「ではさっそく、『自由な個性を伸ばす教育』の意味を、辞書にのっとって置き換えてみよう。
『心のままにすることや思うとおりにすること、な、他とはちがってる特性、を、豊かに大きくする、おしえそだてる』。
これが標準的なとらえ方での『自由な個性を伸ばす教育』の意味だ。
言葉の意味を正確に解するなら、ようするに、『やや自分勝手な他にはない特性を増長させながら教えてさしあげますよ』と言っている。
だが、塾のスローガンなんだから、こんな意味じゃないだろう。たぶんこのコピーをつくった人はもっと清らかなイメージを抱いて『自由な個性を伸ばす教育』と言っているはずだ。ちゅーか、このコピーをつくった人はたぶん日本語を知らない人なんだろう、少し日本語を勘違いしている外国から来た英語の先生かなんかがつくったコピーなんだろうな」
「どゆこと?」
「そもそも、『個性』って伸ばしたり教育できたりするもんなのって疑問がある。ちゅーか『個性を伸ばす』って言い方は日本語として『ルール違反』なんじゃないのと思うんだが。
こっからは辞書的な意味を離れて、俺の考えになるが、俺は『個性』は伸びたり縮んだりしないと思うし、まして教育するものではないと思う。
ところで、のばしてしまえー!」
「もう笑わないよ。そう何度も同じ言葉じゃ笑わない」
「そうか。でさ、俺は思うんだ」
死神はいきなり、さも意味ありげに言う。
「何を?」
「のばしちまえー」
ウプッ。うわっは。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!