墨汁日記

墨汁Aイッテキ!公式ブログ

平成マシンガンズを読んで 153

2006-11-25 20:11:42 | 

「個性は伸びないなんて言いきっちゃっているんだけどさ。
 じつは、『広辞苑』には『個性を伸ばす』って用例がちゃんと書いてあるんだよ。でも、広辞苑に書いてあっても、俺がさっき言ったように伸ばせない個性がある以上は、個性が伸びると言うのはルール違反だと思うんだよね。
 だけど『個性を伸ばす』と言う時には、伸ばして良い個性だけを伸ばすらしい。誰が決めるんだろう伸ばして良い個性なんてもの。その個性が優れているとか劣っているなんていう基準はどこにもないと思うんだが」

「でも、先生が言ってる事なんだし、間違いじゃないはずだよ」

「そうだな。先生が言っているんだから間違いないかもな。
 たぶん、先生にとっては伸ばして良い個性以外は個性じゃないんだろう」

「ふーん」

「いま日本で普通に流通している『個性』の意味は2とおりある。
 1つは辞書に書いてある意味。
 『個の性質。他の個が持たないその個だけの特性』。
 辞書は日本語の『意味』のルール・ブックだ。ちゃんとした先生なら、このルール・ブックのルールを違反した言い方を生徒がしたなら注意してくれるはずだ。万が一にも自分がルール違反するなんて事はないだろう。
 2つめはファッション誌的な意味。
 『秋の個性を彩るあなただけのジュエリー』みたいな言い回しをされる」

「ファッション誌って、ニコラとかラブベリー、ハナチューとか?」

「なっ、なんだそれ?
 ハナチューってなんだ?」

「花の中学生って意味らしいよ」

「良くわからん。俺の言う女性向けファション誌って言ったら『通販生活』とか『ディノス』とかだ」

「それ、通販の雑誌じゃん。ファッションと違う!
 女性向けなら『ヴィヴィ』とか『ノンノ』とか」

「まぁ、そこらへんをイメージしてくれ。
 ところでファション誌ってやたらと『個性』って言葉が乱舞してないか?」

「そんな事ないよ」

「えっ?
 そんな事ないの?
 でも、街で見かける女性誌の広告って、やたらと『個性』って言葉が目立つような気もするけど。アレはなんなの?」

「あぁ、解った。死神の言っている女性ファッション誌って、おばさん向けの雑誌のことだよ。たしかにおばさんの雑誌には『個性』って言葉が多いような気がする」

「もしかして、個性って言葉にこだわるのは中年の証なのかぁ?」


平成マシンガンズを読んで 152

2006-11-24 20:44:05 | 

「それでだな。次は『自由な個性』なんてあり得るのっかって突っ込みたい。
 まず、このテーブルの上にあるテレビのリモコンを自由にもてあそんでほしい」

「え、どうやるの?」

「リモコンを手に取って、自由になでたり触ったりすればいい」

 私はリモコンを手に取りあちこちなでたり触ったりする。

「やってるよぉ!」

「それだっ! それが、自由だ。自分の力の及ぶ範囲で好き勝手にできる事が自由なのだ。
 次に、あの部屋の隅の重そうな仏壇を裏から表まで自由になでくりまわして欲しい」

「仏壇は無理だよ。持ち上がんないからリモコンみたいに自由にはなんない!」

「そう、普通の感覚では自分の力の及ばない事を自由になるとは言わない。個性は自分の力でなんとかなるものであろうか?
 いや、ほとんどの個性はどうにもならない。
 背の高さも、性別も、頭の良さも、自分の力だけでなんとかなるものじゃない。また、クセや性格もどういうワケだかそうなっちまったもんで、自分で意図的に選んだ物ではない。
 好きな科目、好きな趣味や特技なども、たまたま好きだったからそうなっちまったみたいなもんで、自由に選択した結果ではない。
 ゆういつ、自由に替えられる個性なんて髪型や服装ぐらいだが、それだって中学生なら親から与えられたお仕着せの服や制服からは逃れられないし、校則が厳しけりゃ髪型も自由にならない。
 そう、個性のほとんどは自分で選んだ物ではなく、そうなるしかなかったからそうなったものだ。そんなものを自由と呼べるか。
 すると、『自由な個性を伸ばす教育』とは、自由になる範囲の伸ばせる『個性』だけを教育しますって意味になる。
 それはとても狭い範囲の個性で、そうなるとそんなものが個性なのかと聞きたくなるし、そんな意味だとすると、その『個性』は日本語のルールに違反していると思う」


平成マシンガンズを読んで 151

2006-11-24 20:09:24 | 

「で、『自由な個性を伸ばす教育』という言葉は、日本語のルールを違反しているという話なんだが。そもそも個性って伸ばせるものなのかなぁ?」

「伸びるじゃん。ピアノが得意だったら、もっとピアノが上手くなればいいし、水泳で早く泳げるならもっと早く泳げるようになればいい」

「たしかにそういう個性なら伸ばせるが、個性ってそういうものなのか?」

「だって、伸ばすって言ってんだから悪い個性を伸ばすはずがないじゃん」

「悪い個性を伸ばすはずがないか、ところで誰がそんなルール決めたんだ。俺はそんなルールを聞いた覚えはないなぁ」

「え、なに言ってんの?
 だって、そういう風に理解しなけりゃ意味が解んないじゃん」

「うーん。まず、現在の日本で普通に流通している『個性』の意味のとらえ方は2種類しかない。その2つ以外の意味を認めるなら、『個性』という単語の意味はなんでもアリになってしまい、意味の特定が難しくなる。そうすると単語なんてものはそもそも記号にすぎないワケだから、日本人が共通に抱いている『個性』の意味はなしくずしに崩壊してしまう」

「どゆこと?」

「言葉の意味はなるべく厳密に、そして明確に使い分けないとなんでも言いあらわせる万能の言葉になってしまう。『個性』という単語を、その人の勝手で、便利に使いすぎると言葉の本来持つ意味はどんどん薄れて、幅広い概念を言いあらわすだけの言葉となり、最後には何も言ってないのと同じになる」

「ふーん」

「そうしない為にも、まず、個性って伸ばせるのかって事に突っ込みを入れたいと思う。だいたいにして、個性って数値化できるものだろうか?
 例えば、俺の個性は10000点で、木村みのりの個性は12点と言われて納得するか?」

「絶対しない。
 だいいち点数をつける基準が解んない!」

「だろ。個性なんかに点数をつける基準なんてどこにも存在しない」

「うん!」

「ちゅーことはだ、個性は他人と比べて伸びているとか伸び悩んでいるとか言えるもんじゃないという事だ。あくまで、過去の自分と比べたら伸びたような気もするかもってなもんだ。これを、前提1とする。
 次に前提2。個性の意味をあいまいにしない為に、辞書に書いてあった『個性』の意味でのみ話をしよう」

「うん」

「でだ。個性は色々ある。肉体的な特徴からクセや着ている服まで、そんなものまで全て含めた他人と違う性質が木村みのりの個性だ。ならば、『髪が長い』やら『読書家』とか『背が小さい』に『左利き』なんてのまで木村みのりの個性の一部だろう」

「私が左利きって良く解ったね」

「俺はなんでもお見通しだ!」

「でも、私はそんなに髪は長くないよ」

「俺と比べりゃ長い!」

 そりゃ、坊主刈りの死神と比べりゃハゲ以外は誰だって長いわ。

「私、そんなに背は低くないよ。背の順に並んでも真ん中より少し低いグルーブ辺りをいつもキープしてるし」

「俺よりはチビだ!」

 死神は常に自分基準だ。

「解った、私は髪が長くて背が低い」

「よーし良く認めた。これで、個性は肉体的な特徴までふくむという前提ができた。前提が出尽くしたんで、次に個性を伸ばしてみよう。
 まずは、髪の長い個性を伸ばしてくれ」

「いや、努力しなくても切らなきゃいくらでも髪はのびるから」

「次に、読書家の個性を伸ばしてくれ」

「うーん。もっと頑張ってたくさん本を読めばいいのかな」

「次は、背の低い個性を伸ばしてくれ」

「え?」

「え、ゆーなよ。伸ばせ」

「いや、身長は伸ばせるけど、チビだってことはこれ以上どうしようもない。足でも切るかな?」

「背が低い個性は伸ばせないんだな。最後に左利きの個性を伸ばしてくれ!」 

「どうやって!?」

「そうだな、左利きの個性は伸ばし方が分からない。
 とゆーように、個性には伸ばせない個性や、伸ばし方が分からない個性がある。
 他にも伸ばしちゃいけない個性だってある。
 性格だって個性のひとつだ。『切れやすい』とか『朝起きられない』とか『ネガティブ』なんてのも個性であるが、そんなものを伸ばしちゃいけない。
 ようするに『個性を伸ばす』と言う時には、伸ばしちゃいけない個性を除外して、伸ばして良い個性だけを伸ばすと言うんだよっていう暗黙のルールが存在してしまう。ずいぶん都合の良いルールだよな。個性にも色々あるのに」

「それはそうだね」

「辞書に書いてある意味を尊重するなら、個性とは個人の性質だ。個人の性質はいっぱいあって、良い個性も悪い個性も同時に持つ。伸ばして良い個性だけを、個性と言うルールはどこにもないと思うが」