとみなされない小事件)  call uponを訪問する(正式な表現)  Secretary of State国務長官

■テレビ番組の一部:『駐米大使・斎藤博の遺骨が日本に帰り着いた日』7分ほど

 https://www.youtube.com/watch?v=eugh0QYNsGE

 ■齋藤の死を悼んで作曲された歌曲:斎藤大使の帰還 Ambassador Saito's Return

斎藤大使の帰還レコード歌:宮崎美子 作曲:山田耕作 作詞:野口米次郎(彫刻家、イサムノグチの父) 1939年

歌詞の字幕がついています。

https://www.youtube.com/watch?v=D3fHMK_2AnE

 

 

 

 

■Us Honour Passing Of Japanese Ambassador Aka Funeral Of Japanese Ambassador (1939)

ワシントンにおける斎藤大使の盛大な葬儀の様子。

 https://www.youtube.com/watch?v=_WOQddWX67k

 aka = also known as

 

 

 


戦前の駐米大使 斉藤博(8) 未完

2014年03月04日 | 駐米大使:斉藤博 1886 - 1939

 

斉藤博(8) 未完  飛ばして9へお進みください

9には、歴史的に貴重な動画へのリンクが4つあります。2021・8.10


ふたたび、斉藤博です。

以下の英文をお読みください。
Everyone knows that relations between Japan and China are strained, especially in the East China Sea. Japan has been exercising utmost restraint.

訳:日本と中国の関係、とりわけ東シナ海においての両国の関係がが緊張しているということは全ての人が知っている。日本は最大限に抑制した姿勢をとっている。

これは何時書かれたものでしょう。斉藤博の連載を読んだあとに読むと、1930年代のものだと思ってしまいそうですが、2014年1月5日に英国紙、デイリーテレグラフに駐英大使が寄稿した記事の冒頭部分です。

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シリーズ 日本人の英語 戦前の駐米大使 斉藤博(7)

2014年02月26日 | 駐米大使:斉藤博 1886 - 1939

      シリーズ 日本人の英語

前回

斉藤博(7)

斉藤は近衛に外相就任を打診されたそうですが、1938年、胸の病篤く、大使の職を辞した後、1939年、米国で客死します。

その死を悼んだ米国大統領は、遺骨を巡洋艦アストリアにて、横浜まで運ぶという礼を尽くします。そのアストリア号は、日米戦争勃発後、日本軍によって撃沈 されるという運命をたどります。そのアストリア号の砲兵長が戦後、横須賀基地の司令官となり、斉藤の遺族を招いたという後日談もあります。

斉藤がもし生きていたら戦争は起こらなかったのでは、と考えることには無理があるでしょう。少し歴史を勉強すれば、当時の緊張の高まりは一人の外交官の力 の及ぶところでないと思わざるを得ません。また、日本人は忘れがちですが、第一に、戦闘意思は日本のみにあったのではなく、支那、米国にもあったのですか ら。

しかし、結果ばかりを追いがちな現代において無視されがちな失敗例の蔭に、学ぶべき徳が隠されていることがあります。危機のなかで全開した、斉藤の伝達意 思と言語能力、表現力は、しばらく忘れられていることが許される時代が続きましたが、そろそろ思い出す必要のある時代が到来したようです。

斉藤について資料を三つ挙げておきましょう。

某新書『英語達人列伝』
最近の新書本には、学生のリポートのようなものがありますが、残念ながらこの書の斉藤に関する章もそれからさほど遠くないものです。が、斉藤が英文速記を 学習したというような事実の発見があります。章の最後にテレビで見た番組で大変英語をよくする人が映っていたのを覚えていて、果たしてそれが斉藤だったい う記述がありますが、それなら、極めてまれな戦前期の日本人の話す英語なのですから、言語学者の著者は論じていただきたかったものです。

『ある歴史の娘』犬飼道子
http://www.c20.jp/p/shirosi.html斉藤の遺骨を乗せたアストリア号、横浜へある歴史の娘シナ大陸の真相
斉藤の親戚にあたる著者による、斉藤の人柄の描写が印象的。エレノア・ローズベルトが著者に、「大胆不敵な開けっぱなしの魅力」があったと言ったと述べています。

『シナ大陸の真相 1931-1938』カール・川上 
当時の在米日本人知識人による、日本の立場擁護の書。読むに値しないという評価もありましたが、偏狭なイデオロギーの匂いがしました。川 上は斉藤のブレーンの一人だった興味深い人物です。古森義久著、『嵐に書く―日米の半世紀を生きたジャーナリストの記録』という伝記があります。
この書の末尾に、斉藤の米国でのレクチャーの訳がいくつか掲載されています。特に、最後のものにより、斉藤が、当時の大陸をどう見ていたかが理解できます。しかし、外交官の立場からか、日独同盟と矛盾する、ドイツと国民党との結びつきには触れていません。

斎藤博9へ(8は未完)


シリーズ 日本人の英語 戦前の駐米大使 斉藤博(6)

2014年02月25日 | 駐米大使:斉藤博 1886 - 1939

斉藤博  

シリーズ 日本人の英語

前回

斉藤博(6)

改めて、斉藤博と、松岡洋祐を比べてみたいと思います。どちらも英語を話す能力は高く、それを公式のスピーチで表現する力も優れています。昨年、人々の眉を顰めさせた「シャラップ大使」の話しているのをユーチューブで聴けば、その能力の高さが分かります。

では、両者は、言語使用という点においてどこが違うかというと、松岡は、類型的表現を用いているのに対し、斉藤は聴き手の知識や気持ちを察して、それに訴 える表現を用いている点です。松岡の演説が決別のためだから、理解させることに熱心でなかっただろうと考えることもできますが、残念ながら内容は歴史的演 説とは言えません。一言印象深いレトリックを用いれば歴史に残るよい機会だったのですが…。以下のユーチューブのページには、松岡の演説の録音とトランス クリプト(写真なので読みにくい)があります。

http://www.youtube.com/watch?v=KIJAT6dJVIE

斉藤の、パネー号事件に際してのスピーチでは、「涙を浮かべて」の評もあるとおり、表現が観衆に届いたようです。その違いは、才能ということもあるでしょ うが、伝えたいという意思の問題でしょう。ここで斉藤は画面に向かって話していますが、ラジオの時代、普通は考えることのないニュース映画出演を考えたの も、伝達ということを真剣に考えた上でのことだと思います。ニュース映画制作を考えたのも並外れたといえます。
http://www.youtube.com/watch?v=eugh0QYNsGE

斎藤博7へ

 

 


シリーズ 日本人の英語 戦前の駐米大使 斉藤博(5)

2014年02月25日 | 駐米大使:斉藤博 1886 - 1939

    シリーズ 日本人の英語

前回
斉藤博(5)


前回『駐米大使・斉藤博の遺骨が帰りついた日』の04:14あたりに、パネー号事件の際のニューヨークタイムズの一面トップ記事のタイトルが写ります。


U.S. demands full satisfaction from Japan, with garantee against further attacks; thought ships Chinese, Japanese admiral explains  (December 14, 1937) の文字が見られます。
= 「米国は、更なる攻撃がないことの保障を伴う、日本からの十分満足できる回答を求めている。日本の提督はそれらの船舶が中国籍だと考えたと説明」


下には、Japanese worried / See blow to Their Hope of driving America and Britain apartという記事もあります。 = 「日本側の懸念:米国と英国を分離する望みに対する打撃と見た」

この記事の直後に斉藤が出演した映画が写ります。

(トンラスクプトは以下の「長いエッセイの倉庫」にあります。
長いエッセイの倉庫)

★松岡と斎藤の英語のトランスクリプトはここにも再録します。2021・8・10

国際連盟大使 松岡洋祐  1933 1分56秒ほど
https://www.youtube.com/watch?v=W8PMGfioOuM

Announcer: ----, shortly after the League condemned Japan as an aggressive nation.
(French) Son excellence, Monsieur Matsuoka, delegue du Japan.
(English)

aggressive nation侵略国   condemn A as B:AをBとして非難する   Son excellence閣下(仏語)   delegue(デレゲ 仏語):派遣された人、代表

"It is a matter of common knowledge that Japan's policy is fundamentally inspired by the genuine desire to guarantee peace in the Far East and to contribute to the maintenance of peace throughout the world.

common knowledge:だれでも知っていること  fundamentally基本的に   inspired by:~によって基礎付けられている    genuine純粋な   guarantee保障する  the Far East極東   contribute to~に貢献する   maintenance維持 
   
"Japan, however, finds it impossible to accept the report adopted by the assembly, (and she has taken pains to point out that the recommendations in the report cannot be considered such as would secure peace in that part of the world.)

find it impossible to~を不可能だと思う   adopted採択された   the assembly(国連)総会


齋藤博駐米大使 1/2

二二六事件に際し 1936
以下のURLは、BBCの歴史番組"The Road to War"日本篇。客観的とは言えない部分もありますが、細かく区分けして教材として活用しました。22:56より
http://www.youtube.com/watch?v=yDv8NxGv9Yg

(NEWSREEL)
This cabinet in Tokyo fell victim to an attempt to seize power by part of the Japanese army. Admiral Okada, the prime minister, was shot by assassins in his home. The veteran Count Saito was also shot. This recent speech by his son, Ambassador Saito, has a dramatic significance.

news reelニュース映画(劇場映画の放映時に合わせて公開された)  fall victim to~の犠牲となる   attempt to inf.:~の試み   seize power:権力を掌握する  admiral(アミラル):提督   assassin暗殺者(アラビア語)  veteran:退役軍人   count伯爵   ambassador大使   significance意義

Japan is a spoiled child who may go astray any moment, who many run amok at the slightest provocation.

spoiled child:甘やかされた子供   go astray迷う  any moment今にも  run amok (= amuck)荒れ狂う   at the slightest provocationちょっとした挑発にも

齋藤博駐米大使 2/2

パネイ号事件に際し 1937

以下の動画の4分14秒あたりから斎藤が出演します。(もっと鮮明な画像もあるはずなのですが)

https://www.youtube.com/watch?v=eugh0QYNsGE

Title JAPAN APLOLOGIZEZ IN NEWS-REEL TO ALL UNITED STATES
Announcer: By official notes by press and radio to the news radio, Japan apologizes to America. Mr. Saito, Japanese Ambassador faces American public.

apologize to~に謝罪する

I am very sorry to receive the report that an American gunboat, Panay has been bombed and sunk by a Japanese naval airplane in the the Yangtze River above Nanking. It was a great mistake. It was an unintentional and unexpected occurrence. The Japanese government and people wish to express their sincerest and profoundest regrets to the American government and people on account of this deplorable incident. I have today called upon Secretary of states, Mr Cordell Hull to express Japanese regret.

gunboat武装船 bomb爆撃する   naval海軍の    the Yangtze River揚子江   above~の上流域での    unintentional意図せざる   unexpected予期しない   occurrenceできごと   sincerest最も誠実な   profoundest最も深い   regret後悔の念    on account of = because of = owing to = due to~が原因で   deplorable嘆かわしい   incident小事件(歴史上、盧溝橋の後に歴史につながるとみなされない小事件)  call uponを訪問する(現在、この意味ではあまり用いられない)  Secretary of States国務長官

斎藤博6